フィクションの世界には、魅力溢れる主人公がたくさん登場します。そして、主人公が強烈な個性の持ち主だった場合、その家族もまた印象的なキャラクターだというパターンがしばしばあります。この場合、家族をメインに据えたスピンオフが生まれやすく、読者としては二度美味しいですね。
<主人公の家族もまた・・・>というケースで有名なのは、かのシャーロック・ホームズの兄であるマイクロフト・ホームズでしょう。ホームズをも凌ぐ頭脳の持ち主でありながら行動力がなく、人付き合いを嫌う者が集う会員制クラブを創設するような変わり者。ドラマ・映画版でも、ホームズ同様に強烈なキャラクターとして描写されることが多いです。家族関係を知ると、お気に入りキャラクターの背景をより深く知ることができるんですよ。今回は、大好きなキャラクターの家族について扱った作品を取り上げたいと思います。澤村伊智さんの『ととはり屋敷』です。
こんな人におすすめ
『比嘉姉妹シリーズ』が好きな人
夏の夜に兄弟が体験した血の惨劇、野球少年たちの間にはびこる悪意の連鎖、怪談話の舞台として語られる家の秘密、不可解な監禁状態が逃れようとする男女の運命、人を異界へと誘う怪異との戦い、幽霊屋敷に潜入した配信者が見た意外な光景・・・・・恐怖と悪意が加速する、大人気『比嘉姉妹シリーズ』前日譚
『比嘉姉妹シリーズ』には、シリーズ開始の時点で<比嘉家は、長女の琴子と三女の真琴を除く全員が怪異に殺された>という設定があります。これまで詳細な描写がなされたのは次女の美晴のみでしたが、語られなかった他の兄弟姉妹たちの物語が満を持して登場です。全員が悲劇的な死を遂げるのが分かっているので後味は相当悪いものの、これが本シリーズの持ち味であることも事実。ちらほら顔を出すシリーズ最強の霊能力者・琴子と、『ばくうどの悪夢』で大変なことになっている真琴の姿も、ファン魂をくすぐってくれました。
「チノカゼ、あるいは怪談の双曲線」・・・比嘉家の双子の兄弟・龍也は部活の夏合宿でキャンプ場へ、虎太は幼馴染の少女・奈津の家へ出向く。思い思いの夜を過ごす兄弟だが、夜、虎太の様子がおかしくなった。曰く、龍也がキャンプ場で異変に巻き込まれる姿が<視えた>のだそうだ。夢や狂言とは思えない。奈津は体調を崩した虎太に代わり、キャンプ場に様子を見に行くのだが・・・・・
澤村ワールドの中では数少ない、掛け値なしの善人である奈津。そんな彼女がこれほどの惨劇に巻き込まれてしまうなんて、さすが澤村伊智さん、容赦ありません。兄弟との束の間の交流が瑞々しい分、落差がすごいのなんの・・・ところで、冒頭で生徒が語る<双葉山の怪談>は、恐らく綾辻行人さん『殺人鬼シリーズ』のことですよね。作家さん同士の繋がりが垣間見えて、なんだか嬉しいです。
「受け継がれるもの」・・・とある男が語る、幼い日の思い出話。かつて男は少年野球チームに所属していたが、後輩の少年が突然、体調不良を理由に活動に来なくなる。チームメイトと二人で見舞いに訪れたところ、後輩は<周辺に置かれた物が片っ端から宙を飛び、体にぶつかってくる>という怪現象に悩まされていた。迂闊に外出すればアザだらけになるため、自室に引きこもっているのだという。後輩は「比嘉肇という少年は、この手の怪奇現象に詳しいらしいから、相談に乗ってもらえるかもしれない」と言い出して・・・・・
子どもの習い事という、一見溌剌としているようで、閉塞感たっぷりの人間模様が渦巻く舞台の使い方が見事でした。加害者がひどい目に遭うのは因果応報だけど、その加害者もまた、かつて被害者だった時期があることが察せられて、ものすごくやりきれなかったです。子どもながらに能力を使って人助けしようと頑張った肇が哀れ・・・あと、途中でちらりと触れられる霊能力者<オウサカ>が、女優の柴田理恵さんに似ているという記述にクスリとしてしまいました。これ、『ぼぎわんが、来る』の映画版『来る』ネタですね。
「このイベントはフィクションです/この怪談は実話です/この小説はエンタメです」・・・かつて住んでいた霊能者一家が次々死んでいった家。離散寸前の家族の中、淡々と日々を過ごす比嘉家四女・栞。二つの物語は意外な形でリンクして・・・・・
怪異が無双する『比嘉姉妹シリーズ』ですが、この話は現実的な意味で痛ましかったです。家族の大半が惨死した比嘉家が、オカルト好きの間でどんどんエンタメ化していく様子とか、兄弟たちを次々失った栞が、年齢不相応の冷静さで自分の末路を受け入れる姿とか・・・悲惨な事件が面白半分で考察されたり揶揄されたりすることは現実にもあるので、なんとも後味悪かったです。それから永見、お前はダメだ(怒)!!
