はいくる

「船乗りサッカレーの怖い話」 クリス・プリーストリー

海は、不思議で神秘的な物語の宝庫です。今なお未解明な部分が多く、人類を圧倒することさえあるのだから当然かもしれません。感動的なヒューマンストーリーや心躍るファンタジー冒険譚への登場率が高い一方、救いのないホラーの舞台になりがちなのも、そういう特性ゆえではないでしょうか。

そんな海での怪談話の語り手として一番ぴったりくる人間、それは船乗りだと思います。何しろ船を使って海を渡るのが仕事。修羅場の一つや二つくぐっていて不思議はありませんし、その中で不気味な体験をすることだってきっとあるでしょう。今回は、船乗りが語る怪談をテーマにした作品を取り上げたいと思います。クリス・プリーストリー氏『船乗りサッカレーの怖い話』です。

 

こんな人におすすめ

海を舞台にしたホラー短編集に興味がある人

スポンサーリンク

嵐の夜、崖の上に建つ宿屋で留守番をしながら、父親の帰りを待つイーサンとキャシーの兄妹。そんな中、サッカレーという船乗りが、休息を求めて飛び込んでくる。店主である父が不在の間に客を泊めるわけにはいかないが、かといってこんな悪天候の中、助けを求める人を見殺しにもできない。仕方なく滞在を許可した兄妹に対し、サッカレーは「お礼に、俺が知っている怖い話をいくつか聞かせてやろうか」と語りかけ・・・・・船乗りと異国の女の恋の顛末、仲間を殺した報いとして現れたモノ、漂流していた少年がもたらす生き地獄、人喰いカタツムリに狙われた船員たちの末路、血肉を好む化け物と海賊との死闘、海での死者を乗せる船の正体---――謎の船乗りが語る、残酷で恐ろしい怪奇小説短編集

 

『モンタギューおじさんの怖い話』に続く『怖い話シリーズ』第二弾です。今回、語り手となるのは正体不明の船乗りで、物語の舞台となるのはほとんど海。ヘリでの救助や通信機器を使ってのSOSが望めない時代、沖合でトラブルに見舞われたら、ほぼ逃げ場はありません。そんな閉塞感たっぷりの恐怖が迫力満点で迫ってきます。救いのなさも一巻以上で、これって児童書扱いしていいの?と心配になってしまうほどでした。以下、お気に入りの話をご紹介します。

 

「ピロスカ」・・・アメリカへの移民を乗せて航行中のドルフィン号。その船員であるリチャードは、美しい移民の女性・ピロスカに恋心を抱く。ピロスカもまたリチャードに好意を寄せ、二人は密かに逢瀬を繰り返すようになった。「一緒にアメリカに来てほしい」と語るピロスカの言葉に、迷うリチャード。しばらく考えた後、ようやく決意したリチャードはピロスカに対し、「君と一緒に行く」と答え・・・・・

初っ端から、ただの移民じゃないんだろうなというフラグ立ちまくりのピロスカ。人外との恋物語は悲恋に終わるパターンが多いとはいえ、あんまりと言えばあんまりな結末に呆然としてしまいました。リチャードが一体何をしたっていうんだよ・・・ピロスカの申し出に対し、リチャードがどう答えようと末路は変わらなかったであろうところが、余計に哀れです。

 

「ピッチ」・・・ハーパーは大酒飲みの上に気性が荒く、仲間から腫物扱いされる船乗りだ。そんなハーパーだが、唯一、トムという船員仲間にのみ親し気に振る舞うも、そのせいでトムは他の船員たちから遠巻きにされてしまう。こんなに白い目で見られなくちゃならないのは、ハーパーのせいだ。我慢の限界に達したトムは、ある夜、ハーパーを海に落とし、なおも船体にしがみつこうとする彼の手を斧で切り落とすのだが・・・・・

レビューサイトでも同様の感想を見かけましたが、どことなくエドガー・アラン・ポーの『黒猫』を彷彿とさせます。それもそのはずで、ポーの怪奇小説を読み漁ったことから、作者であるクリス・プリーストリー氏の作家人生は始まったとのこと。そのリスペクトを強く感じる、古き良きゴシックホラーの香りが漂う話でした。トムは想像を絶する恐怖を味わったわけですが、そもそも人を殺したんだもんな。ハーパーがなぜトムにだけ好意的だったのか、最後まで謎なところが気になります。

 

「ボートに乗った少年」・・・とある船が、大海原を漂っていたボートを保護する。乗っていたのは一人の少年。口がきけない様子なものの、見るからに無邪気な少年に船員たちはたちまち魅了される。と、一人の船員が怪我をするのを見るや否や、少年は天使のように明るく可愛らしい笑顔を見せた。怪我をしたのに笑うなんて不謹慎な、と怒るべきはずが、船員たちはつられたように大笑いを始め・・・・・

