犯罪を扱った物語を読む時、一番興味を持つ点はどこでしょうか。犯人の意外な正体?複雑怪奇なトリック?私の場合、それは「動機」です。登場人物たちはなぜ罪を犯し、犯罪者になったのか。その理由に惹かれてやみません。
金や復讐、痴情のもつれなど、一目見れば分かるような理由で犯行に走る者がいる一方、どうにも不可解な理由で罪を犯す者もいます。というわけで、今日はこの作品をご紹介しましょう。犯罪をテーマにした小説を数多く手がける薬丸岳さんの「ラストナイト」です。
顔にヒョウ柄の刺青を施し、左手は義手、異様な風体のまま三十年以上に渡って刑務所を出たり入ったりして来た男・片桐達夫。妻子とともに平和な暮らしを送っていたはずの彼は、なぜ犯罪を繰り返すようになったのか。昔馴染みの飲食店店主、担当弁護士、義絶状態の娘・・・・・関わった人々の目を通して浮かび上がってくる、片桐の悲しい真実とは。
序盤から、中心人物たる片桐達夫の出で立ちに圧倒される本作。前科があるだけで白眼視されるこのご時世に、なんと彼は顔にヒョウの刺青を入れているのです。また、かつての勤務先での事故が原因で左手は義手、全身から荒々しいオーラを発し、支援しようする人たちさえ跳ね除けます。まさに絵に描いたような犯罪者、それが片桐です。
しかし、物語が進むにつれ、なぜか片桐が悪人とは思えず、それどころか義理堅く誠実な男に見えてきます。たとえば、古い友人が作る焼きそばを美味しそうに頬張る姿、あるいは、世話になった弁護士に実直に礼を述べる姿。その真面目さや優しさが片桐の本性なのではないかと思うにつれ、読者はこう疑問を抱くでしょう。「なぜ彼は、些細な理由で犯罪を繰り返すのか」と。
本作は五人の登場人物の目を通し、片桐の生き様、彼が罪を重ねる理由が少しずつ浮かび上がってくるという構成です。視点となる登場人物が変わるごとに時間軸も変わるため、「ああ、あの裏側ではこんなことが・・・」と頷きながら読みました。片桐の行動の謎が解き明かされ、因縁に決着がつくラストは、胸が痛くなること必至です。
あらすじからも分かる通り、テーマは非常に重い上、やるせなく悲しい箇所も多々あります。ですが、ページ数自体がさほど多くないせいか、手を止めることなく最後まで一気読みすることができました。果たして、片桐は「最後の夜」に何をするつもりなのか。その答えを、ぜひご自分の目で確かめてください。
主人公の抱える秘密が切ない度★★★★☆
スピード感が凄い度★★★★☆
こんな人におすすめ
・勢いのあるサスペンス小説が読みたい人
・贖罪をテーマにした作品に興味がある人
本人しか分からない深い事情と執念、彼を心配する周囲の人たち。
彼を後を追い恩を返そうとする男性~惹き込まれるストーリーでした。
彼の行動理由や、取り巻く人間模様の行方が気になってたまらず、一気読みしてしまいました。
被害者・加害者双方の心理を書かせたら、薬丸さんの右に出る作家さんはそういませんね。
タイトルの意味に納得です。