私は九州人ということもあり、子どもの頃から方言が身近に存在していました。成長後、地元を離れた時、標準語だと思っていた言葉が実は方言だと知って驚いたり、話し言葉から同郷出身者が分かって何となく嬉しかったりと、方言にまつわる思い出も結構あります。そう言えば、メダカは理科教育が広がるまで<メダカ>という統一名がなく、方言による呼び名が日本全国に五百個近くあると知った時は衝撃だったなぁ。
作中に方言が出てくる小説もたくさんあります。ぱっと思いつくのは、坂東眞砂子さんの『狗神』と、瀬尾まいこさんの『戸村飯店青春100連発』。前者は陰惨な土着ホラー、後者は後味爽やかな青春小説ですが、どちらも方言がうまく使われていました。小説で方言が使われると、標準語より感情が表れやすい分、暗い作風はより陰気に、明るい作風はよりユーモラスになる気がします。先日読んだ小説でも、方言がいい仕事をしていましたよ。佐藤青南さんの『ある少女にまつわる殺人の告白』です。
こんな人におすすめ
・児童虐待をテーマにした小説に関心がある人
・インタビュー形式の小説が好きな人
本当の罪人は一体誰なのだろうか---――かつて一人の少女が味わった、虐待という名の生き地獄。時を経て、とある人物が当時の出来事について知るため、関係者達を訪ね歩く。児童相談所の元所長、教師、同級生、同僚、幼馴染、そして母親。彼らの証言から、少女のあまりに悲惨な人生が浮かび上がる。最後にインタビュアーの正体が明らかになった時、読者を待つ悲しい真相とは果たして・・・・・二〇一一年『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞に輝いた、鮮烈なるデビュー作
佐藤青南さんと言えば、映像化もされた『行動心理捜査官・楯岡絵麻シリーズ』の方が有名かもしれませんが、私は断然本作の方が印象に残っています。児童虐待という深刻かつ残酷なテーマもさることながら、嫌になるくらい丁寧な登場人物達のキャラ描写といい、ラストまでの鮮やかな畳みかけ方といい、デビュー作と思えないほどの完成度です。デビュー作でこれほどのものを書くとは、佐藤青南さんって一体何者!?と思ったところ、前身はミュージシャンと知って余計に驚きました。
かつて長崎の町で、亜紀という少女が被害に遭う、悲惨な児童虐待事件がありました。事件は壮絶な形で幕引きがなされ、それから長い年月が流れます。十年後、一人の男が当時の関係者を訪ねて回り、亜紀の虐待事件について話を聞いていきます。司法の壁に阻まれなかなか動けなかった児童相談所の元所長、大人びた亜紀への苦手意識から虐待の兆候を見逃した教師、亜紀へのいじめを見て見ぬふりしていた同級生、亜紀と同じ時期に児童相談所に保護されていた被虐待児、内縁の夫の暴力を止められなかった亜紀の母・・・・・彼らの証言から浮かび上がる、十年前の真実。果たして、事件の陰には何が隠されているのでしょうか。そして、今になって事件を調べる男の正体は何者なのでしょうか。
イヤミス大好き、大抵のホラーもグロも平気な私が、読んでいて辛いと感じる数少ないテーマの一つ、それが児童虐待です。本作の場合、亜紀への虐待は過去の出来事として描かれますが、それでも悲惨さはまったく薄れません。亜紀が受ける肉体的精神的な傷はもちろんのこと、周囲の大人が虐待に気付きつつ助けられない・助けないという描写が辛くて辛くて・・・虐待から逃れるチャンスはあったのに、大人のせいで逃れられない亜紀の境遇が哀れで仕方ありませんでした。
そんな陰鬱な空気を、作中で多用される長崎弁がより強めています。本来は明るく人情味たっぷりに聞こえるであろう方言で語られる、許し難い暴力の数々。方言の影響か、登場人物達の生臭さや業の深さが一層生々しく迫ってくるようでした。調べたところ、佐藤青南さんは長崎県出身なんですね。慣れ親しんできただけあって、方言を使った描写が巧みです。九州の方言に慣れていない読者にはちょっと違和感があるかもしれませんが、意味が読み取りにくいほどではないのでご安心ください。
そしてもう一つ、本作の大きな特徴は、貫井徳郎さんの『愚行録』や湊かなえさんの『告白』と同じく、インタビュー形式で進んでいくことでしょう。文章はすべて登場人物達の話し言葉であり、いわゆる<地の文>が一切出てきません。これにより物語から客観性がなくなり、すべては語り手の主観によるものとなります。多くの者が亜紀を哀れな被害者と見る一方、中には彼女と関わりたくなかったと語る者もいます。亜紀に虐待を行った男を、卑劣なDV男だと非難する者が多い反面、彼もまた親からの虐待の被害者だと語る者もいます。これらの証言が積み重なり、結末に結び付く流れには脱帽させられました。こういう形式は、つくづくミステリーやサスペンスにぴったりですね。
ところで、小説としては結構珍しいのですが、本作には作者公認のCMが存在します。今はYouTube等で見ることができますが、物語の不穏さを的確に表現していてなかなか印象的。どんな話なのか気になる方は、ぜひ視聴してみることをお勧めします。
お願いだから子どもを巻き込まないで!!度★★★★★
あまりにも残酷などんでん返し・・・度★★★★★
佐藤青南さんは楯岡絵麻シリーズ以来です。
マイミクさんにもファンが多いですがあまり読みませんでした。
児童虐待に独白形式は、まさに湊かなえさんの世界観です。
関西から福岡県の大学に進学した時、博多弁以上に広島と沖縄の言葉が印象的です。
社会人になっても関西に勤めていても九州の人が多く馴染みがあります。
実家は岡山県に近いので播州弁と言って、関西弁より岡山県の言葉に近いようです。
湊かなえさんの『告白』が好きな方なら、きっとハマる内容だと思います。
シリーズ物が多い作者さんですが、私はノンシリーズの方が好きなんですよ。
私も一時期、関西人が多い職場で働いていましたが、一番しっくりくるのは九州の方言ですね。