はいくる

「お梅は次こそ呪いたい」 藤崎翔

長く続く物語には、時に<転機>というものが訪れます。中には、いわゆる<サザエさん形式>でまったく変わることのない作品もありますが、これは割合としては少数派ではないでしょうか。視聴者や読者を飽きさせないため、何らかの変化が生じることの方が多いと思います。

この<転機>の形は様々ですが、代表的なものの一つとして挙げられるのが<パワーアップ>。登場人物が修行を積んだり新キャラクターに出会ったりした結果、新たな力を手に入れるというパターンです。漫画『NARUTO』や『ONE PIECE』等でも、主人公チームが修行期間を経てパワーアップするという展開が描かれました。それからこの作品でも、主人公(?)がパワーアップするんですよ。藤崎翔さん『お梅は次こそ呪いたい』です。

 

こんな人におすすめ

伏線たっぷりのホラーコメディが読みたい人

スポンサーリンク

お受験により追い詰められていく核家族、心身ともに困窮していく母子家庭、すれ違いの末に迷走状態の二世帯住宅、先の見えない恋に四苦八苦する男女、栄光と挫折を経て心が折れたシンガーソングライター・・・・・今度こそ、こいつらに地獄を見せてやる!新たな能力を得て、呪いの人形としての本領発揮を目指すお梅だが、そうは問屋が卸さない。なぜか、お梅が関わることで、次々状況は好転していき---――戦国生まれの呪いの人形が現代で奮闘(?)する姿を描く、傑作ホラーコメディシリーズ第二弾

 

『お梅は呪いたい』の続編が、満を持して登場です。本作では、たまたま出くわした呪いの武士人形から空中浮遊能力・胴体分離能力を譲られ、前作よりパワーアップ。広範囲の移動が可能になったという設定が、物語にうまく生かされていました。また、すぐ退場してしまいますが、この武士人形の次郎丸(名前)がなかなかいいキャラなので、いつかスピンオフが出てほしいです。

 

「間者童を呪いたい」・・・一人娘の小学校受験を控えた池村家に拾われたお梅。些細な諍いの積み重ねにより両親は破局寸前であり、これなら不幸にするのも容易いとほくそ笑む。ストレスを溜めさせ、喧嘩を増やし、首尾は上々。そしてついに受験当日がやって来て・・・・・

新たにゲットした浮遊能力に対し、「これって本当に役に立つの?」と首を傾げるお梅の姿が、おかしいやら、なんだか気の毒やら。子どもがお梅の持ち主になるというパターンはシリーズ初ですが、子どもの無邪気さとお梅のズレっぷりが、うまくハマっていました。なお、ここで登場する<あやのちゃん>は、今後の話でもちょこちょこ登場するので、覚えておくと「おっ」と思わされますよ。

 

「母子家庭を呪いたい」・・・お梅が次にやって来たのは、母子家庭の香取家だ。反抗期の長男と、障碍がある長女の育児に疲れ果て、母・直子は限界を迎えつつある。実は長男は、中学校でタチの悪い男子生徒に目を付けられ、財布扱いされていた。ここから香取家を切り崩せるかもしれない。お梅はこっそりと長男の鞄に忍び込み、中学校について行くのだが・・・・・

先の見えない育児に疲れ切ったシングルマザーの悲哀が切実で、読んでいて辛いと感じる読者も多いかもしれません。こんな状況にお梅が登場してくれると、もはや「待ってました!」とさえ思ってしまいます。ここで登場する長男の友人・宏樹が聡明で好感度抜群!これからも仲良く過ごしてね。それにしても、お梅。身に染みたと思うけど、猫のジャンプ力を甘く見ると痛い目に遭うよ。

 

「二世帯住宅で呪いたい」・・・アクシデントにより、お梅は谷元家にやって来た。ここは老母と娘家族が同居する二世帯住宅。主婦・良枝は夫や長女との関係がうまくいかず、同居する母親を心の拠り所としている。谷元家の歪んだ有様を見たお梅は、絶好の標的だと舌なめずりするのだが・・・・・

