はいくる

「拷問依存症」 櫛木理宇

フィクションの世界には、<ダークヒーロー>というキャラクターが存在します。読んで字の如く<闇のヒーロー>のことで、正義と相対する立場ながら確固たる信念を持っていたり、悲劇的な過去ゆえに悪側になってしまったり、違法な手段を使いながら人を救ったりするキャラクターを指します。例を挙げると、映画『スターウォーズシリーズ』のダース・ベイダーや、大場つぐみさん原作による漫画『DEATH NOTE』の主人公・夜神月などですね。これらのキャラクターは、どうかすると正義側の主人公より人気を集めることもあったりします。

では、ダークヒーローと、ただの悪党の違いは何でしょうか。もちろん、法律上の定義などはありませんが、一般的には、何らかの背景なり美学を持ち、人を救うこともあり得るのが<ダークヒーロー>、目先の利益に溺れるのが<小悪党>という分け方をされている気がします。闇側の存在とはいえ、<ヒーロー>の名を冠するからには、ちんけな小物ではダメということでしょう。それならば、果たして今日ご紹介する作品の登場人物は、ダークヒーローといえるのでしょうか。今回は、櫛木理宇さん『拷問依存症』を取り上げたいと思います。

 

<こんな人におすすめ>

・報復をテーマにしたイヤミスに興味がある人

・『依存症シリーズ』が好きな人

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さあ、次は、お前の番だ---――廃ホテルの中から、男性のものと思われる遺体が発見される。遺体は全身を破壊し尽くされていた上、それらの残虐行為はすべて被害者の生前に行われたことが判明。これは殺人というより拷問だ。捜査班に入った高比良刑事は慄然としつつ、全力で犯人を追い始める。だが、同様の手口で殺害された遺体が新たに発見され・・・・・果たしてこれらの事件の陰には<あの女>がいるのだろうか。果てしない悪意と後悔の連鎖を描くイヤミスシリーズ第四弾

 

恐らく櫛木作品の中でもトップクラスの残酷さであろうこのシリーズも、あっという間に四作目。本作も例外ではなく、イヤミスにはそれなりに慣れているはずの私ですらおののくレベルのグロさです。にも関わらず、文章がとにかく上手いので読んでしまうんですよね。文庫としては結構なボリュームでしたが、ダレることなく一気読みできました。

 

都内の山中に建つ廃ホテルの屋内で、男性の全裸遺体が発見されました。遺体は眼球をえぐられ、歯が抜かれ、指は切断され、性器まで破壊されるという酸鼻を極めるもの。検視の結果、これらの破壊が、被害者の生前、意識がある状態で行われたということが判明し、本庁捜査員の高比良は嫌な予感を覚えます。その後の捜査により、被害者の身元と、生前起こしたトラブルが明らかになりました。甘えん坊で優しかったという被害者・鈴木は、ある時期を境に言動が変わり、交際中の女性を肉体的・性的に痛めつけて病院送りにしていたのです。無害な青年だったはずの鈴木に一体何があったのか。犯人逮捕を急ぐ捜査陣を後目に、鈴木と交流があったと思しき元会社員・佐田が遺体となって発見されます。その死に様は、鈴木と同様、意識のある状態で体を破壊し尽くされるという酷いものでした。ここで、一連の事件が連続殺人である可能性が浮上。高比良は、ある予感と覚悟を胸に抱いたまま捜査に邁進するのですが・・・犯人の手は、すでに次の標的に届いていたのです。

 

一作目は<殺人>、二作目は<残酷>、三作目は<監禁>ときて、四作目に当たる本作は<拷問>。タイトル通り、作中には拷問としか思えない方法で殺された被害者が登場します。所業の残忍さで言えば一~三作目も負けていないのですが、これらが面白半分だったり復讐目的だったりしたのに対し、本作のテーマは<拷問>です。そこに余計な感情はなく、「必要な作業だから、淡々とやった」感が漂っていて、グロさ以上に寒々しさのようなものを感じました。

 

ただ、<残酷依存症><監禁依存症>同様、被害者達がどいつもこいつもロクデナシだということもあり、意外とすんなり読めてしまうんですよ。こいつらが何をしたかというと、表紙にも記載してあるので書いてしまいますが、犯罪レベルのAV撮影です。現実に起きた<バッキー事件>を彷彿とさせる、女優への強姦・拷問行為の数々は、胸糞悪いの一言。女性蔑視の思想描写も非常に醜悪で、読んでいて動悸が激しくなってくるほどです。真相が分かってみれば、被害者達への破壊行為もすべて計算されたものだったことが判明し、「ああ、それで・・・」と奇妙に納得させられてしまいました。これらの真実が、高比良らの捜査陣、行きずりの女子大生と同居生活を始めた<ミサ>という女性、とある場所にカウンセリングに訪れた元刑事、監禁されてスナッフフィルムの編集作業を強いられる男の四パートで徐々に明らかになっていく構成も上手かったです。さらに、プロローグとエピローグにSNSのやり取りが載っているのですが・・・・・すべてが繋がった時、この巧妙な筆致に驚かされると同時に、あまりの救われなさに暗澹たる気持ちにさせられました。

 

そして、このシリーズを語る上で忘れちゃいけないのが、逃亡中の殺人犯・浜真千代の存在です。<残酷依存症><監禁依存症>では、被害者達のあまりの外道っぷりに、凶悪犯にも関わらず必殺仕事人的な存在感を発揮していた浜真千代。ともすれば彼女をダークヒーローと捉えてしまいそうですが、本作では、浜真千代本人がそれをきっぱり否定しています。結果的に悪人を始末することになったとしても、彼女が動くのはあくまで自分の欲望のため、実益のため。現実の人間としては当然アウトなものの、フィクションの登場人物としては、これくらい突き抜けた絶対悪の方がいい気がします。できれば浜真千代には、中途半端な人間味など見せず、極悪人として裁かれてほしいものです。

 

櫛木理宇さん本人が「『依存症シリーズ』は五部作」と明言されているので、予定通りなら、次に出るのがシリーズ最終巻ということになります。果たして浜真千代は裁かれるのか。彼女と関わってしまった浦杉や高比良に救いはあるのか。架乃は無事に帰ってくるのか。気になることが山積みです。他にも執筆予定の作品が色々あるのでしょうが、できるだけ早い刊行をお願いします!!

 

この連中は恐らく氷山の一角・・・度★★★★★

精神状態が元気な時に読むのをおススメします度★★★★★

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