登場人物の証言形式で構成された話、大好きです。有名なところでは、湊かなえさんの「告白」や宮部みゆきさんの「理由」、このブログでも紹介した貫井徳郎さんの「愚行録」などがありますね。語り手が変わるごとに二転三転する展開に、ついついのめり込んでしまいます。
小説の世界において、このように語り手によって読者をミスリードする手法のことを「信頼できない語り手」といいます。今日は、私がお気に入りの「信頼できない語り手」作品をご紹介しましょう。六十歳まで弁護士として活躍、リタイア後に作家デビューを果たした深木章子さんの「鬼畜の家」です。
母親と兄を事故で亡くし、一人取り残された女性・北川由紀名。保険会社による保険金出し渋りに悩まされる由紀名のため、元刑事の探偵が調査に乗り出す。その結果、明らかになっていく一家の秘密。父親の突然死、不審な事故と保険金、謎だらけの長女の死。母親と兄をも亡くした今、天涯孤独となった末娘は何を語るのか。探偵が辿りついた、家に棲みつく「鬼畜」の正体とは。
基本、あらすじや評価をチェックしてから読む本を決める私が、珍しく表紙に惹かれて手に取った作品です。「鬼畜の家」というタイトルからしてグロテスクなホラーを連想しがちですが、本作は叙述トリックが仕掛けられたミステリ。それも私好みのイヤミスで、新たなお気に入り作家を見つけたと小躍りした記憶があります。
物語の中心となるのは、両親と二人の娘、一人の息子から成る北川家。この一家の崩壊っぷりがまず怖い。医者であった父親は不審死を遂げ、育児放棄される次女を引き取った親戚夫妻は火事により死亡、唯一の良心と思えた長女もベランダから転落死、そしてその陰では必ず保険金や賠償金の支払いが・・・どうです、イヤミス好きの心をくすぐる設定でしょう。
本作のポイントはやはり、一部分を除いて登場人物たちの証言という形で物語が進んでいく点ですね。語り手が変われば真実も変わり、どの話にも微妙な食い違いがあります。果たして真相はどこにあり、生き残りの女性が語る「鬼畜」の正体は何なのか。基本、聞き手である元刑事が口を挟む記述もないため、読者はまるで自分が探偵役を務めているような気分で物語に没頭することができます。
作者が元弁護士というだけあって、養子縁組等、法律問題に関する描写は緻密そのもの。後半には怒涛のような伏線回収とどんでん返しが待ち構えていますし、おどろおどろしいタイトルの割に、猟奇的な要素は薄いです。王道を行くイヤミスが読みたい方にお勧めですよ。
本当の鬼畜は誰なんだ度★★★★☆
子どもを犠牲にしちゃいけないよ度★★★★☆
こんな人におすすめ
・証言形式のミステリーを読みたい人
・法律問題を扱った小説に興味がある人