このシリーズには「お梅のおかげでコメディタッチに描写されているけど、実際は深刻だよね」という状況がしばしば登場します。その中でもダントツなのが、この話ではないでしょうか。なーんかおかしいなと思っていたけど、まさかお梅すらビビらせるほどの惨状だったとは(汗)真相発覚後、関係者がお梅(呪いの人形とは思っていない)に感謝しているところが、皮肉が効いていて面白いです。

 

「恋煩いで呪いたい」・・・レストラン店員の理香と常連客の裕太は、互いに想いを寄せ合いつつ、なかなか一歩踏み出せない。一方、自分の拾い主・裕太の葛藤を感じ取ったお梅は、この恋を破局させてやろうと目論む。うまくいけば、裕太を不幸のどん底に突き落としてやれるかも。そんな中、裕太と理香が二人で会う機会が訪れて・・・・・

『逆転シリーズ』等で培われた叙述トリックの腕前が、遺憾なく発揮された話でした。ちょっとややこしい部分もあるのですが、終盤、懇切丁寧に解説してくれているのでご安心を。オチを知った後で本編を読み返すと、面白さが増すかもしれません。あと、図らずも人助けしてしまったお梅が、人命救助を「人間にとって『下痢嘔吐』『財布紛失』『自宅全焼』ぐらい嫌な四字熟語」と例える箇所、めちゃくちゃツボでした。

 

「しんがあそん某を呪いたい」・・・一世を風靡するも今やすっかり落ち目となったシンガーソングライター・恭也。同棲している亜沙実との仲も行き詰っている。恭也に拾われたお梅の計画は、恭也の絶望を増幅させ、自殺に追い込むことだ。目論見通り、亜沙実の浮気を知った恭也は、ついに自殺を図ろうとして・・・・・

これまでちらほら出てきた<恭也>という芸能人が主人公です。前半、どん詰まりになっていく恭也の描写が痛々しく、このシリーズにしては重い・・・と思っていたら、やっぱりお梅がやってくれました。ようやく自殺に追い込めたはずの恭也が、なぜか思い留まりつつあると知って、「ねえ、そう(自殺する)だよね恭也。お願いだからそうだって言ってよ恭也」と語り掛けるお梅は、もはや恋する乙女のよう。ついに幸運の人形にまでなってしまい、人間を呪っても効果ないから自分の不運を呪う姿に噴き出してしまいました。

 

エピローグでは各話の登場人物達のその後が分かり、最後までスッキリと読み終えることができました。特に、ほぼ本筋とは無関係と思われたキャスター・沖原が、意外な形でラストに絡んでくる展開には、ニヤリとさせられること必至。お梅の旅はまだまだ続くようだし、第三弾が早くも待ち遠しいです。

 

<ぱわああっぷ>の使い方が上手い!度★★★★★

実は最後に念願叶っているんです度★★★★★

スポンサーリンク

コメント

  1. しんくん より:

     今、予約中で後一人です。
     2作目はさらに面白そうです。
     散々失敗を重ねてきたお梅が今度はどうなるのか?
     呪いの人形というより座敷わらしのように関わった人間を幸福にしていくようなイメージで楽しみです。
     繋がりも面白そうです。

     中山七里さんのアマゾネスシリーズ3作目の武闘刑事予約しました。
     7月末に東野圭吾さんのマスカレード・ホテルの続編、マスカレード・ライフが発売されるとネットで見ました。
     

    1. ライオンまる より:

      期待通りの面白さでしたよ。
      今回、お梅は最後の最後でちょこっとだけ本懐を遂げているんですが・・・相変わらず、空回りしまくりで噴き出してしまいました。
      「武闘刑事」、出ていましたね。
      あと、真梨幸子さんの殺人鬼フジコシリーズの新刊も出たようなので、読むのが楽しみです。

コメントを残す

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください