私が人生で初めて行った外国はハワイです。特大サイズの料理に、日本のそれとは色合いが違う海や浜辺、華やかな民族衣装を着た現地の人々・・・ドラマや漫画で見るような光景にワクワクしっぱなしだったことを覚えています。
とはいえ、どの国もそうであるように、ハワイは桃源郷というわけではありません。人間が集まって暮らしを営む以上、暗い面や怖い面があって当然です。先日読んだ小説では、ハワイの明るい陽射しの下、冷ややかで薄暗い人間模様が繰り広げられていました。今回は、近藤史恵さんの『ホテル・ピーベリー』を取り上げたいと思います。
こんな人におすすめ
・ハワイが登場する小説に興味がある人
・海外が舞台のサスペンスが好きな人
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薔薇という花には、とにかく豪奢で華麗なイメージが付きまといます。華やかな色合いや、花びらが重なったフォルムがそうさせるのでしょうか。エジプト女王のクレオパトラ七世やナポレオンの最初の妻・ジョゼフィーヌ等、薔薇を愛した歴史上の人物も大勢います。
と同時に、薔薇は時に、<不吉><残酷>の象徴としても扱われます。日本の桜と同様、あまりに鮮烈な美しさが、逆に見る者に不安を覚えさせるのかもしれませんね。創作の世界においても、殺人鬼が薔薇を好んでいたり、吸血鬼が薔薇から生命力を吸い取るシーンがあったりと、禍々しく不気味な小道具として登場しがちです。この作品でも、薔薇がゾッとするような使われ方をしていました。近藤史恵さんの『薔薇を拒む』です。
こんな人におすすめ
不穏な雰囲気のゴシックサスペンスが好きな人
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当たり前の話ですが、図書館で本を予約した場合、その本がいつ手元に届くか事前には分かりません。特に予約者が大勢いるような人気作となると、順番が回ってくるタイミングは予測不可能。時には、予約本が複数まとめて届いてしまい、返却日を気にしつつ大慌てで読む羽目に陥ったりします。人気作は図書館側の購入冊数も多いため、意外とさくさく順番が進むのかもしれませんね。
逆に、待てども暮らせども予約本が一冊も届かないこともままあります。なぜか「今なら大長編だろうと読む余裕あるのに!」という時に限って、どの本も全然順番が回ってこなかったりするんですよ。最近、そういう状況が続いてモチベーション下がり気味だったので、この本が届いた時は嬉しかったです。近藤史恵さんの『ホテル・カイザリン』です。
こんな人におすすめ
イヤミス多めの短編集が読みたい人
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残念ながら私は画才に恵まれませんでした。子どもの頃から、図画工作や美術は苦手な教科の筆頭格。教室の後ろに自分の絵を飾られることが本気で憂鬱だったものです。
そんな私ですが、絵を見る方は結構好きです。正確には、絵そのものを見るというより、絵に関する背景やエピソードを知ることが好きなんですよ。ゴヤの<カルロス四世の家族>にはひっそりとゴヤ本人も描き込まれているとか、ダ・ヴィンチの<最後の晩餐>の向かって右側三人は「誰が裏切り者なんだ?」ではなく「今、キリスト先生が何て仰ったか聞き取れなかった!」と騒いでいるとか、夢中になって調べました。こうしたエピソードは、単に面白いだけでなく、画家の宗教観や死生観、当時の社会情勢などを知る手掛かりにもなるんですよね。今回ご紹介する作品にも、絵に込められた様々な思いや秘密が登場します。近藤史恵さんの『幽霊絵師火狂 筆のみが知る』です。
こんな人におすすめ
・絵にまつわる不思議なミステリーが読みたい人
・市井の人々が出てくる時代小説が好きな人
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コロナ禍でできなくなったこと、制限されるようになったことはたくさんあります。例えば、大人数が集まっての会食。例えば、屋内でのイベント。海外旅行もその一つです。海外の場合、衛生状態や医療体制が日本とは違うこともあり、いつになったら自由に行き来できるようになるのか、皆目見当もつきません。
不自由の多い昨今ですが、本の中でなら、昔と同じく気ままに海外を楽しむことができます。異国情緒を堪能できる作品と言えば、以前、当ブログで貫井徳郎さんの『ミハスの落日』を取り上げました。貫井作品の中でも三本の指に入るくらい好きな小説ですが、全体的に苦い後味の話が多く、中には苦手と感じる読者もいるかもしれませんね。でも、こちらは後味爽やかなので万人向けだと思いますよ。近藤史恵さんの『たまごの旅人』です。
こんな人におすすめ
海外旅行を通して描かれる成長物語が読みたい人
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私は子どもの頃からずっとペット禁止のマンション住まいだったこともあり、動物を飼った経験がありません。ですが、身近には動物好きの人が多く、ペットにまつわるあれこれを聞く機会もしょっちゅうありました。自分を無心に慕ってくれる生き物と暮らすのは、とても幸せなことでしょう。
