古来より、放火は非常に重い罪として扱われてきました。理由は色々ありますが、その最たるものは、社会及び被害者に与える被害が甚大だからでしょう。マッチ一本の火が、最悪、町一つを焼き尽くしてしまうことだってあり得ます。日本の場合、一昔前は木造建築が主流であり、火災の影響を受けやすかったことも関係していると思います。
そうなると当然、放火をテーマにした小説は、のんびりユーモラスなものにはなり得ません。この記事が投稿された時期を考えると、二〇二三年七月にドラマ化された池井戸潤さんの『ハヤブサ消防団』を思い浮かべる人が多いかな。<放火>から<火災>まで範囲を広げると、若竹七海さんの『火天風神』も迫力たっぷりのパニックサスペンス小説でした。今回ご紹介する作品にも、火にまつわる悲惨な事件が出てきます。櫛木理宇さんの『業火の地 捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎』です。
こんな人におすすめ
放火事件を扱ったサスペンスに興味がある人
この炎から逃れることはできるのか---――静かな町で起こった連続放火事件。鳥越恭一郎ら捜査陣を嘲笑うかのように犯行は続き、ついには複数の死者を出す大惨事まで起きてしまう。相棒である鴉達の手を借り、捜査に臨む鳥越の脳裏には、ある予感が浮かぶ。「この事件の背後には、何かある」・・・・・住民の間で物議を醸す再開発計画、絡み合う人間関係、すべての発端となった過去の放火事件。果たして鳥越は、すべての謎を解き、犯人を逮捕することができるのか。人気ミステリーシリーズ第二弾
『灰いろの鴉』に続く、『捜査一課強行犯係・鳥越恭一郎シリーズ』の二作目です。老人問題がテーマだった一作目に対し、本作で扱われるのは連続放火事件。事件自体の悪質さもさることながら、過去の因縁や濃密な人間関係との絡め方が巧妙で、ハラハラしながら一気読みしてしまいました。一作目同様、残虐な監禁・拷問シーンがないこともあり、櫛木理宇さんの著作の中でも読みやすい部類だと思います。
鳥越恭一郎ら強行犯第三係の面々が今回捜査することになったのは、町村合併によりできた町で頻発する連続放火事件。当初こそ人的被害はゼロだったものの、犯行は次第にエスカレートし、ついに七人もの死者を出す大惨事が発生します。懸命な捜査の結果、町は再開発計画を巡って割れていること、四十五年前に起きた連続放火事件の余韻を今なお引きずっていることが判明します。それは、町のヒーローだった消防団員の青年が、実は注目と尊敬を集めるため自作自演で放火を繰り返していたという事件でした。犠牲者こそ出なかったものの、この事件により多くの人間の人生が狂ったことを知る鳥越。彼は、今回の事件の根底には、四十五年前の事件が密接に絡んでいると直感します。頼れる相棒・鴉達の協力を得て、鳥越は事件の真相に迫っていくのですが・・・・・
まず最初に言っておくと、本作は一作目『灰いろの鴉』と比べると、インパクトという点ではやや劣るかもしれません。鳥越自身の過去や家族関係ががっつり関わっていた『灰いろの鴉』に対し、本作はスタンダードな刑事ミステリーだからでしょうか。前述した通り、櫛木作品にしてはグロテスクな暴力描写が少ないところも、本作のあっさり感に拍車をかけている気がします。
ただ、鳥越のアイデンティティに関わる描写は少なくなった分、刑事・鳥越の魅力はたっぷり描かれていました。初対面の人間が目を見張るレベルの美形で、孤独な本性をお調子者の仮面で隠すムードメーカー。彼が自分のルックスと話術を使って捜査を進めるシーン、特殊能力で鴉達と協力し合うシーンは、前作以上に面白かったです。今回は鴉(終盤の襲撃シーンは圧巻!)だけでなく、ペアを組む若手刑事の四谷や、捜査上で知り合ったゲイバーのママとのやり取りも読み応えありました。特にこのママ、酸いも甘いも嚙み分けた苦労人っぽいキャラがかなり好印象だったので、今後も鳥越の協力者として登場してほしいです。
こういう軽妙さがあるせいであっさり目に感じられるのかもしれませんが、肝心の放火事件の真相は残酷なものでした。許されない罪を犯したことは事実にせよ、火に憑かれ、火から逃れられなかった犯人が哀れで・・・犯人を凶行に駆り立てたのが私利私欲ではなく、代々続く生臭い因習だったという点が、なんともやるせなかったです。こんなことになる前に、全部捨てて逃げ出すことはできなかったのかなぁ。
ちょっと残念だったのは、『灰いろの鴉』で鳥越と気になる別れ方をした伊丹のその後があまり分からないところです。一瞬ちらりと登場したものの、まだ互いに葛藤があり、腹を割って話し合うことはできない様子。次作では、伊丹にもしっかり物語に絡んでほしいですね。あのゲイバーのママの仲介があれば、時間はかかっても打ち解けられるような気がするんですが、どうでしょう?
親から逃げて良かったんだよ!と言ってあげたい度★★★★★
エピローグの真相が胸を刺す・・・度★★★★★
1作目に比べてソフトで読みやすいと感じました。
鳥越のキャラクターが際立っている分、放火という残酷極まりない犯罪も距離を置いて読めたような気がします。
鴉との連携も素晴らしい。
ゲイバーのママとのやり取りも人間味があり良かったです。
ソフトだったせいかあらすじを忘れてしまったようなので再読したいです。
東野圭吾さんと中山七里さんの新作予約中です。
一般的なサスペンス小説としては十分ドロドロした内容なのですが、櫛木理宇さんの作品となると、かなりマイルドに感じられますね。
相変わらず有能な鴉が素晴らしい!
森絵都さんの「獣の夜」が届きました。
今は山口恵以子さんの新刊の到着を待っています。