ホラー作品の定番シチュエーションの一つに<謎の多いアルバイトをする>というものがあります。<家や学校といった日常生活の場を離れる><金銭を得る以上、多少不可解なことがあっても我慢してしまう><正社員に比べると、就労環境に対する事前確認が甘くなりがち>といった、ホラーにぴったりの要素を揃えやすいからでしょうか。好条件のアルバイト先に出向いてみると、意味不明な仕事を任される。さらにそこに奇妙なルールや禁止事項を加えれば、あら不思議、王道をいくザ・ホラーの出来上がりです。
この手の話で有名なものとしては、Web発祥の怪談であり、映画化もされた『リゾートバイト』があります。また、私が大好きな三津田信三さんも『のぞきめ』、『怪談のテープ起こし』収録の「留守番の夜」などでこのテーマを扱っています。どれも魅力的な作品でしたが、最近読んだこの作品の面白さはピカイチでした。櫛木理宇さんの『鬼門の村』です。
こんな人におすすめ
因縁深い村ホラーが読みたい人
みんな、みんな、道連れだ---――尊敬する大学教授に見込まれ、夏休み中、怪談話を整理するアルバイトを行うことになった主人公。課された条件は二つ。一つ目は、仕事中、とある山村内にある、かつて一家惨殺事件が起きた家で寝泊まりすること。二つ目は、滞在中は決して村の水や食料を口にしないこと。好条件に釣られて仕事を始めた主人公だが、やがてこれがただのアルバイトではないことに気づく。無関係なようで、あちこちで繋がった怪談の数々。過去から現代に至るまで、複雑に絡み合った人間関係。村に隠されたあまりに惨い罪と業。それらが眼前に迫ってきた時、主人公が下す決断は果たして・・・・・村ホラーの傑作、ここに誕生!
意外なことですが、櫛木理宇さんにとって、本作が初の長編ホラー小説なんですね。『ホーンテッド・キャンパスシリーズ』は一部を除いて短編集だし、『避雷針の夏』『鵜頭川村事件』などはホラーっぽいシチュエーションで始まりつつもサスペンス寄り。対して本作は、人知を超えた怪異が登場するゴリゴリのホラーです。そこに櫛木理宇さんらしい人間の悪意描写が絡まり、実に満足度の高い一冊に仕上がっていました。
主人公・清玄は、家族との縁が薄く、ひっそりと日々を過ごす大学生。ある日、尊敬する民俗学教授・嘉形から、夏休み中、嘉形が集めた怪談の整理をするアルバイトを頼まれます。場所は、R県の片田舎に位置する丑土村。<仕事中は村から出ず、かつて一家惨殺事件が起こった家に滞在すること><村の水や食べ物は決して口にしないこと>そんな二つの条件を課されて始まった仕事は、嘉形のもとに届いた膨大な怪談話の中から、丑土村に関わるものを探して清書するというものでした。清玄は仕事を進めるうち、丑土村に対して疑念を抱き始めます。その疑念は、間もなく彼の人生をも浸蝕していきます。果たして清玄は、無事にアルバイトを終えることができるのでしょうか。
何と言ってもまず、清玄が整理し、嘉形教授に送る怪談話が超怖い!!隣家に住むカップルの奇行、旅行中に仲間が見せた異様な姿、出先で知り合った少年たちの謎、恋人の実家で家族が繰り広げる謎の一幕、子ども達が体験したひと夏の怪異譚etcetc。<嘉形が出演するラジオ番組に投稿された怪談>という体裁なので、一話一話のボリュームは少なめなのですが、とてもそうは思えないほど密度が濃かったです。怪談好きとしては、何なら本来の趣旨そっちのけで、この怪談特集だけずっと読み続けたいと思ってしまったくらいでした。日焼けした少年と色白の少年、二人に出くわす話なんて、その後の真相まで含めてショッキングだったなぁ・・・
もちろん、怪談整理を進むにつれて見えてくる、このアルバイトの真の目的と、村の暗部パートの描写も秀逸です。意外だったのは、こうした片田舎が舞台のホラーとしては珍しく、村人が清玄を白い目で見たり冷遇したりする描写がないこと。てっきり『避雷針の夏』ばりに陰湿さ全開で行くのかと思いきや、皆、最初から清玄を穏やかに迎え入れます。ふうん、本作の田舎は因習ドロドロってわけじゃないのかな・・・と一瞬思った分、終盤で真相が分かった時はどーんと気持ちが落ちました。この村、たぶん何かしらあるんだろうと思ってはいたけど、まさかそんなことまでしてたんかい。あまりの残虐さ、惨たらしさに、被害者が世界滅ぼしたくなるのももっともだと納得してしまいました。
扱う題材が題材なので、すべて解決して大団円とは言い難いのですが、不思議と読後感は悪くないです。それは恐らく、清玄が現状と今後を正確に見抜いた上で、「上等だ。来てみやがれ」と受け入れているからでしょう。表紙とリンクしたラストシーンには、妙な爽快さすら感じました。あえて言うなら、清玄の父&継母には、はっきりと報いを受ける場面があってほしかった気もしますが・・・・・夏に読むのにぴったりの一冊だと思います。
「ひぃひぃひぃ」「くしゃっ」が頭から離れない度★★★★★
表紙もしっかり見てみてね度★★★★★







