何らかの事件が起こった際、ニュースに以下のフレーズが出てくることがしばしばあります。「精神鑑定の結果を踏まえ、その他の証拠を総合的に考慮した上で・・・」「被告の精神鑑定を行った医師に尋問を行い・・・」。この<精神鑑定>とは、裁判所が被告人等の精神状態・責任能力を判断するため、精神科医といった鑑定人に命じる鑑定の一つ。結果如何によっては裁判所の判断が大きく変わることも有り得る、重要な行為です。
何かと賛否両論を巻き起こしがちなテーマですが、それだけ世間の関心を集めるだけあって、精神鑑定が登場するフィクション作品もたくさんあります。私の場合、強烈に印象に残っているのは日本映画『39 刑法第三十九条』。練られた脚本といい、堤真一さんや鈴木京香さんら俳優陣の熱演といい、何年経っても忘れられない名作です。小説では、山田宗樹さんの『鑑定』も、発想の活かし方が面白かったですよ。先日読んだ小説でも、精神鑑定が大きな役割を果たしていました。知念実希人さんの『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』です。
こんな人におすすめ
モキュメンタリ―ホラー小説が好きな人
お前を、ずっと、見ているぞ---――精神科医・上原香澄が語る、多数の犠牲者を出した大量殺傷事件。犯人の男は、香澄との面接中に錯乱し、自殺を遂げた。なぜこれほどの惨事が起きてしまったのか。犯人が死の直前まで恐れていた<ドウメキの瞳>とは一体何なのか。香澄はこの事件に尋常ならざるものを感じ、密かに調査を開始する。不気味な怪文書、お札で埋め尽くされた窓、廃れたニュータウンで囁かれる<ドウメキ>の噂、相次ぐ不審死、かつて水面下で行われていた非道な人体実験・・・迷走の末、香澄は一体何を見るのか。医療ミステリーの名手が贈る、戦慄のモキュメンタリーホラー
知念実希人さんが昨今大人気のモキュメンタリ―に挑んでくれました。医療ミステリーのイメージが強い作家さんなのでちょっと意外・・・と思いましたが、蓋を開けてみれば、知念実希人さんのリアリティ溢れる筆致とモキュメンタリ―というジャンルがハマることハマること。現役医師なだけあって、医療分野に関する描写も臨場感たっぷりでした。
都内にて、フリーライターの八重樫信也が斧を振り回して通行人を襲撃。死者十一名、重軽傷者十七名という大事件が発生します。医師・上原香澄は、この事件において八重樫の精神鑑定を担当することになりますが、八重樫はたびたび異常な興奮状態に陥った末、謎の言葉を残して自殺を遂げました。八重樫がひどく怯えていた<ドウメキの瞳>とは一体何のことなのだろう。大量殺人犯とはいえ、患者をみすみす死なせてしまったことに責任を感じた香澄は、事件について単身調べ始めます。調査が進むにつれ、八重樫が常に視線に怯え続けていたこと、ニュータウンで囁かれた<ドウメキ>の噂を記事にした過去があること、かつて<ドウメキ>に関する大量の不審死事件が起こったことが判明。さらに調べ続ける香澄ですが、やがて彼女自身も謎の視線を感じるようになりました。果たして、香澄は<ドウメキの瞳>の魔の手から逃れ、真相を暴くことができるのでしょうか。
本作は、香澄が自身の異様な体験をインタビュアーに語る対談パートと、香澄が<ドウメキ>について調べる取材パートの二つで構成させています。主軸は対談パートだと思いますが、モキュメンタリー好きなら、恐らく取材パートの緻密さが刺さるのではないでしょうか。記事、診断書、間取り図、写真、手書きの絵、メール等がふんだんに使われている上、それらに伏線がしっかり仕込まれています。中には、単体ではなく複数を同時に使うことで意味を成す資料もあって、物語にのめり込ませてくれることこの上なし。この手の資料が大・大・大好きな私は、つい対談パートそっちのけで資料部分だけ先読みしてしまいたくなりました。一応言っておくと、終盤、本作最大のネタバレがでかでかと書かれたページがあるので、先読みに関しては本当に本当にご注意ください。
あと、ゴリゴリの怨霊系ホラーと思わせて、ヒトコワ要素もちゃんと込められているところもいいですね。この辺りの描写は、まさに医師である知念実希人さんの面目躍如。怪事件と医療分野の結び付け方が上手く、「まさか本当にこんなことが起こったのでは・・・?」と不安になってしまうほどでした。ただ、後半に進むにつれてホラーというよりはサスペンス・ミステリー要素が強くなるので、化け物が無双するオカルトホラーを期待しているとちょっと物足りないかもしれません。
ちなみに本作は、『スワイプ厳禁 変死した大学生のスマホ』という中編の続編です。未読でも大きな問題はないのですが、『スワイプ~』の事件も含めて、本作で謎解きが行われるという流れなので、読んでいると「おっ」となると思いますよ。私は『スワイプ~』を読んだのがずいぶん前のため細部を忘れてしまったので、改めて再読してみたいです。
きっと視線が怖くなる度★★★★★
警告文の活かし方が絶妙です度★★★★★







