夫婦関係を続けるに当たって、一番大事なものって何でしょうか。恋愛感情?信頼関係?経済力?聞く人ごとに、違った答えが出てきそうです。
そして、夫婦生活を考える上で切っても切り離せないのが、ズバリ、セックス問題。もし、夫婦間で性生活がなくなってしまったら?答えの出ないセックスレス問題について描いているのが、柚木麻子さんの「奥様はクレイジーフルーツ」です。
アクセサリーデザインの仕事は順調、雑誌編集長の夫は温厚で誠実、姑にも可愛がられ、気の置けない友達もいる・・・・・悩みはただ一つ、セックスがないということだけ。五歳年上の夫とのセックスレスに悩むヒロインが、欲望や妄想と戦いつつ活路を見出そうとあがく姿を描いた連作短編集です。
柚木麻子さんらしい、女性の本音がコミカルに炸裂する本作。セックスレスで欲求不満になるあまり、義弟や近所の浪人生、乳がん検査で触診する女医にまでムラムラしてしまうヒロインなんて、なかなかお目にかかれません。そこを決して卑猥に感じさせず、同性でもクスリと微笑んでしまう場面に仕上げてしまう辺り、さすがと唸らされました。
とはいえ、コミカルなようでいて、本書で取り上げられる問題はなかなか深刻です。ヒロインと夫は愛し合っていて、今なお外出中は手を繋ぎ、一緒に入浴するほど仲良しこよし。にもかかわらず、夫はセックスを避け、たまに色っぽい雰囲気になったかと思いきや、妻に乳がん検査を勧め出す・・・これはヒロインじゃなくとも爆発したくなるでしょう。決してセックスしない夫から、おっとりと「いつか子どもができるといいね」と言われ、ヒロインが唖然とする場面など、女性読者ならついつい感情移入してしまうのではないでしょうか。
この手のテーマを創作物で扱う場合、どうしてもじっとりどろどろとした作風になりがちですが、本作はとても小粋な雰囲気で読みやすいです。どの話もとても短いですし、一話ごとに「西瓜」「蜜柑」「グレープフルーツ」などテーマとなる果物が登場していて、これがまたものすごく美味しそう!こういう小道具のおかげか、現実感たっぷりの切ない物語も、明るい気持ちで読み進めることができました。
結局のところ、夫婦の在り方は十人十色。唯一絶対の正解などないのでしょう。物語の中で、ヒロインと夫は時に寄り添い、時にぶつかりながら、自分達なりに夫婦として生きていく道を模索します。パートナーがいる方は一緒に読み、読了後、夫婦生活について話し合ってみるのも面白いかもしれませんね。
夫婦って一筋縄ではいかない度★★★★☆
やっぱり話し合いが大事だね度★★★★★
こんな人におすすめ
・夫婦の悲喜こもごもをテーマにした小説を読みたい人