はいくる

「緋色の囁き」 綾辻行人

ミステリーにおけるトリックの一つに、<叙述トリック>というものがあります。一部の情報をわざと曖昧に記述し、読者に思い込みや先入観を抱かせてミスリードを誘うトリックのことです。男性かと思われた人物が実は女性だったり、同じ時代を生きる登場人物たちの物語と見せかけて、実は片方は数十年前の人物だったりと、色々な仕掛け方がありますね。

このテーマを得意とする作家さんといえば、折原一さん、歌野晶午さん、乾くるみさんなどが有名です。そしてもう一人、忘れちゃいけないのが大御所中の大御所が綾辻行人さん。社会派ミステリーが人気を集めていた時代に<新本格>という新たなジャンルを生み出した偉大な方です。綾辻さんといえば『館シリーズ』が有名ですので、今回はちょっと趣向を変えて『緋色の囁き』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

・叙述トリックが仕掛けられたミステリーが読みたい人

・少女の残酷さを描いた作品が好きな人

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幼い頃の記憶がなく、不安な気持ちを抱えて生きる主人公・冴子。高校に通う彼女のもとを、亡き両親の姉だという宗像千代が訪れる。勧められるがまま、千代が校長を務める聖真女学園に転校した冴子だが、そこで待っていたのは血塗られた惨劇だった。クラス内に女王として君臨する美少女、そこここで噂される<魔女>の存在、次々に不可解な死を遂げていく生徒たち。夢遊病を患う冴子は、まさか眠っている間に自分が生徒たちを殺したのかと戦慄するが・・・・・

 

<記憶をなくしたヒロイン><閉鎖的な全寮制お嬢様学校><美しく高慢な女生徒による独裁><一癖も二癖もある名家令嬢たち><学校に伝わる不気味な噂>などなど、サスペンスホラー好きには堪らない要素がてんこ盛り。謎の殺人鬼に少女たちが殺されていくところは、オリビア・ハッセー主演のホラー映画『暗闇にベルが鳴る』にも通じるかな。本作は日本を舞台にした話ですが、雰囲気がどことなく異国めいていて、クラシカルなホラー洋画を見ているような気分に浸れました。

 

主人公の冴子は、和泉家で養女として暮らす女子高生。幼い頃の記憶がなく、自分の人生に居心地の悪さを感じています。そんな彼女の前に現れたのは、伯母を名乗る宗像千代。突然の肉親の出現に驚く冴子ですが、逡巡の末、千代が校長を務める全寮制女子校・聖真女学園に編入することにします。今までとまるで違う環境に戸惑いつつ、同室の恵と親しくなり、安堵する冴子。ところが、恵が校内で謎の焼死を遂げたことを皮切りに、残忍な連続殺人が起こり始めるのです。

 

あらすじを読んでも分かる通り、『金田一少年の事件簿』などを思わせる正統派学園ホラーミステリーです。面白いのは、主人公・冴子のキャラクター。大人しく引っ込み思案な性格で、連続殺人鬼の濡れ衣を着せられてもおろおろとするだけ。この手のミステリーの場合、主人公はやたら積極的かつ行動的で、「私が事件解決してみせる!」と意気込むパターンが多いので、逆に新鮮に感じられました。まあ、実際はこちらの方がリアルな反応なんでしょうけどね。

 

主人公をはじめとする登場人物たちの描き方もさることながら、何より秀逸なのは作中で繰り返される<赤>の描写。学園内で咲き誇る薔薇の赤、暮れる夕日の赤、そして血の赤・・・よくもまあこれだけバリエーションがあるなと感心するくらい豊かな<赤>描写に、なんだか圧倒されそうでした。確かに赤い色って、情熱や活気を連想させる反面、淫靡で残酷な印象もありますよね。本作の背徳的な雰囲気にぴったりの配色だと思います。

 

叙述トリックを使っている関係上、作品内容にあまり触れるとネタバレになってしまうので、多くは語らないことにします。『館シリーズ』よりトリックに頼る部分が少なく、ミステリーにあまり馴染みがなくても楽しめるのではないでしょうか。ただ、殺人シーンはそれなりにグロテスクなので、その辺りが苦手な方は注意が必要かもしれません。

 

令嬢たちの仮面を剥ぐと・・・・・★★★★☆

これはもしや今後の悲劇の予兆なの?度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

    綾辻さんは「館シリーズ」のようなクローズドサークルミステリーのイメージでしたが、叙述トリックとは興味深い。
    叙述トリックの作品は、最近の「女王は帰らない」「二重生活」、「イニシエーション・ラブ」が印象的です。
    グロテスクな殺人シーンは苦手ですが、中山七里さん、誉田哲也さんと比べてどうなのか?気になります。学園ホラーミステリーの設定も興味深い。
    「館シリーズ」を2冊しか読んでいませんが、これは是非とも読んでみたいです。

    1. ライオンまる より:

      知名度では「館シリーズ」「Another」に劣るかもしれませんが、この「囁きシリーズ」も大好きなんですよ。
      「館シリーズ」と比べると叙述トリックの使用度はやや少なく、ホラー風味の味付けが強いです。
      学園ホラー好きの私にはドンピシャでした。

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