ホラー好きな私が思うに、怪談話が発生するためにはいくつか条件があります。例えば<過去にその場所で悲惨な出来事が起こっている(ex.遺体発見現場)>だったり<すぐには逃げられないほど無防備になる場所(ex.トイレ)>だったり。意外かもしれませんが、「人の気配を感じる場所である」というのもその一つ。この世はすべて表裏一体、生者がいるからこそ死者がいて、幽霊もいます。簡単に行き来できない無人島が怪談の舞台になりにくいのは、この辺りが原因ではないでしょうか。
大勢の人の気配を感じるホラースポットの代表格と言えば、やはり「学校」。普段はたくさんの子どもや教職員が出入りして賑やかな分、無人になった時の不気味さが際立ち、多くの怪談話が発生しました。学校を舞台にしたホラー小説といえば、綾辻行人さんの『Another』や辻村深月さんの『冷たい校舎の時は止まる』などが有名です。最近読んだ学園ホラーはこちら。近藤史恵さんの『震える教室』です。
こんな人におすすめ
・学校を舞台にしたホラー小説が好きな人
・ホラー小説デビューしたい人
親の言いつけで伝統ある女子校・鳳西学園に進学した真矢。花音という友達もでき、まずまず順調に思えた高校生活だが、なぜか二人揃うと次々に怪奇現象に出くわす羽目になる。ピアノ室に現れた血まみれの手、少女のスカートを掴む痩せ細った腕、保健室のベッドで眠る首なしの女生徒、補習を受ける生徒がプールで見たもの・・・・・真矢と花音は好奇心と勇気を武器に怪異の謎を解こうと奔走する。揺れ動く少女たちの活躍を描いた学園ホラーミステリー。
歴史ある女子校が舞台ということで、閉鎖的な環境でのどろどろ恐怖話を想像していましたが、蓋を開けて見ればあら意外。いじめもスクールカーストもほとんどない、瑞々しさを感じさせる青春ホラー短編集でした。インパクトという点では前述の『Another』に軍配が上がりそうですが、誰でも気軽に楽しめる作品だと思います。
「第1話 ピアノ室の怪」・・・内部進学組が多数を占める学園に、なんとか馴染みつつある真矢と花音。ある日、二人は「出る」と噂のピアノ室で血まみれの女性の手を目撃する。どうやら二人が手を繋いだ状態だと「この世ならざるもの」が見えるようで・・・
真矢と花音の「二人で手を繋いでいると不思議なものが見える」という設定がユニークですね。肝心の怪奇現象自体はいたってあっさりしたものですが、怪異発生の原因はかなり重いものがありました。ティーンエイジャーにとって、「自分に才能がない」という事実はこれほど重要なことなのでしょうか。ラスト一行に、真矢の驚愕が込められています。
「第2話 いざなう手」・・・真矢は、駅の階段での転落事故をきっかけに、鳳西学園のバレエ科に通う塔子と紗代と知り合う。紗代のスカートを、痩せ細った手が掴んでいるのを目撃し、驚く真矢。どうやら紗代は、新しいバレエ教師の存在を恐れているようで・・・
うーん、これは色々と解釈の余地がありそうだなぁ。ホラーながら基本的に謎解きがなされる本作の中、最も曖昧な部分が多いエピソードでした。生きた人間の行動の真意も、その後の悲惨な出来事の答えも、もはや想像するしかない・・・でも、このあやふやさがホラーの醍醐味であることも事実。こういう意味不明な怖さ、けっこう好きです。
「第3話 捨てないで」・・・同級生の菫の肩に、小さな白い生き物が乗っていることに気付いた真矢と花音。ひょんなことから菫と親しくなった二人は、その白い生き物が、菫の姉・楓の形見のぬいぐるみだと知る。楓は一年前に投身自殺を遂げたそうだが・・・
もやもやした後味の前話に対し、ズシンとした不気味なインパクトが光る本エピソード。根本的な問題が解決しておらず、今後惨劇が起こりかねない結末がジャパニーズホラーっぽいですね。ぬいぐるみがキーアイテムのホラーということで、映像化にぴったりな話だと思いました。
「第4話 屋上の天使」・・・鳳西学園の三年生・堀江加奈は、ネットで人気の同人作家。真矢は加奈の絵にすっかり魅せられ、同級生らと盛り上がる。ところが、副担任の各務は、加奈の新作を見た途端、ひどく動揺し・・・・・
第2話と同じく想像に頼る部分が多い話ですが、こちらの方がまだ救いがあった気がします。序盤はヒステリックな印象が強かった各務先生の、意外な柔軟性や行動力も好印象。そうそう、大人になるって、そんなに悪いことばかりじゃないんだよ。あと、加奈の漫画はなんだかすごく私好みな気がするので、挿絵でもいいから再現してほしいです。
「第5話 隣のベッドで眠るひと」・・・外部進学組の鷺沼未散の成績が急激に下がっているらしい。教師から様子見を頼まれた真矢は、思い切って未散に話しかけてみる。未散曰く、保健室で寝ている時、首のない女生徒の霊を見てしまい、それから学校が怖いそうで・・・
これはいかんでしょう!!読んでいて初めて登場人物に対する強い憤りを感じました。てっきり不可抗力で亡くなった女生徒の霊かと思ったら・・・隠れていた大人の傲慢さや怠慢ぶりに怒り心頭!その分、因果応報を感じさせるオチが響いてきます。ラスト数行のなんともいえない余韻ときたら・・・まさに<ザ・日本の怪談>という話でした。
「第6話 水に集う」・・・ある日、真矢と花音はバレエ科の塔子から相談を受ける。二年の村田紅美が、プールでの補習授業を機に不登校になったらしい。紅美はなぜかプールをとても怖がっているそうだが・・・
何ものかが潜むプールの描写も怖いんですが、それよりも体育教師の横暴さに辟易。こういう人に教職に就いてほしくありません。中盤まで苛々させられっぱなしでしたが、一応報いはあるのでヨシとしましょう。ちなみに怪奇現象の真実に関しては、舞台となっている地域に詳しい方なら、割とすぐ予想できるのではないでしょうか。
この六話の他、プロローグとエピローグで、花音の母である作家・芽衣子のエピソードが語られます。これがなんとなーく不気味で意味深・・・おまけに、読了後に気付いたんですが、表紙に描かれた真矢と花音の姿、なんだか怖くありませんか!?だって、花音の片手って・・・二人の霊視能力の謎も不明のままだし、これは続編があるってことですかね。期待して待つことにします。
じんわりと怖さがこみ上げる度★★★★☆
ある意味、エピローグが最恐・・・度★★★★★
イヤミス要素もスクールカーストも少なく女子学生たちのスクールライフにゾクッとするような不気味なホラーを描いたホラーミステリーでした。
第4話の高圧的な副担任の意外な過去と思わぬ展開が印象的でした。
まさの学校の七不思議を思い出すスクールミステリーでもあり読みやすい作品でした。
あらすじを見た段階では「少女たちの教室内でのドロドロ人間模様」を想像していましたが、予想外に瑞々しい作品でしたね。
とはいえ、ジャパニーズホラーらしい不穏さも漂っていて、なかなか面白かったです。
ぬいぐるみのその後がすごく気になる・・・