修練を積み重ねた末にできるようになる巧みな技のことを<職人技>といいます。こんな言葉ができることからも分かる通り、職人とは熟練した技術で物を生み出すプロフェッショナル。根っからの不器用人間である私からすれば、同じ人間とは思えないレベルの技術を持った人達です。
ただ、職人をテーマにした小説となると、有名なのは専ら時代小説。現代小説となると意外に少ない気がします。特殊技術を用いる仕事である関係上、活躍する場面が限定され、物語にうまく絡めることが難しいせいでしょうか。確かに、せっかく職人がテーマなのだから、その技巧が作中で活かされていないと意味がありません。そんな中、この作品では、職人達の持つ技と業が巧みに描かれていました。乃南アサさんの『氷雨心中』です。
こんな人におすすめ
職人の世界をテーマにしたサスペンス短編集が読みたい人
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小説や漫画を読んでいると「このキャラは作者のお気に入りなんだな」と感じることがしばしばあります。作家とはいえ人間なのですから、特定のキャラクターに感情移入することもあって当然。他キャラに比べて登場シーンが多かったり、描写が丁寧だったり、必要以上に過酷な目に遭わされたり(笑)と、インパクトのある描き方をされることがしばしばです。
ただ、作者お気に入りキャラの例としてよく挙がるのは、さくらももこさん『ちびまる子ちゃん』の永沢君や、諫山創さん『進撃の巨人』のライナー等、漫画のキャラクターが多い気がします。やはり、キャラクターの活躍ぶりが目で見て分かりやすいからでしょうか。でも、小説の世界にも、作者の寵愛を受けて活躍するキャラクターがたくさんいるんですよ。このシリーズの探偵役も、絶対に作者のお気に入りだと勝手に思っています。西澤保彦さんの『腕貫探偵 残業中』です。
こんな人におすすめ
安楽椅子探偵もののミステリー短編集が読みたい人
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残念ながら私は画才に恵まれませんでした。子どもの頃から、図画工作や美術は苦手な教科の筆頭格。教室の後ろに自分の絵を飾られることが本気で憂鬱だったものです。
そんな私ですが、絵を見る方は結構好きです。正確には、絵そのものを見るというより、絵に関する背景やエピソードを知ることが好きなんですよ。ゴヤの<カルロス四世の家族>にはひっそりとゴヤ本人も描き込まれているとか、ダ・ヴィンチの<最後の晩餐>の向かって右側三人は「誰が裏切り者なんだ?」ではなく「今、キリスト先生が何て仰ったか聞き取れなかった!」と騒いでいるとか、夢中になって調べました。こうしたエピソードは、単に面白いだけでなく、画家の宗教観や死生観、当時の社会情勢などを知る手掛かりにもなるんですよね。今回ご紹介する作品にも、絵に込められた様々な思いや秘密が登場します。近藤史恵さんの『幽霊絵師火狂 筆のみが知る』です。
こんな人におすすめ
・絵にまつわる不思議なミステリーが読みたい人
・市井の人々が出てくる時代小説が好きな人
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キャリアを積んできた作家さんは、<知名度の高い代表作>を持っていることがしばしばあります。東野圭吾さんなら『秘密』『ガリレオシリーズ』、宮部みゆきさんなら『火車』『理由』、村上春樹さんなら『ノルウェイの森』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』・・・実写化や文学賞の受賞等の理由で、普段はあまり本を読まないという人達の間でも広く知られています。
ただ、実は私、誰もが知る有名作品に手を出すのは後回しになりがちなんです。例に挙げた作家さんだと、東野圭吾さんの『秘密』や、宮部みゆきさんの『火車』を読んだのは、お二人のファンになってから何年も経ってからのことでした。私の場合、本は買うより図書館で借りる方が圧倒的に多いため、<有名作品=予約人数が多いので後回し><マイナーな作品=すぐ借りられるので先に読む>になるのかなと、自分で推理しています。今日ご紹介する作品も、この作家さんの著作の中ではメジャーな方ではないものの、読んだのはかなり早かったです。もちろん、面白さは保証しますよ。乾くるみさんの『ハートフル・ラブ』です。
こんな人におすすめ
皮肉の効いたミステリー短編集が読みたい人
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新興住宅地。読んで字の如く、今まで宅地でなかった土地を新たに興した住宅地のことです。インフラ関係が新しく丈夫なこと、周囲に子育て世界が多く育児に向いていること、古参の住民がいないためゼロから人間関係をスタートさせられることなど、住む上でたくさんのメリットがあります。
その一方、当然ながらデメリットも存在します。郊外にあることが多いので交通の便が悪いこと、近隣住民がどんな人か事前に分からないこと、建築条件が付いている場合があるため完全に自分好みの家を建てられるわけではないこと・・・・・何事もそうですが、長所短所をよく見極めた上で物事を進めていかないと、人生は地獄になりかねません。今回ご紹介する作品には、新興住宅地で思わぬ地獄を見る羽目になった人達が登場します。真梨幸子さんの『四月一日のマイホーム』です。
