クリエイターに必要な能力は色々あります。その中の一つは発想力。読んで字の如く、物事をクリエイト(創造)するのが仕事なわけですから、アイデアが湧かなくては始まりません。私は先日、童話を創ってみる機会を得たのですが、まあ、全然アイデアが出ないこと出ないこと。頭に浮かぶのは聞いたことがあるストーリーばかりで、たった三十分足らずの時間だったにもかかわらずヘトヘトになってしまいました。一から何かを生み出せる方達って、本当に天才だなと思います。
当然ながら、このブログで取り上げてきた作家さん達にも、発想力は必要不可欠。その発揮の仕方も十人十色、それぞれ個性があって面白いです。中でも、この方の発想って、ユーモアたっぷりで大好きなんですよ。今日ご紹介するのは、藤崎翔さんの『オリエンド鈍行殺人事件』です。
こんな人におすすめ
どんでん返しのあるユーモア小説短編集が読みたい人
タイムスリップした男が知ってしまった意外な現実、ゲームキャラクター達が繰り広げる予想外の奮闘記、アイドルオタクが味わう光と闇、宿題が巻き起こす大騒動の行方、列車内で起きた殺人事件の驚くべき真相・・・・笑って泣けてひっくり返って。すべてが詰まった傑作短編小説集
『三十年後の俺』に続くノンシリーズ短編集です。このひねりの効き方、相変わらず藤崎翔節全開です。藤崎翔さんの発想の仕方って、一見ありがちなシチュエーションを予想外の方向に向かわせ、かつ、オチが見事に決まるから面白いんですよね。本作には短編とショートショートがそれぞれ五話ずつ収録されていますが、ショートショートは短すぎてネタバレに繋がりかねないので、ここでは短編のみご紹介します。
「タイムスリップ・リアリティ」・・・中堅作家として活躍する主人公のもとに、古い男友達が交通事故死したという知らせが届く。男友達は学生時代、野球の試合中の事故で片目に障碍を負っていた。あの怪我さえなければ、あいつは事故死なんてせずに済んだかも。悲嘆に暮れる主人公が一晩寝て目覚めてみると、なんと少年時代にタイムスリップしていた!訳は分からないものの、これは友人を助けるチャンス。主人公は早速行動を開始しようとするが・・・
世間のタイムスリップ作品に一石を投じる内容でした。まあ、三十歳の大人がティーンエイジャーに戻ったら、こうなる可能性が高いのかもな。当初の予定とは違う行動を取った主人公が、改めて幸せになる・・・と見せかけて、さらに一ひねりあるオチがインパクト抜群。人の二倍積んだ人生経験を、もう少し生かせれば良かったのにねぇ。
「勇者たちのオフ」・・・ゲームのキャラクター達には秘密がある。プレイヤーがゲーム中はそれぞれが作られたキャラを演じ、ゲームが終われば素に戻るのだ。予定通りのキャラを演じるのはしんどいものの、これが生業なのだから仕方がない。キャラクター達は懸命に役目を果たしていくが、ある日、プレイヤーの少年がぱったりゲームを開かなくなる。実はこの少年、現実世界で昏睡状態に陥ったせいでゲームができない状態であり・・・
プレイヤーがゲームを終えるや否や、演じていたキャラを捨て、素の状態になるキャラクター達が面白い!「~だわ」という古風な喋り方に文句タラタラの女性キャラに、やたら腰が低くて周囲に気配りする魔王・・・最高です。その一方、物語自体は王道をいくヒューマンストーリー。藤崎翔さんの作品としては珍しく、皮肉一切なしで爽やかな気分になれました。RPGゲーム、久しぶりにやりたくなってきたな。
「君のためなら死ねる」・・・公私共にどん詰まりで、人生お先真っ暗の主人公。そんなある日、偶然にも憧れのアイドル・美緒の自宅を見つけてしまう。美緒は、女優転身を目指すも上手くいかず、失墜寸前の状態だ。自分が美緒の部屋に侵入し、自殺を遂げたらどうだろう。これでマスコミの注目を浴びれば、彼女は芸能人として盛り返せるのではないか。意を決し、アイドルの部屋に忍び込んだ主人公は、そこでとんでもない物を発見し・・・
主人公、やっていることは立派な危険人物なんですが、「自宅で人が死ぬなんて彼女もショックだろうが、どうか今後の芸の肥やしにしてほしい」「親しい相手ならともかく、赤の他人でキモオタの自分なら、彼女のトラウマも少ないだろうし」と、妙に冷静に計算しているところが、おかしくもあり哀れでもあり。そこから怒涛の展開が続きますが、主人公は予想外に幸せそうだから良かった・・・のかしら??
「ファーブル昆虫記を読んで」・・・小学生・晴真の目下の悩み事は、宿題が全然進まないこと。読書感想文か自由テーマの作文、どちらか選んで書かなくてはないのだ。悩んだ末、売れない作家である<おじさん>に相談を持ち掛ける。<おじさん>のアドバイスを活かした結果、宿題は無事完了。この件を経てシングルマザーの母と<おじさん>はくっつき、三人で暮らし始めるのだが・・・・・
小学生が宿題に悩むというほのぼの感と、酒乱ダメ男の暴力によりどんどん家庭崩壊していく悲惨さの落差がものすごいです。藤崎翔さん、たまに容赦なく過酷な展開が描かれることがあるので、一対どうなるのかとハラハラしていましたが・・・あ、そういうこと(汗)皮肉たっぷりなオチに苦笑いしてしまいました。でも、序盤の出てくる読書感想文のコツは、実際に使えそうです。
「オリエンド鈍行殺人事件」・・・関東某所を走るローカル線、通称<オリエンド鈍行>。ある日、崖崩れにより緊急停止し、車内に乗客数名が缶詰状態となる。そんな中、客の一人が刺殺体となって発見された!状況からして、犯人が車内にいることは確実。ていうかこの状況、あの有名作品とそっくりじゃない?乗客たちはパニックを起こしそうになりつつも、犯人を推理するのだが・・・・・
題名から分かる通り、アガサ・クリスティー『オリエント急行の殺人』のオマージュです。作中、本家の真相について言及しているものの、登場人物が「〇ページの△行目までネタバレで、該当箇所には★マークを付けています。この話のオチには無関係だから、ネタバレ厳禁の人は読み飛ばしてね」と説明してくれるのでご安心を。喧々諤々とした推理を語り合う内、肝心の殺人ではなく、なぜか各自の悩み事ばかりどんどん解決していく展開が最高に笑えます。事件の謎もなかなか技巧を凝らしてあって、「ほほう」という感じでした。大部屋役者・・・なるほどね(笑)
まだ手元に届いてはいませんが、藤崎翔さんは本作の他に『冥土レンタルサービス』『ある謎解き作家の遺書』とどんどん新刊が出ているし、十二月には『お梅は呪いたいシリーズ』の第三弾も刊行予定とのこと。さらに、『お梅は呪いたい』は二〇二六年二月に舞台化もされるそうですね。今後も藤崎ワールドを堪能できそうで、今からわくわくしています。
伏線回収からオチまでの流れが最高!度★★★★★
読んでたら、つい吹き出しそうになっちゃいます度★★★★★







