はいくる

「モンタギューおじさんの怖い話」 クリス・プリーストリー

私が、日本のイラストレーターさんで「この方が挿画を担当していたら、何はともあれあらすじをチェックする」というのは、北見隆さん。不思議で、幻想的で、どこか不穏さを感じさせるタッチが大好きなんですよ。事前情報ゼロの状態にもかかわらず、北見隆さんのイラストだったからこそ手に取り、その面白さに魅了された作品もたくさんあります。

同様の存在が海外にも存在します。それが、デイヴィッド・ロバーツ氏。雰囲気としては、最恐の絵本作家と名高いエドワード・ゴーリー氏の絵と通ずるもののある、静寂と不気味さ漂う画風が堪らなく好きなんです。今回取り上げる作品も、デイヴィッド・ロバーツ氏がイラストを担当していると知って読み始め、結果、大満足でした。クリス・プリーストリー氏『モンタギューおじさんの怖い話』です。

 

こんな人におすすめ

イギリスのゴシックホラー短編集に興味がある人

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学校が休みの間、親戚のモンタギューおじさんの屋敷で過ごす少年・エドガー。年齢も素性もよく分からないおじさんは、広々とした不気味な邸内で、エドガーに怖い話を語って聞かせる。<ノボルナ>という字が刻まれたニレの木、完全に塞がれて形だけが残ったドア、持ち主から決して離れないベンチ飾り、庭の部分が真っ黒に塗られた油絵、魔女と噂される老女が育てるリンゴの木、金の額ぶちに収められた肖像写真、トルコの小さな村を描いた絵、妙なシミが浮かんだ結婚式の写真、古い真鍮の望遠鏡。屋敷に置かれた不思議な道具にまつわる怪談話の数々に、エドガーは惹きつけられていく。だが、怪異は徐々に現実を侵食してきて・・・・・英国ゴーストストーリー愛好家の作者が贈る、奇妙で不気味なホラー短編小説集

 

イギリスは、私の中で勝手に<東の日本、西のイギリス>と認定されている、じめ~っとした陰鬱ホラーの宝庫。本作も例外ではなく、イギリスホラーらしい気品と情緒と排他的な雰囲気に溢れた名作です。ただ怖いだけでなく、モンタギューおじさんの屋敷や、供されるお茶とお菓子、紳士に求められる所作等、イギリス文化が垣間見える描写も印象的でした。収録作品の内、インパクトの強かったものをご紹介します。

 

「元ドア」・・・感化院で出会ったモートと共に、霊媒母娘だと名乗って詐欺を働くハリエット。モートが偽の交霊術で人の目を引き付けている間、ハリエットが客の家をこっそり見て回って金目の物をいただくのだ。この日もいつも通りの手順で邸内を物色していると、開かないドアを見つける。と、そこに現れた家人らしき少女が、「そこは施錠されているのではなく、塞がれている。もうドアとしては使われていないから、私は<元ドア>と呼んでいる」と言って・・・・

本作に登場する子ども達は、基本的に小ずるかったり怠惰だったり乱暴だったりと悪ガキ揃い。中でも、この話のハリエットは詐欺師として犯行を繰り返してきた正真正銘の犯罪者です。罪を重ね、嘘ばかりついてきた彼女が、実は<本物>だったと知れた時はすでに手遅れで・・・<元ドア>もさることながら、私は作中に出てくるドールハウスの使い方が、ホラーの小道具としてぴったりだと思いました。

 

「ベンチ飾り」・・・トーマスは両親と外出中、みすぼらしい行商人と出会う。売り物の中で、悪魔の形をしたベンチ飾りに惹かれるが、行商人は「それは売り物じゃない」と言うばかり。どうしてもベンチ飾りを諦めきれないトーマスは、こっそり盗もうと考える。そんな彼を、行商人はあっさり捕まえ、「そのベンチ飾りは、誰かが自ら奪い取らない限り、絶対に手放せない。お前は早く手放せるといいな」と語り・・・・・

不気味な悪魔を模したベンチ飾り(教会の信者席に置く飾り)なんてどうして欲しいんじゃい!?と突っ込みたくなってしまいますが、これに惹かれること自体、悪魔に目を付けられた証なのでしょう。そのせいで生き地獄を味わうトーマスの姿は哀れの一言。さらに、行商人の台詞からして、こんな惨劇がもう何世代も繰り返されてきたであろうことが察せられ、暗澹たる気持ちにさせられます。

 

「剪定」・・・サイモンの毎日は退屈なことばかり。貧しい暮らしから脱するため、母と二人、母の生まれ故郷の村に移り住んだものの、面白いことが何一つないのだ。気晴らしに、古株の住人らしい盲目の老女にちょっかいをかけようとするも、あっさり一蹴されてしまう。母親曰く、その老女は小金を貯めているらしい。サイモンは盗みを企て、老女の家に忍び込むのだが・・・・・

