<呪>。見ただけで不穏な気分になりそうな言葉です。日本という国は、<陰陽師><丑の刻参り>等が様々なカルチャーにさらりと登場することが示す通り、どこか陰気で湿った呪術の宝庫。創作界隈においても、先祖代々伝わる呪いがあったり、登場人物が呪い殺されたりという展開は数えきれないほど存在します。
しかし、成り立ちから考えると、<呪い>というのは必ずしも禍々しいものではありませんでした。そもそも<呪>という漢字自体、<神に仕える年長者(兄)が口にする言葉(口)>から発生しており、むしろ発展的・建設的な意味だったそうです。現代では負の側面ばかり強調されがちですが、かつては呪いで人の幸せや社会の向上を目指すこともあったのかもしれませんね。この作品を読むと、余計にそう思ってしまいます。今回は、藤崎翔さんの『お梅は魔法少女ごと呪いたい』を取り上げたいと思います。
こんな人におすすめ
・伏線たっぷりのホラーコメディが読みたい人
・『お梅シリーズ』のファン
行く先々で思惑に反して人々を幸せにしてしまい、地団太踏みっぱなしの日本人形・お梅。次こそは、次こそは、絶対に人間どもを不幸にしてやる!決意を新たにするお梅の前に、人の幸福を願う魔法少女人形・イライザが現れた!なりゆきでイライザから<幸福の人形仲間>と思われたお梅は一計を案じる。こいつを利用して人に近づき、不幸をばらまいてやればいい。むしろ幸福になりかけの人間の方が、不幸に突き落とされた時の絶望は深いだろう。そうして行動を開始するお梅だが、その道は前途多難で・・・・・認知症に向き合う老母と息子、横暴なコーチに立ち向かう少年、白けた気分で修学旅行に臨む高校生たち、すれ違い続ける芸能人一家、歪んだ関係を続けるホストと客。果たしてお梅は彼らを不幸にすることができるのか。大人気ホラーコメディシリーズ第三弾
すっかり藤崎翔さんの代表作と化した感のある『お梅シリーズ』も、本作で三作目。今回はお梅の相棒(?)として、魔法少女人形の<イライザ>が登場します。このイライザ、お梅とは反対に、人の幸福のため尽力するというキャラクター。そんなお梅に幸福の人形と勘違いされた挙句、意図せずして人を救い続けていくお梅の姿が、相変わらず最高に面白いです。イライザの、善良なようで、意外と毒舌かつ辛辣な性格も、所々で笑わせてもらいました。
「孝行息子を呪いたい」・・・お梅がイライザに頼まれて棲むことになったのは、一人暮らしを送る老女・光子の家だ。この老女、どうやら認知症を患っているらしく、近所に住む一人息子がこまめに様子を見に来ている。記憶が曖昧で、生活のあちこちに不自由が生じ、訪問ヘルパーの怪しい行動にも気づかない光子。よしよし、こんなか弱そうな老女なら不幸にするのも容易いだろう。お梅は早速、呪いの力を使おうとするのだが・・・・・
伏線の張り方の細かさ、クライマックスのどんでん返しの鮮やかでは、これが収録作品中一番ではないでしょうか。このシリーズの性質上、ただの認知症のおばあさん&孝行息子じゃ終わらないのだろうなと予想していましたが、こんな真相だとは思いませんでした。お年寄りが辛い思いをすることがなくて良かった良かった。
「さっかあ少年を呪いたい」・・・サッカーに打ち込む少年・雄大の家に身を寄せることになったお梅。雄大は補欠ながらサッカークラブの練習に勤しみ、ちゃらんぽらんな継父にうんざりしつつも家族中は良好。つけ入る隙がないと苛立つお梅は、ある日、雄大のサッカーの練習に同行することになる。そこで、対戦相手チームのコーチが、生徒達を口汚く罵倒し、暴力さえ振るう場面に遭遇し・・・
本シリーズ、子どもがメインの場合はものすごく後味スッキリで終わる傾向にありますが、この話は特に爽快感抜群でした。思春期らしい反発心を持ちつつ、素直で頑張り屋の雄大がすっごくいい子!クソコーチの振る舞いが本当にひどかった分、こいつがしっかり痛い目に遭ったことと、雄大の頑張りが報われたことがとても嬉しかったです。継父もいい人みたいだし、仲良くね。あと、昭和生まれのイライザが、体罰厳禁という令和の価値観をイマイチ理解していなかったところ、妙にリアリティを感じます。
「修学旅行を呪いたい」・・・修学旅行中の高校生グループに拾われたお梅とイライザ。お梅が同行することになったのは、クラスのカースト最下位の生徒達が集められたグループであり、空気は白ける一方だ。移動中のタクシー内に嫌な雰囲気が充満していることを察したお梅は、これ幸いと邪念を送り、不満を増大させてやる。すると、なんとタクシー運転手が意外なことを言い始め・・・・・
第二話同様、これも読後感爽やかな秀作でした。仲が良いわけでない、ただ寄せ集めでできたグループが、それぞれ楽しみを見つけて充実した時間を過ごし、最後は打ち解ける流れは清々しいの一言。タクシー運転手さんもいい仕事してくれますね。彼の会話に、ちらりと前作の登場人物の名前が出てきた時は、なんとなく嬉しかったです。
「とっぷすたあを呪いたい」・・・今度のお梅の棲家は、俳優兼シンガーソングライター・車谷龍人と、その妻子という家庭だ。妻は出会った頃と変わらず龍人を愛し続けるも、当の龍人は地位に溺れ、家族を蔑ろにして不倫に耽る日々。これならば、不幸にするのも容易ではないか。お梅はほくそ笑むが、事態は予想外の方向に転がり始め・・・
前の話で、タクシー運転手がちらりと口にした有名芸能人・車谷龍人が登場します。傲慢な龍人が報いを受けるのは自業自得だけど、健気な妻子には辛い思いをしてほしくない・・・と思ったら、妻の意外な逞しさにより、収まるべきところに収まってしまいました。長い目で見たら、この方が幸せなのかもしれませんね。イライザが、龍人の不倫相手に対し、ぼそりと過激な発言をする下りが結構ツボでした。
「理解不能男女を呪いたい」・・・体を売ってまで悪質ホストに貢ぎ続ける女に拾われたお梅とイライザ。このホストは性悪だが、女も女でどうかしてるんじゃないか?理解不能な関係だと首をひねりつつ、お梅は不幸を呼ぶ機会を虎視眈々と狙い続ける。どうやらこのホストに貢いでいる女は、他にもいるようなのだが・・・・・
公式あらすじに<オカルトハートフルコメディ>と書いてあるだけあって、このシリーズは基本的にコミカル。悪人が報いを受ける場面もどこかユーモラスなのですが、この話は別です。終盤の火災シーンの壮絶さたるや、作品が変わったと言われても通じそうなほどでした。まあ、ホストは本当に悪辣な奴なので、因果応報なんですけどね。搾取されていた女性達も、どうにか前を向けそうで安心しました。
この後の「えぴろをぐ」で、各話の登場人物達のその後と、お梅&イライザのやり取りが描かれます。ここももちろん面白いのですが、さらに秀逸なのは、最後にシリーズ第四弾およびイライザ主役のスピンオフの予告が入っているところでしょう。第四弾はなんとなく出そうな予感がしていたけど、スピンオフの構想まであるなんて、嬉しい驚きです。本作がたくさん売れて、構想が実現しますように!!
このシリーズ、百刊くらいまで続いてほしい度★★★★★
伏線の張り方&回収の仕方が絶妙です度★★★★★