「メイク・ユア・チョイス」・・・ふと気づくと、謎の部屋に監禁されていた男女四人。なぜか全員、部屋に来た経緯を思い出せず、犯人の目的も不明だ。誰かが「まるで映画『ソウ』のようだ」と言い出し、徐々に不安と緊張が高まっていく。と、そこに突然、半死半生の男性が現れて・・・・・
『比嘉姉妹シリーズ』主要登場人物である真琴が中心の話です。このシリーズ、現代的な都市伝説から長年言い伝えられてきた因習まで、ありとあらゆる怪異が登場するのですが、こういうテーマを扱うのは初めてな気がするので、なんだか新鮮でした。過去の悲劇を想起させるものの、最後には解決すること、監禁されていたメンバーが意外といい奴らなこともあり、本作収録作品の中では後味がいい部類だと思います。短編集『すみせごの贄』収録の「戸栗魅姫の仕事」に出てくる戸栗魅姫が再登場してくれるのも、個人的に嬉しい!彼女、結構好きなんですよ。
「かたので駅の怪」・・・かつて異界に取り込まれ、生還した二人の少女。その一人・尚美は無事に成人するも、同居していた老母が行方不明になってしまう。どうやら過去に尚美が足を踏み入れた異界に、母もまた迷い込んでしまったらしい。わずかな手がかりをもとに母を追う尚美。そんな彼女の前に、一人の女性が現れて・・・・・
過去、比嘉家の次女・美晴が遭遇した怪異に、現代軸で琴子が挑みます。<異世界の駅に迷い込み、手順通りのルートで現実世界への生還を目指す(追ってくる化け物有り)>というシチュエーションは、さながらホラーゲームのよう。シリーズ最強の霊能者・琴子がいるとはいえ、中盤はハラハラしてしまいました。それにしても美晴、本当に優しくて聡明ないい子だったんだなぁ。要所要所で彼女の思いやりを知るにつけ、その最期があまりに悲しいです。
「ととはり屋敷」・・・動画配信者の七村は、幽霊屋敷と名高い空き家を取材することにする。この家にはかつて霊能者一家が住んでいたが、家族のほとんどが不審死を遂げたらしい。実は七村は、学生時代、この家の長女・比嘉琴子と同級生だった。子供の頃、琴子の父親だという男と付き添って比嘉家を訪れたことがあるのだが・・・・・
登場箇所は数ページながら、比嘉姉妹の父・純平の無邪気なクズっぷりが印象的でした。こういう男が子ども七人も作っているという辺り、妙にリアリティがあって胸糞悪いのなんの・・・七村が意外と良心的だったこと、『ししりばの家』から再登場した五十嵐君が元気にやっていそうなこと、琴子の尽力が無駄にならなかったことなど、救いもあるところが良かったです。<ととはり屋敷>の由来は意外!
大好きなシリーズなんですが、唯一にして最大の注意点は、物語が一作目から最新作までしっかり繋がっているので、途中から読むと意味不明な箇所があるというところでしょうか。短編集も例外ではなく、本作で言うと、「次女・美晴はなんで死んだの?」「唐突に出てきた五十嵐君って一体誰?」等々、過去のシリーズを読まないと分からないと思います。最終話に出てきた比嘉家の父・純平に関しては、本作とほぼ同時期に刊行された『ざんどぅまの影』で詳細が語られるようですね。長いシリーズなので読破するのは少々時間がかかるかもしれませんが、読む価値はあると思いますよ。私は早く『ざんどぅまの影』を読もうっと。
比嘉家の子供たち、みんな真っ当だったのに・・・★★★★★
ホラー作品ネタがちらほらあるのが面白い度★★★★☆