とはいえ、悲しいかな、ペットに関する悲しい話もたくさんあります。例えば保健所での殺処分問題や、多頭崩壊問題。無機物であるゴミの処分問題だって深刻なのですから、相手が生き物となると、その酷さはとても言葉で語り尽くせるものではありません。こうした問題を扱った書籍となると、どうしてもノンフィクション寄りになりがちですが、今回は小説をご紹介したいと思います。近藤史恵さんの『黄泉路の犬-――南方署強行犯係』です。
こんな人におすすめ
日本のペット問題を扱った小説に興味がある人
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私は自他共に認める運動下手な人間ですので、体を動かす遊びはあまり得意ではありません。反面、インドア系の趣味は色々やりました。読書はもちろんのこと、映画鑑賞、音楽鑑賞、観劇、お菓子作り、ジグソーパズル、猫カフェ巡りetc。そんな中、歌舞伎には何となく興味を持てませんでした。あの独特の台詞回しや化粧に馴染めなかったんだと思います。
ですが、歌舞伎を現代風にアレンジしたスーパー歌舞伎を見て、歌舞伎に対する印象が変わりました。考えてみれば、歌舞伎とはそもそも庶民の娯楽。演目だって、心中だの敵討ちだの三角関係だの、生臭く人間味溢れるテーマがたくさんあります。今回は、そんな歌舞伎がより身近に感じられる小説を取り上げたいと思います。近藤史恵さんの『歌舞伎座の怪紳士』です。
こんな人におすすめ
歌舞伎をテーマにしたミステリー小説が読みたい人
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ホラー好きな私が思うに、怪談話が発生するためにはいくつか条件があります。例えば<過去にその場所で悲惨な出来事が起こっている(ex.遺体発見現場)>だったり<すぐには逃げられないほど無防備になる場所(ex.トイレ)>だったり。意外かもしれませんが、「人の気配を感じる場所である」というのもその一つ。この世はすべて表裏一体、生者がいるからこそ死者がいて、幽霊もいます。簡単に行き来できない無人島が怪談の舞台になりにくいのは、この辺りが原因ではないでしょうか。
大勢の人の気配を感じるホラースポットの代表格と言えば、やはり「学校」。普段はたくさんの子どもや教職員が出入りして賑やかな分、無人になった時の不気味さが際立ち、多くの怪談話が発生しました。学校を舞台にしたホラー小説といえば、綾辻行人さんの『Another』や辻村深月さんの『冷たい校舎の時は止まる』などが有名です。最近読んだ学園ホラーはこちら。近藤史恵さんの『震える教室』です。
こんな人におすすめ
・学校を舞台にしたホラー小説が好きな人
・ホラー小説デビューしたい人
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「下着が大好き」と言われた時、人はどんな反応を返すでしょうか。「分かる分かる」と頷く人もいるでしょうが、「いやらしい」「はしたない」と眉をひそめる人も多いのではないでしょうか。身に付ける場所が場所なだけに、下着は性的なものを連想させてしまうからかもしれません。
ですが、考えてみれば変な話です。公道を下着姿で闊歩するというならともかく、大多数の人は服の下に下着を身に付けているはず。それなら誰にも迷惑はかけないわけですし、「ワンピースが好き」「ジーパン最高」と同じ感覚で「下着が大好き」と言っても何一つ問題はありません。あらゆる衣類の中で最も肌に触れる製品なのですから、熱心に選び、機能性だけでなく美しさや可愛さを求めることはある意味で当然とも言えます。そんな下着に対する夢や愛着を描いた本を読みました。近藤史恵さんの『シフォン・リボン・シフォン』です。
こんな人におすすめ
下着を軸にしたヒューマンストーリーを読みたい人
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<記憶喪失>という言葉を見聞きしたことがない人は、恐らくいないと思います。正確には<逆行性健忘>といい、過去の記憶を思い出すことが困難になる症状を指します。この三日間、どんな風に過ごしたかまるで思い出せないというだけで、ものすごく不安でしょう。まして、今まで生きてきた人生すべての記憶を失い、自分が何者か分からないとしたら・・・その恐怖は想像を絶するものがあります。
現実では恐ろしい記憶喪失ですが、フィクションの世界においては、物語を盛り上げる要素となりえます。宮部みゆきさんの『レベル7』、東野圭吾さんの『むかし僕が死んだ家』、綾辻行人さんの『黒猫館の殺人』などは、<記憶喪失>というキーワードを上手く絡めた傑作ミステリーでした。この作品にも記憶喪失になったヒロインが登場します。近藤史恵さんの『わたしの本の空白は』です。
こんな人におすすめ
記憶喪失をテーマにした小説が読みたい人
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