ひぃぃぃっっっ、痛い痛い痛い!!!サイモンがこれから味わう苦痛を思うと、背筋が寒くなりそうでした。他の話で、一思いに死ねた子どもがまだ幸せかもと思えるほどです。でも、彼が気軽な気持ちで老人から金を盗もうとしたことも事実。同時に、女手一つで頑張る母親を気遣う優しさがあることも事実。ちょっと情状酌量して、しばらく痛い目を見せた後で解放ルートになるといいんだけど・・・母親の昔話の描写を見るに、難しいかな(汗)

 

「額ぶち」・・・ある日、クリスティーナの母は、金の額ぶちに入った肖像写真を買ってくる。写っているのは、黒髪の少女だ。ただの肖像写真かと思いきや、少女はクリスティーナに語り掛け、願い事を三つ、叶えてくれるという。確かに、少女はクリスティーナの願いを叶えてくれた。ただしそれはクリスティーナが望んだ形ではなく・・・

ホラーで願い事を叶えるアイテムが出た場合、大抵は「とんでもない不幸が起こり、結果として望み通りになる」というのがお約束。この話もそういうお約束ルートを辿るのですが、終盤、肖像写真の意外な正体が挿入されることで、ミステリーのような驚きを味わえます。なるほど、クリスティーナは願い事云々とは関係なく、初っ端から悪魔(?)に魅入られていたわけですね。

 

「毛布箱」・・・よく知らない親戚の結婚式。ちっとも打ち解けられない従姉妹達。暇を持て余すヴィクトリアは、マーガレットという少女と知り合う。成り行きでかくれんぼのペアを組むことになり、一緒に毛布箱の中に隠れる二人。と、そこへ従姉妹達がやって来た。隠れているヴィクトリア達には気づいていないから、タイミングを見計らって飛び出し、驚かせてやろう。そう企むヴィクトリアをよそに、従姉妹達はこの家にまつわる幽霊話を語り始める。昔、ここに住んでいた男が人を殺し、死刑になったそうなのだが・・・

本作収録作品に出てくる怪異は、悪魔なのか魔女なのか悪霊なのか、正体不明というパターンが多いのですが、この話は別。怪異の正体が何者か、はっきり分かる描写がされています。そのため、王道をいくザ・怪談という雰囲気が強いですね。さらにもう一つ、作中では珍しいことに、主人公のヴィクトリアが(たぶん)無事に生還します。彼女、他の主人公達と違って特に問題児というわけではなく、せいぜい意地悪な従姉妹達に意趣返しを目論んだ程度。惨死や発狂エンドにならなくて良かったです。

 

「道」・・・何の変化もない山岳地帯での暮らしに見切りをつけ、家出を決行したマシュー。旅の道連れは、亡き祖父の形見である望遠鏡だ。マシューは意気揚々と丘を越えようとするが、間もなく、不審な男が後ろからつけてくることに気づく。あいつは一体誰なんだ?マシューがよく見ようと望遠鏡を覗くと、なんと男の体は半ば潰れて血まみれで・・・

望遠鏡を覗くと、血まみれで手足が折れ、容貌が分からないほど顔が潰れた男が見える。それだけでも鳥肌モノですが、なんとその男が自分を追いかけてくる!!この状況を想像しただけで、ゾッとしてしまいます。追いかけてくる男も怖いけど、こんな物が見える望遠鏡も意味不明すぎる・・・・亡き祖父がなぜ望遠鏡を主人公に遺したのか、色々想像してしまいました。

 

「おじさんの物語」・・・ついに明かされる、モンタギューおじさんの過去。かつてこの屋敷は学校で、おじさんは校長だった。だが、誠実な教師とはいえず、ギャンブルにのめり込んだ挙句、生徒達の金に手をつけるようになる。間もなく窃盗の事実が明るみに出るも、疑いをかけられたのは校長のおじさんではなく、ウィリアムという孤児の生徒だった。自らの罪を隠蔽するため、これ幸いとウィリアムを犯人に仕立て上げるおじさん。間もなくウィリアムは自殺してしまい・・・・・

いよいよモンタギューおじさんの秘密が語られます。不気味な屋敷の中、決して姿の見えない使用人と共に、いわくつきの道具に囲まれて暮らすおじさん。何かしら過去があるのだろうなと思っていましたが、予想以上に卑劣な悪事を働いていたと分かり、びっくりでした。たぶん、彼は贖罪が終わるその日まで、屋敷を離れられないのでしょう。おじさんが屋敷の周りをうろつく子ども達にかける言葉、エドガーとの別れで見せた笑顔の余韻がやりきれなかったです。

 

一応、児童書のくくりに入る作品なのですが、内容はむしろ大人向け。いくら悪ガキ揃いとはいえ、子どもが何の救いも希望もなく犠牲になる話が続くため、心の準備をしておかないと相当ショッキングかもしれません。ホラーだということをよくよく念頭に置いて読むことをお勧めします。

 

子ども達が味わう恐怖の描写がリアルすぎる度★★★★★

でも、こういう怪談語りの場は面白そう度★★★★★

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