別の記事でも書きましたが、フィクションの世界において、被告人のために戦う弁護士はやや特殊なポジションであり、強烈な個性付けがなされることが多いです。一方、これと対照的なのは、弁護士と法廷で争う検事。良くも悪くも生真面目な法の番人として描かれがちな気がします。
とはいえ、小説の中の検事全員が杓子定規な堅物ばかりというわけではありません。高木彬光さんの『検事霧島三郎シリーズ』や和久峻三さんの『赤かぶ検事シリーズ』には個性豊かな検事が登場しますし、柚月裕子さんの『佐方貞人シリーズ』でも主人公・佐方の検事時代を描いた作品があります。私が最近読んだ検事小説は中山七里さんの『能面検事』。この検事もなかなかインパクトありました。
こんな人におすすめ
検事が主人公の小説が読みたい人
どんな時でも決して表情を変えないからあだ名は<能面>-――――そんな不破検事のもとで事務官として働く美晴は、世間を震撼させたカップル殺人事件を担当することになる。当初は被害女性のストーカーが容疑者と目されていたが、不破の調べによりストーカーにはアリバイが成立した上、なんと捜査資料の一部が紛失していることが判明。警察の恥部を暴いた不破は、関係者からの憎悪の目をものともせず調査を進めるが・・・・・<能面>と<リトマス試験紙>、対照的なコンビが見つけ出した殺人事件の真相とは。
様々な人気キャラクターを生み出してきた中山さんが、今回主人公に据えるのは<検事>。何があろうと決して表情を変えず、感情を見せず、遠慮も気遣いもなく職務を遂行していくことから陰で<能面>と呼ばれている人物です。相方となる事務官の美晴が、<リトマス試験紙>と呼ばれるほど顔色が変わりやすい性格な分、不破のマシンのような敏腕ぶりが際立っていました。
新人事務官である惣領美晴は、大阪地検のエース検事・不破のもとに配属されます。感情が表に出やすい性格の美晴は、不破から「出て行け」と言われてしまうものの、紆余曲折の末、三カ月の試用期間をもらえることに。そんな二人は、カップルが殺害された事件を担当することになります。殺された女性は事件前からストーキングされており、このストーカーが容疑者として挙がります。ところが、不破の調査の結果、ストーカーにはアリバイが成立。おまけに捜査資料の一部が紛失していることが判明するのです。
この手の「海千山千の上司と、未熟だが熱意ある新人」という設定は中山さんの十八番。渡瀬警部と古手川刑事、光崎教授と真琴など、同じようなコンビが登場する作品は他にもありますが、本作で印象的なのは何と言ってもタイトルにもある不破の能面っぷり!凄まれようが睨まれようがまるで気にせず、たとえ身内から疎まれようとびくともしません。これだけならただのKYですが、不破には確かな判断力と行動力があり、検事として事件解決に全力を尽くそうとします。
これは渡瀬や光崎といった「癖はあるが有能キャラ」に共通して言えることですが、不破は何一つ間違ったことは言っていないんですよね。その能面と呼ばれる働きぶりは、彼の巌のような強い信念の表れ。不破が能面と呼ばれるきっかけとなった出来事にも触れられていて、彼がただの鉄面皮な毒舌家でないことが分かります。風当たりが強くなることを案じる美晴への「それがどうした」という一言が胸に響きました。対照的に美晴はちょっと浅慮が過ぎるかなという印象ですが、新人ですし、不破の強烈なキャラクターを引き立てるにはこれくらいがちょうどいいのかな。認めるべきところはすんなり認める素直さも持っているようなので、今後の成長に期待です。
肝心の殺人事件や証拠資料紛失事件の方はというと、これはちょっとあっさりしすぎかも・・・不破というキャラクターの個性を描くのに力を入れすぎてミステリー部分が薄味になったという印象です。中山作品の場合、「絶対にびっくり仰天などんでん返しがあるぞ!」と身構えて読んでしまうせいもあるかもしれません。とはいえ、警察の醜聞が明らかになっていく場面の描写は丁寧ですし、自らの命が狙われようとまったくブレない不破の姿勢はカッコ良いです。検事という仕事柄、今後、御子柴、渡瀬、犬養といった中山ワールドの人気キャラクターたちと絡ませやすいのも嬉しいですね。個人的には毒島との対決が見たい気がしますが(笑)シリーズ第二弾、待ってます。
その仕事ぶりは至極真っ当!度★★★★★
冤罪はこうしてできるのか・・・度★★★★☆
かなり個性的でインパクトのあるキャラクターでした。
柚月裕子さんの佐方検事やテレビの赤かぶ検事とは対称的な鉄仮面・能面という言葉がそのまま当てはまるイメージでした。それでも最後に悪を憎む情熱的な一面を見ました。
未熟でも正義感の強い美晴とピッタリの良いコンビになりそうです。
続編で美晴の成長と中山作品のキャラクターとの対決が楽しみです。
中山ワールドを代表する名コンビの一つになりそうですね。
渡瀬刑事や光崎教授と比べると、「なぜ能面となったのか」という背景が明かされている分、感情移入しやすかったです。
最後に垣間見せた検事魂にシビれました。