以前、読んだ小説にこんな台詞がありました。「突発的な犯罪の場合、一番予想外の方向に向かいやすいのは二人組。一人だとなかなか踏ん切りがつかないし、三人以上だと足並みを揃えるのが難しい」。ただの台詞であり、犯罪学的にどのくらい信ぴょう性があるのかは分かりませんが、一理あると思ったものです。
現実においても、二人組の犯罪者って「勢いでこうなったけど、本人達も最初はここまで大騒動になるとは思ってなかったんじゃ・・・」というケースが結構多い気がします。<アメリカの狂犬>と呼ばれ、最後は警官隊によって蜂の巣にされたボニー・ポーカーとクライド・バロウのカップルなんて、いい例ではないでしょうか。今回取り上げる作品にも、あれよあれよという間に大事件を起こす二人組が出てきます。櫛木理宇さんの『ふたり腐れ』です。
こんな人におすすめ
どんでん返しがあるサイコサスペンスに興味がある人
逃げられると、思うなよ---――養護施設で育ち、今はコールセンターで派遣社員として働く主人公・市果。ある夜、彼女は一人の女が人を殺す現場を目撃してしまう。脅迫され、やむをえず女を自宅に匿うことにする市果だが、それは惨劇の序章にすぎなかった。繰り返される殺人、連続殺人鬼との奇妙な触れ合い、当てのない逃避行、背後に見え隠れする過去の罪。逃亡劇の果てに市果達を待ち受けていたものとは、果たして・・・・・現代に巣食う闇の行方を描くノンストップ・サイコサスペンス
櫛木理宇さんの著作としてはかなり珍しい部類に入る表紙の可愛さに、「おや?」と思ったファンも多いのではないでしょうか。佇む女性二人は愛らしく、全体的なテイストはアニメ調。にもかかわらず、片方の女性は刃物を握り、足元には血まみれの死体が転がっているのですから、そのギャップは強烈です。そして、内容もまた、期待を裏切らぬ衝撃度でした。
主人公の市果は、コールセンターで働く派遣社員。崩壊状態の家庭に生まれ、養護施設で育つという過去を持ちながらも、今は平凡な毎日を送っています。そんな市果はある日、大柄な女がサラリーマンを殺害する現場に遭遇。女に刃物で脅迫され、自宅を隠れ家として提供する羽目になってしまいます。この<女>は、肉体は誓(セイ)という名前の男ながら、時々女の人格が出てきて人を殺すという連続殺人鬼でした。<女>を恐れつつも、その劣悪な生育環境に共感を覚え、歪な共同生活を送る市果。ところが、<女>が市果の職場関係者を殺害してしまったことで、状況が変わります。今まで殺してきた行きずりの相手と違い、このままでは市果経由で捜査線上に浮かんでしまうかもしれない。<女>は焦り、市果を連れて逃亡生活を始めます。脅される一方、<女>の境遇にシンパシーも感じていた市果は、拒むことができません。捜査の手をかいくぐりつつ、逃避行を続ける二人。旅の終わりに、二人は何を見るのでしょうか。
ものすごく手慣れた様子で殺人を重ね、逃走資金を稼いでいく<女>と、そんな<女>を時に怖れ、時に感情移入しつつ、徐々に犯行の片棒を担ぐようになる市果の様子が最高にスリリングでした。単純に「ストックホルム症候群ってやつね」と言い切れないのは、そもそも二人はバックグラウンドに共通点があり、犯罪を介さずとも理解し合えてしまうからでしょう。二人の行いは間違いなく犯罪なのに、逃亡途中、一緒にコスメショップで化粧品を選んだり、食べ物をシェアしたりする姿は、気の置けない女友達そのもの。だからこそ、朗らかなやり取りの間に挿入される殺人シーンとの落差にゾッとさせられました。
市果達の逃亡劇と並行して、刑事・番場目線の章も進んでいきます。番場は非常に優秀な刑事ながら、かつて幼い娘を誘拐されたことで失速し、出世街道を外れた人物。愛妻との仲もこじれてしまい、今なお過去を受け止めきれていません。そんな番場は、連続殺人事件の捜査のため、市果と<女>を追い始めるのですが・・・ここは、事件そのものもさることながら、広い地域にまたがる事件の捜査の難しさが印象に残りました。技術的に困難というより、管轄同士の縄張り争いだの意地だの見栄だののせいで連携が取れず、結果的に捜査が進まないというやりきれなさ。特に、今回の市果と<女>のケースのように、行き当たりばったりで標的を選ぶ事件は動機の線から捜査することができず、解決が困難だそうです。グリコ森永事件をはじめ、未解決に終わった現実の事件にも触れられていて、一層心が痛みました。
それにしても、読み終えてつくづく思うのは、これは<二人>だったからこそ起こった事件だなということです。<女>には、誓という男の人格・肉体がある以上、正確に言うと二人組ではなく三人組の話なのかもしれません。ですが、私には本作が市果と<女>、市果と誓、<女>と誓という二人単位の物語に見えました。タイトル通り、彼らはペアだったからこそ、ぎりぎり保っていた一線を踏み越え、腐っていってしまったように思います。皮肉なことに、彼らがずっと一人だったなら、少なくともこういう形で凶行に走ることはなかったでしょう。さらに、作中にはもう一組、市果と姉・美雨というペアが出てくるのですが・・・衝撃の結末は、ぜひご自分の目で確かめてみてください。櫛木理宇さんとしては、あまり見ないタイプのどんでん返しに仰天させられること請け合いですよ。
序盤と終盤のひっくり返り方が凄い度★★★★★
ラストは本当に怖いです度★★★★★
行きずりの逃亡旅行という設定に二重人格~主人公は否応なしに連れ去られているようで何故か友人というよりパートナーのような関係。
違和感があるようでしっくり来る不思議な感覚でした。
「森永グリコ事件」「連続幼女殺害事件」など散々聞かされた事件に警察の皮肉を込めている内容で、そこにどんでん返しとなかなかの展開でした。
朱に交われば~というより最初から待ち望んで自分を連れ出してくれる殺人鬼を受け入れた、そして利用したというイメージでした。
降田天さんの「朝と夕の犯罪」を読み終えました。何処かこの作品と似ている気がします。番場刑事と狩野雷太も似ているようで似ていない。
狩野雷太はシリーズなんですね。他の作品も読んでみたいです。
冒頭とクライマックス、主人公の豹変っぷりに度肝を抜かれました。
道中の女子トークは、あんなに楽しそうだったのに・・・
四年後に一体何が起こるのか、気になって仕方ありません。
番場と狩野は確かに共通点が色々ありますね。
シリーズ第一作目「偽りの春」も面白かったので、読了されたら、ぜひ感想を聞かせてください。