はいくる

「嘘つきジェンガ」 辻村深月

<詐欺>とは、人を騙し、金品を奪ったり損害を与えたりする犯罪のことです。強盗やひったくりなどとの違いは、被害者と加害者がある種のコミュニケーションを取っていることが多いという点でしょう。結婚詐欺などをはじめ、被害者が加害者に愛情や信頼を抱くケースもあり、立件が難しいこともしばしばのようです。

詐欺をテーマにした小説といえば、以前、当ブログで乃南アサさんの『結婚詐欺師』を取り上げました。あとは、ちょっとコミカルなものなら道尾秀介さんの『カラスの親指』、ホラーなら貴志祐介さんの『黒い家』、どんでん返しミステリーなら歌野晶午さんの『葉桜の季節に君を想うということ』etcetc。どれも面白い作品ばかりです。それからこれも、詐欺という犯罪の性質を活かした佳作でした。辻村深月さん『嘘つきジェンガ』です。

 

こんな人におすすめ

詐欺をテーマにした心理小説が読みたい人

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コロナ禍で物心ともに寂しい日々を送る中、ロマンス詐欺グループに引き込まれていく大学生。息子の私立中学受験のために金を渡した相手が、実は詐欺師だったと知らされた母親。人気の覆面漫画化になりすましてオフ会を開き、自尊心を満足させるフリーター・・・騙す人。騙される人。心の迷宮に迷い込んでしまった者達に救いはあるのか。三つの<詐欺>から浮かび上がる、複雑な人間模様の行方とは---――

 

辻村深月さんは、かつて短編集『鍵のない夢を見る』でも、放火や誘拐といった犯罪をテーマにしています。担当編集者さん曰く、辻村深月さんはこの時、詐欺をテーマにした話を書かなかったことにずっと引っかかりを覚えていたのだとか。本作はそのリベンジマッチとも言うべき作品で、収録されている三話にはすべて詐欺が絡みます。その絡み方も巧妙で、片棒を担がされる側、騙される側、首謀者となる側、三者三様の立場から物語を堪能することができました。

 

 

「2020年のロマンス詐欺」・・・コロナ禍により楽しみにしていたキャンパスライフが送れず、バイトの話も流れ、親からの仕送りも減って八方塞がりの大学生・耀太。そんな中、友人から割のいいバイトを紹介されるが、なんとそれはメールによるロマンス詐欺の手伝いだった。ヤバいのではないかと冷や冷やしつつ、<未希子>という主婦と親しくなる耀太のもとに、ある日、<未希子>から「夫に殺される」というメールが届き・・・

現代の世相を一番反映している話だと思います。コロナで命の危機に直面する人もいる中、耀太のはただの甘えじゃん!・・・と非難するのは簡単ですが、一人暮らしを始めたばかりの土地で自粛生活を強いられるって、かなり精神的に辛いよなぁ。孤独だった耀太が<未希子>とのやり取りに喜びを見出していく過程や、自分が犯罪に加担していると自覚した瞬間の衝撃の描写が丁寧で、ハラハラドキドキしっぱなしでした。最後の場面は・・・これからの進展を期待していいのかな?

 

「五年目の受験詐欺」・・・平凡な主婦・多佳子のもとに、ある時、衝撃的な知らせが届く。かつて、多佳子が息子の中学受験の<特別紹介料>として百万円を渡した教育コンサルタントが、実は詐欺師だったというのだ。しかし、多佳子の息子は第一志望の中学に合格している。では、あれは金の力ではなく、息子の実力だったのか。困惑する多佳子は、被害者の一人として詐欺師告発の力になってほしいと頼まれて・・・・・

多佳子の心情は、一般的に想像される詐欺被害者のそれとは少し違います。多佳子の息子はちゃんと希望する学校に合格しており、詐欺だと疑うことは一度もありませんでした。難関中学に合格したのは、お金ではなく息子の実力。この時、多佳子が感じたのは、怒りや悔しさではなく、息子の力を信じ切れなかったことに対する罪悪感と後悔です。多佳子の決断は賢いものではなかったかもしれないけど、息子への愛情は真剣だったわけだし・・・この息子が聡明な子に育っていることが救いでした。

 

「あの人のサロン詐欺」・・・いい年して実家暮らし、バイトも続かず、彼氏もなし。鬱々とした生活を送る紡の唯一の楽しみは、人気覆面漫画家<谷嵜レオ>を名乗ってファンのオフ会を主宰すること。谷嵜レオの全作品を網羅している紡のなりすましは完璧で、ファンからちやほやされ放題。谷嵜レオは性別年齢経歴すべて非公開だし、メディアにも出ないのでバレないと思っていた。本物の谷嵜レオが逮捕される日が来るまでは。

全三話に登場する詐欺の中、一番手口が杜撰なのがこれでしょう。いくら口外厳禁と言ったところで、これだけインターネット文化が発展したご時世に、なりすましがいつまでも通用するはずありません。では、どんな風にバレるのだろうと思っていたら、なんと本物の逮捕!これだけ強烈な暴露劇もそうそうないのではないでしょうか。ただ、後半、紡とある人物とのやり取り、さらにクライマックスでの紡の行動力により、意外に爽やかな収まり方を見せてくれます。このガッツがあれば、なりすましなんてしなくても、普通に社会でやっていけそうな気がするのですが。

 

どことなく薄暗さを感じさせた『鍵のない夢を見る』と違い、本作は三話とも後味は悪くありません。どの主人公も、それなりに家族に恵まれている描写もあり、希望が感じられて良かったです。犯罪をテーマにした短編集、これからも続けてほしいです。

 

上手な嘘ならバレるはずがない度★☆☆☆☆

極悪人は一人もいない度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    辻村深月の短編集と言えばホラーだと連想しましたが詐欺をテーマにしているとは意外でした。今までの辻村深月さんとは少し違うイメージですが考えてみれば犯罪要素も取り入れている作品もあったと思います。
    「闇祓」「朝が来る」などを思い出しました。
     コロナ禍などの世相を反映した内容も興味深いです。
     ますます楽しみです。

    1. ライオンまる より:

      血生臭い暴力とは無縁の、平凡な一般市民が詐欺に関わっていく描写が秀逸でした。
      後味はけっこう良いので、「闇祓」より万人受けしやすい作品だと思います。

      「禁断の中国史」の順番がやっと回ってきました!
      読むのが楽しみです。

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