私はこの話が一番気に入りました。流血沙汰を見るとはしゃいで笑う少年と、その愛らしさに魅了され、つられて笑う船員たち。想像すると、シュールでいながら恐ろしい光景です。「ピロスカ」のリチャード同様、何一つ悪いことをしていないにも関わらず地獄を見る羽目になった船員たちがひたすら気の毒で気の毒で・・・なんとなくですが、この謎の少年は『ジュラシック・パーク』『マイ・フレンド・フォーエバー』の頃のジョゼフ・マゼロを想像しながら読みました。

 

「カタツムリ」・・・富豪の父親から、武者修行目的で商船に乗ることを強いられ、ジョージの気分はどん底だ。案の定、内気で要領の悪いジョージは船員たちと馴染めず、気は滅入るばかり。そんなある日、船に奇妙なカタツムリが乗り込んでくる。見たこともないほど大きい上、どうやら肉食らしく、人間にも平気で食いつくのだ。カタツムリの数はどんどん増えて船中を這い廻り、船員たちは不安を隠せない。その時、もともと小動物に詳しかったジョージは、このカタツムリがとても美味だということに気づき・・・・・

生理的な恐怖という意味では、この話が収録作品中一番ではないでしょうか。狂暴で、血と肉を好む巨大(ボーリング球くらい)なカタツムリ。そんな生き物が、潰しても潰しても人肉目当てに船に這い上がってきて、しかもその数は数えきれない!想像しただけでゾッとしてしまいます。ただ<身のしっかりしたサーモンステーキとやわらかいラム肉のあいだくらいのすばらしい味>だというカタツムリの味は、ちょっと気になります。

 

「サル」・・・ひょんなことから海賊船に新米とした乗り込むことになった少年・ルイス。ところが、海賊船は商船との戦いに敗れて大打撃を食らい、急遽、新しい船を調達しなければならなくなる。そんな時、偶然にも一隻の船と出くわした。ルイスは海賊の一員として船に押し入るが、なぜか船内は無人だ。見つかったのは、一匹のサルのみ。どうやらこのサルに噛まれると、一瞬で体が黒ずみ、膨れ上がって死んでしまうようで・・・

「カタツムリ」同様、謎の凶悪生物への恐怖を描いた話です。「カタツムリ」と違ってこちらは海賊が犠牲になりますが、あんまりいい気味だという感じがしないのは、彼らの末路が尋常じゃないレベルで壮絶だからでしょう。泣く子も黙る大物海賊・リーヴ船長(この人はフィクション)が、最後まで小物化せず、化け物に立ち向かうところは熱かったです。

 

「黒い船」・・・停泊中の船の中、船員たちは各々が知る物語を語り合う。次の語り手は、給仕係のジェイコブだ。ジェイコブは、前に乗っていた船のコックから聞いた話を語ることにした。大嵐に遭ってほとんどの船員は死に、たった一人生き残ったコック。マストにしがみついて大海原を漂っていると、黒ずんだ船が見えた。助かった!喜びに打ち震えたのも束の間、なんと辺りに浮かんだ船員たちの死体が動き始め・・・・・

終盤のドンデン返しがインパクトありました。これ、<なぜ全滅エンドを迎えた人たちの物語を後になって語ることができるのか>という怪談あるあるに対する一つのアンサーですね。船員たちの死体が動き出す描写はものすごく気色悪く、光景を想像すると鳥肌が・・・・・でも、娯楽が限定されがちな航海中、船乗りたちが各自の語る物語を楽しみにする気持ち、すごく分かります。

 

「トリカブト」・・・物語を語り終え、サッカレーは去っていった。残された兄妹は、サッカレーの素性についてあれこれ想像を巡らせる。と、その時、屋内に見知らぬ男二人組が入って来た。こいつら一体何者だ?とりあえずイーサンはキャシーを連れて物置に隠れるが・・・・・

最終話にして、兄妹の物語が明かされました。薄々そんなことじゃないかなと思ったけれど、やっぱり・・・真実が分かってみると、サッカレーがなぜこの宿屋を訪れたのか、色々と考察できてしまいます。なお、この話で宿屋を訪れる二人組のうち、片方の名前はモンタギュー。シリーズ第一弾『モンタギューおじさんの怖い話』の主要登場人物・モンタギューおじさんの若き日の姿です。物語としては特に繋がっていないのですが、「おっ」と思ってしまいました。

 

このシリーズ、内容は言うまでもないとして、装丁も素敵なんですよ。エドワード・ゴーリーやティム・バートンを思い起こさせる、一見柔らかめに見えて不気味かつ不穏なタッチの魅力的なことといったら!一巻から三巻『トンネルに消えた女の怖い話』まで揃えて、そのまま部屋のインテリアにしたいくらいです。

 

後味の悪さは一巻以上・・・度★★★★★

閉鎖的な状況での怪現象が超怖い!度★★★★★

スポンサーリンク

コメント

  1. しんくん より:

     海外の海に関わるミステリーですね。
     短編集でもなかなか興味深い内容です。日本のミステリーより海は十五少年漂流記や不思議の海のナディア、ワンピースのような冒険ファンタジーのイメージです。大航海時代の雰囲気も感じるので読んでみたいです。

コメントを残す

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください