はいくる

「本屋さんのダイアナ」 柚木麻子

ダブル主人公というのは、手がける際に注意が必要な物語形式だそうです。描き方を間違えると片方だけが目立ってしまったり、最悪、もう片方がただの引き立て役になってしまうことがあり得ることが理由なのだとか。そのため、一時期、特にWeb小説界隈では<ダブル主人公は鬼門>という常識まで存在したらしいです。

しかし、きちんと描きさえすれば、ダブル主人公はとても魅力的なジャンルです。テレビドラマ『相棒シリーズ』や、海堂尊さんの『田口・白鳥シリーズ』、森博嗣さんの『S&Mシリーズ』等々、人気を博し、長期シリーズ化した作品も少なくありません。今回は、私の大好きなダブル主人公小説を取り上げたいと思います。柚木麻子さん『本屋さんのダイアナ』です。

 

こんな人におすすめ

好対照の少女二人の成長物語に興味がある人

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意地っ張りな一匹狼・ダイアナと、自由奔放な生き方に憧れる優等生・彩子。小学校で出会った二人は、たちまち無二の親友となる。ところが数年後、些細な行き違いから交流が途絶えてしまうのだが・・・・・不自由な中学生活、大人になりたくてもなりきれない高校時代、一歩踏み出そうとあがく大学進学に就職。違う人生を生きながら、心の一番奥底には常にお互いがいた。対照的な二人が、再び手を取り合う日は来るのだろうか。少女二人の成長を描く、瑞々しい成長小説

 

第一五一回直木三十五賞候補作品です。この回は、受賞した黒川博行さんをはじめ、貫井徳郎さんに米澤穂信さんら、私の好きな作家さんがずらりと候補に並び、一体誰が受賞するか、ドキドキしていたものです。本作は、受賞こそ逃しましたが、間違いなく読者の心を動かす名作だと思います。

 

シングルマザーの母によって髪を金髪に染められ、周囲から遠巻きにされる少女・大穴(ダイアナ)。本だけが心の支えの彼女は、小学校三年生の始業式の日、彩子という同級生と親しくなります。彩子は裕福な家庭で生まれ育った優等生ですが、不思議なくらいダイアナと気が合い、すぐに家族ぐるみの付き合いをする親友同士となりました。お互いを介して初めて知る料理や本。行方知れずのダイアナの父親探し。かけがえのない日々を共有するダイアナと彩子ですが、小学校卒業を前に、誤解が原因で絶交状態になってしまいます。その後、まるで違う生活を歩みつつ、心のどこかでお互いを意識し続ける二人。果たして、彼女達の友情はどうなってしまうのでしょうか。

 

何といっても、ダブル主人公であるダイアナと彩子のキャラクターが魅力的です。キャバ嬢の母によって金髪にされ、不器用な性格のせいで誤解されやすいながら、「本屋になる」という夢に向けて邁進するダイアナ。文武両道のお嬢様である一方、優等生であることにコンプレックスを感じ、物語のヒロインのタフな生き方に憧れる彩子。お互いを羨み、慕い、時にちょっぴり妬んだりする二人の姿がとても健気で、全力で応援せずにはいられませんでした。この二人だけでなく、破天荒ながら確固たる信念を持つダイアナの母・ティアラ(源氏名)、フェアな思考力の持ち主である彩子の両親、いつもダイアナに寄り添い続ける武田君といった脇役達も本当に彩り豊か。彼らが決して完全無欠の味方キャラではなく、人間らしい幼稚さや弱さを持っているところも良かったです。筆頭はティアラ。いくら思い入れがあるからって、娘の名に大穴(ダイアナ)はちょっとあんまりな気が・・・

 

そんな二人が、互いを意識しつつも会うことなく過ごす約十年が、これまたドラマチックなんですよ。ダイアナは無神経なクラスメイトや型破りな母との関係に悩みつつ、消息不明の父を探す一方、本屋になるという夢に一歩一歩近づいていきます。また、名門校から大学に進学した彩子は、ホームステイなどを経つつ、お嬢様という殻を打ち破ろうとします。タイトルからして、インパクトがあるのはダイアナの方かもしれませんが、私は彩子の章の方が記憶に残りました。特に大学時代、サークルの新歓コンパで顔見知りの先輩からデートレイプされてしまう場面。その後、加害者の先輩から交際を申し込まれ、「良かった。これであれはレイプじゃなくなった。私はただ好きな男と付き合うだけなんだ」と自分に言い聞かせる場面。自分が性犯罪の被害に遭ったことを認められない彩子の姿が痛々しくてなりませんでした。最後、彩子が自力で呪いを解くことができて本当に良かったです。

 

可愛らしい表紙にタイトル、前半のウキウキ楽し気な様子とは裏腹に、中盤からはかなりやるせない展開が続きます。柚木麻子さんらしく、さらりと性的な問題が出てくることもあり、良くも悪くも予想を裏切られたと感じる読者もいるかもしれません。ただ、こうした内容を、これだけ清々しいラストに結び付けられる筆力は流石だと思いました。レビューサイト等で同様の書き込みが多く見られましたが、本作の読了後、『赤毛のアン』が読みたくなっちゃいますね。

 

<腹心の友>二人の生き方を全力で応援!!度★★★★★

ダイアナの父、お前って奴は・・・度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

     随分前に読みましたがランチのアッコちゃん同様に内容をかなり覚えています。ダイアナの母親の破天荒なのか真面目なのか娘の愛情の方向性が何処を向いているのか?主人公のダイアナより母親の方が気になりました。書店の厳しさにダイアナの母親の実家が金持ちだったことなどインパクトあるエピソードばかりで柚木麻子さんはその手を握りたいのように自分に取って記憶に残りやすいと思いました。中山七里さんの総理にされた男の続編が10年振りに出たので1作目読んでます。ハイクルセキュリティの問題でパソコンから入れなくなり、スマホから入ってます。1回目に送信したとき入力されてないと思って2回送信になってしまいました。

    1. ライオンまる より:

      パソコンから入れなくなっていましたか・・・お手数おかけしてしまいました。
      先日のアクセス障害以来、そういった不具合が出るようです。
      再度、調べてみますね。

      ダイアナの母の、娘思いながら単純に賢母とは言い切れない軽率さや無軌道さ、印象的でしたよね。
      できればダイアナの実父はもう少し内省してほしいと思いますが・・・
      「総理にされた男」の続編が出たこと知らなかったので、嬉しい驚きです。
      政治面はもちろんですが、一作目のヒロインとどうなったのか、かなり気になります。

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