日本には素晴らしい推理小説を書く作家さんがたくさんいます。どの方もそれぞれ甲乙つけがたい魅力を持ち、一番を決めるのは難しいのですが、幻想・怪奇分野ではやはり江戸川乱歩の名前を挙げる人が多いのではないでしょうか。私自身、学校の図書室に置いてあった乱歩作品(確か、少年探偵団シリーズ)を読み、そのミステリアスな作風にすっかり魅了された記憶があります。
現代の作品で、あの独特のおどろおどろしさを出すのは難しいかも・・・・・と思っていたところ、面白そうな作品を見つけました。江戸川乱歩好きなら、タイトルを見ただけで手に取りたくなってしまうかもしれませんね。どんでん返しの巧みさに定評のある、歌野晶午さんの『D坂の殺人事件、まことに恐ろしきは』です。
かつての恋人に付きまとわれ始めた人妻の恐怖、スマートフォン片手に旅する男が語った愛憎劇、カメラマンと小学生のコンビが道玄坂で出くわした殺人事件、若妻への疑念と舅の介護に疲れ果てた男の運命・・・・・江戸川乱歩の有名作品をモチーフにして紡がれる、七つの驚くべきミステリ短編集。
江戸川乱歩と言えば、言わずと知れた国内トップクラスの認知度を誇る小説家。当然、オマージュ作品もたくさんあるものの、乱歩ワールドの薄気味悪さを再現するという意味で、本作はピカイチの出来だと思います。長編だと、あまりの不気味さにゲンナリする読者もいるかもしれませんが、短編集ということもありサクサク読み進めることができました。
各話のテーマとなっているのは「人間椅子」「押絵と旅する男」「D坂の殺人事件」「お勢登場」「赤い部屋」「陰獣」「人でなしの恋」の七話。そこに歌野流の味付けとして、ストーカー、スマートフォン、小児性愛、恋愛シミュレーションゲームなど現代的な要素が加わっているところが面白いですね。作者らしい、皮肉たっぷりの後味の悪さもふんだんに詰め込まれていて、歌野ファン・乱歩ファンの両方が楽しめると思います。
子どもの賢しさと狡猾さが光る表題作や、ストーカーに追い詰められる女性の恐怖感が生々しい「椅子?人間!」、オチがあったと思いきやさらにもう一捻りある「人でなしの恋からはじまる物語」なども面白かったですが、個人的には叙述トリックが見事な「陰獣幻獣」がお気に入りですね。人間の妄執って恐ろしい・・・・・
各話の冒頭にモチーフとなっている作品のあらすじが書いてあるので、未読の方でもまったく心配いりません。江戸川乱歩といえば、他にも「パノラマ島綺譚」「鏡地獄」「芋虫」等々、面白い作品がたくさんありますし、ぜひ同じコンセプトで第二弾、第三弾を執筆してほしいものです。
どのタイトルも意味深・・・度★★★★☆
読みながら背筋がゾクゾクゾワゾワ度★★★★☆
こんな人におすすめ
・江戸川乱歩が好きな人
・毒々しい雰囲気の小説が好きな人