はいくる

「東京二十三区女」 長江俊和

東京二十三区。それは日本最大級の人口を擁する街であり、世界に名だたる大都市です。閑静な高級住宅街や日雇い労働者が住むドヤ街、若者に人気のプレイスポットなど、性別も年齢も違う人々が絶えず行き交っており、まさに日本の中心部の一つと言えるでしょう。

それだけの大都市であるからには、当然そこに至るまでの歴史があります。その歴史とは、華やかで生き生きしたものばかりとは限らないかも・・・今日ご紹介するのは、東京の闇の奥に眠る秘密を描いた作品です。ディレクターや脚本家、映画監督など様々な顔を持つ長江俊和さん「東京二十三区女」です。

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縁切榎に掛けられた絵馬が暴く恐ろしい真実、タクシーで向かう自宅になぜか辿りつけない男、悩める男女が夢の島に隠した戦慄の秘密・・・・・東京二十三区に蠢く謎の数々と、それを追う若き女性ライター・璃々子。大都市・東京の秘められた過去とは一体何なのか。璃々子が日々その謎を追い続ける理由とは。東京の光と影を描く、衝撃のホラーミステリー短編集。

 

タイトル通り、東京都には二十三の区が存在しますが、本作で取り上げられるのは「板橋区」「渋谷区」「港区」「江東区」「品川区」の五つ。その一つ一つで語られる歴史や謂れの数々に、いちいち頷きながら読みました。あれだけ有名な都市にも関わらず、実は詳しいことはほとんど知らなかったのだと、今さらながら実感した気がします。

 

そして、語られる歴史がこれまた怖い!八百屋お七が処刑された鈴ヶ森処刑場、平家の落武者を弔うため六本の木を植えたことに由来する六本木、金銭目的で四十人以上の赤ん坊が殺害された岩の坂、女子高生コンクリート詰め事件の遺体が遺棄された江東区の埋め立て地・・・これらの薀蓄が実に細やかに語られるので、ホラーミステリー小説としてだけではなく、東京を知るドキュメンタリー小説としても楽しめると思います。

 

一つの区ごとに話は独立しており、中心となる登場人物も変わりますが、共通して出てくるのはフリーライターの璃々子と、大学の先輩である島野。璃々子には霊感があり、あるものを求めて東京都の謎を追い続けています。彼女が追うものとは一体何なのか、各話でちらほらと提示される手がかりが、最終話でまとまる構成はなかなか見事ですよ。

 

最初に書いた通り、「東京二十三区女」というタイトルにも関わらず、本作に出てくる区は五つ。意味ありげな雰囲気を漂わせたラストからして、これは続編があるのでは!?と勝手に期待しています。ぜひとも残る十八区も取り上げてもらい、知られざる東京の秘密を堪能したいものですね。

 

東京の歴史って奥が深い度★★★★★

薀蓄がすごくためになる度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

・日本の歴史や事件に興味がある人

・短編ドラマのような小説が好きな人

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