こんな人におすすめ
新興住宅地で起こるドロドロのイヤミスに興味がある人
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「あなたは罪を償わなければなりません」「自分の罪と向き合い、償おうと思います」・・・ミステリーやサスペンス作品で、しばしば登場するフレーズです。罪を犯したなら、必ず償いをしなければならない。これを否定できる人間はどこにもいないでしょう。
では、この<罪を償う>とは一体何でしょうか。刑務所で服役すること?被害者もしくはその遺族に賠償金を払うこと?かつてハンムラビ法典が定めていたように、与えた被害同様の傷をその身に受けること?この答えは人によって千差万別であり、明確な答えを決めることは難しそうです。今回ご紹介する作品にも、罪の償いとは何なのか、煩悶する登場人物達が出てきます。湊かなえさんの『贖罪』です。
こんな人におすすめ
独白形式で進むサスペンスが読みたい人
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地球温暖化が叫ばれて久しい昨今、夏の暑さの到来もどんどん早くなっている気がします。今年で言えば、五月半ばの時点ですでに三十度を超える地方があったとのこと。これから夏本番ですし、暑さ対策をしっかり行い、元気に過ごしたいものですね。
読書好きが行える暑さ対策として一番古典的な方法は、やっぱりホラー作品を読んで背筋をゾッとさせることでしょう(ですよね?)。どんなホラーにゾッとするかは人それぞれだと思いますが、私個人としては、納涼という意味では古典的なジャパニーズホラーがぴったりな気がします。というわけで、今回取り上げるのはこちら。澤村伊智さんの『ぜんしゅの跫』です。
こんな人におすすめ
・バラエティ豊かなホラー短編集が読みたい人
・『比嘉姉妹シリーズ』が好きな人
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この世には、是非が簡単に決められないものがたくさんあります。<復讐>もその一つ。聖書に<復讐するは我にあり>と書いてあるように、個人が勝手に復讐することは許されないという考え方は、社会に根強く浸透しています。現実問題、一人一人が自由気ままに憎い相手に復讐していけば秩序は崩壊してしまうわけですから、それもやむをえないと言えるでしょう。
その一方で、「加害者に相応の罰を与えるのは、被害者の権利ではないのか?」という考え方も、間違っているとは言い切れません。実際、過去には<目には目を>で有名なハンムラビ法典や、江戸時代の仇討ち等、一定のルールの下で復讐を許した例も存在します。果たして復讐は許されるのか否か。この作品を読んで、改めて考えさせられました。櫛木理宇さんの『世界が赫に染まる日に』です。
こんな人におすすめ
少年犯罪にまつわるサスペンスが読みたい人
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ものすごく有名な割に、日本の創作物で主要キャラになることが意外と少ない存在、それが<天使>と<悪魔>だと思います。どちらも外国の宗教に由来する存在だからでしょうか。海外作品の場合、主人公のピンチを天使が救ってくれたり悪魔がラスボスだったりすることがしばしばありますが、日本ではこれらの役割を<神仏><守護霊><怨霊><妖怪>等が担うことが多い気がします。
簡単に説明しておくと、<天使>とはキリスト教やユダヤ教、イスラム教における神の使いで、<悪魔>とは神を冒涜し、敵対する超自然的存在だそうです。両者とも、比喩で使われることは多々あれど、そのものずばりがドドーンと出てくる国内作品となると、赤川次郎さんの『天使と悪魔シリーズ』か、森絵都さんの『カラフル』くらいしか知りませんでした。他には何かないかな・・・と思っていたところ、出会ったのがこの作品、朱川湊人さんの『今日からは、愛のひと』です。
こんな人におすすめ
笑って泣けるファンタジー小説が読みたい人
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「さあ、今日は一杯やるぞ!」となった時、まずどんなお酒に手を出すでしょうか。缶チューハイ、カクテル、ワイン、日本酒・・・それこそ無限に出てきそうですが、割合で言うなら、「まずビールで」となる人が多い気がします。家にしろ飲食店にしろ準備するのに時間がかからず、アルコール度数もさほどではないビールは、多くの人に好まれています。
国内外問わずポピュラーなお酒なだけあって、ビールがキーアイテムとして登場する小説はたくさんあります。竹内真さんの『ビールボーイズ』や吉村喜彦さんの『ビア・ボーイ』などは、お酒好きな人が読めばつい一杯やりたくなってしまうかもしれません。そう言えば、「村上春樹さんの小説を読むと、ビールが飲みたくなる」という声もあるのだとか。こんな言葉が出ることからしても、ビールというお酒がどれだけ世間に浸透しているかが分かります。今回ご紹介する作品にも、ビールが重要な小道具として登場しますよ。西澤保彦さんの『麦酒の家の冒険』です。
こんな人におすすめ
・多重解決ミステリーが読みたい人
・ビールがたくさん出てくる小説に興味がある人
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