<多重解決ミステリー>と呼ばれるミステリー作品があります。これは、複数の探偵役が試行錯誤・推理合戦を繰り返しながら真相に迫っていくタイプのミステリーのこと。傑出した天才名探偵がいないことが多い分、探偵役に感情移入がしやすい上、新説が披露されるたび新たな驚きと楽しみを味わうことができます。
多重解決ミステリーの例を挙げると、歌野晶午さんの『密室殺人ゲームシリーズ』、辻村深月さんの『冷たい校舎の時は止まる』。海外作品なら、アントニイ・バークリーの『毒入りチョコレート事件』などが有名です。そして、この手の作品なら、やっぱり西澤保彦さんを外すことはできません。今回ご紹介するのは『聯愁殺』。多重解決ミステリーの醍醐味を存分に堪能できました。
こんな人におすすめ
多重解決ミステリーを読みたい人
なぜ私は殺されかけたのだろうか---――連続殺人事件の唯一の生存者として、苦悩の日々を送る梢絵。犯人は未だ逮捕されておらず、事件は未解決のまま。犯人は今どこにいるのか。どうして私が狙われる羽目になったのか。悩んだ末、推理愛好家達が集う<恋迷会>に事件の推理を依頼する。残されたわずかな手がかりから、事件を解き明かそうとする恋迷会の面々。果たして彼らは、梢絵は、真相に辿り着くことができるのか。二転三転する推理の行方を描いた本格長編ミステリー
西澤保彦さんは『匠千暁シリーズ』をはじめ、探偵役が複数登場する多重解決ミステリーをたくさん執筆されています。ただ、それらがシリアスな事件を扱いつつ軽妙な雰囲気なのに対し、本作の雰囲気は終始重め。『七回死んだ男』辺りの次に本作を読むとかなりショッキングだと思うので、注意した方がいいかもしれません。
四年前の大晦日、謎の人物に殺されかけた過去を持つ主人公・梢絵。必死の抵抗によりどうにか難を逃れるも、犯人は行方をくらませたまま。犯人が残していった手帳により、梢絵以外にも複数の人物が標的とされていたこと、梢絵以外の標的全員が殺されていることが分かります。標的の選考基準は今もって不明。なぜ私は連続殺人鬼の標的にされてしまったのか。訳が分からず、トラウマでまともな人間関係が築けなくなった梢絵は、<恋迷会>というグループに事件を推理するよう依頼します。恋迷会は推理マニアの素人探偵が集まったグループで、過去に事件解決に至った実績もあるとのこと。依頼を受け、恋迷会は早速推理合戦を開始します。梢絵は真相を知り、事件を乗り越えることができるのでしょうか。
私が一番面白いと感じたのは、主人公である梢絵が徹底して<なぜ私は殺されかけたのか>にこだわっている点です。ミステリーの場合、往々にして<誰が犯人なのか><どうやって犯行を行ったのか>がメインテーマになりがちですが、本作の主軸はあくまで<ホワイダニット>。実は私、ミステリー好き失格と言われることを覚悟で書いてしまうと、緻密な犯行トリックを理解するのが苦手なんですよ。科学技術を利用した密室殺人とか、細かな時刻表トリックとか、読んでいると眉間に皺が寄ってくる方です。その点、作中では梢絵も、恋迷会のメンバー達も、<犯人はどういう基準で標的を選び、なぜ梢絵がそこに入ったのか>という疑問に焦点を当てているので、とても読みやすかったです。
まあ、考えてみれば当たり前の話ですが、もし現実に犯罪と関わってしまった場合、「犯人はどうやって犯行を実行したのか」なんて律儀に考えるのはよっぽどのマニアのみ。大多数の人間は「なぜ自分がこんな目に遭ったんだろう」と思い悩むはずです。過酷な体験を受け止められず、社会生活に支障を来すほど苦しむ梢絵の気持ち、すごくよく分かりました。ミステリーやホラーの登場人物って、壮絶な目に遭っても案外けろっと立ち直ることが多いですが、実際はこうなりますよね。
さて、本作は、前書きに挙げたアントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』の影響を受けています。確かに、恋迷会のメンバーがああでもないこうでもないと各自の推理を披露し合い、そのたびに事件の新たな面が見えてくるところは多重解決ミステリーの王道そのもの。ただ、単純に推理の質自体を見ると、さほど目新しいものではありません。たぶん意図的だと思いますが、各自の説には結構穴が多いですし、恋迷会のキャラクターも個性的というほどではなく、「うーん、本作はイマイチかな」と思う読者もいるでしょう。
ただ、仮に平々凡々だと感じても、そこで読むのをやめるのはもったいないです。本作の肝は終盤も終盤。ページ数が残りわずかなところになって世界が反転し、真相と後日談が語られる瞬間の衝撃は凄まじいですよ。恋迷会の面子が今一つ没個性的だったのも、彼らの推理が意外にポンコツだったのも、すべてはこのクライマックスのためだったのかと納得させられました。
ちなみに本作、西澤ワールドのお約束<登場人物が珍名揃い>がこれでもかと発揮されています。<一礼比(いちろい)>だの<双侶(なるとも)>だのといった難読名字がずらずら登場し、初登場時以外はフリガナも付きません。ここが引っかかって読みにくいという読者も一定数いるようなので、頭に留めておくことをお勧めします。
ミスリードの仕掛け方が鮮やかすぎる度★★★★☆
犯人にも救いがあるといいけれど・・・★★★★★
初めて書きます。ハイクルさんとは好みがほぼ同じなので、かなり読みました。
図書館で借りるので、時間がかかりますが・・・
それと、私かなり年ですよ。
読んでくれて嬉しいです。
読書は何歳になっても楽しいですよね。
私も図書館派なので、新刊が手元に来るまでかなりかかりますが・・・いつも気長に待ってます(^^;)
題名からして読めませんでした。
今はフリガナがある場合が増えましたが最初だけで二回目が読めず最初に戻ったりネットで調べたりします。
名前も読みにくい字があり最初だけしかフリガナが無いので忘れて最初に戻ることもあります。
難しそうですが大変興味深い設定と内容で読んでみたいです。
「れんしゅうさつ」と一発で読める読者は、果たしてどれだけいるのでしょうか?
私など適当な人間なので、難読な場合は正しい読み方を覚えず、ぱっと見た時に思いついた読み方でずっと読んじゃいます。
本作のタイトルの場合、「みみしゅうさつ」とずっと読んでいました(^^;)
内容自体は難解な解釈が必要となるわけではなく、面白かったですよ。
こんばんは、ライオン丸さん。
この西澤保彦さんの「聯愁殺」は、無差別連続殺人事件に対して、アントニイ・バークリーの「毒入りチョコレート殺人事件」、もしくはアイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」ばりの推理ゲームが繰り広げられますね。
ミステリ作家や心理学者、警察OBたちの討論。4人の人物を巡るミッシングリンク探し。
しかし、梢絵もそれを見て、稚気と表現しているように、目新しい事実も確かにあるものの、基本的にはかなり苦しいこじつけの推理も多く、本家ほどの切れが見られないように思います。
「毒入りチョコレート事件」の場合は、それこそ、どの人物の推理をとっても、紛れもない真実と思わされてしまう部分が凄い作品だと思うのですが、この作品は、少々反論された程度で崩されてしまう推理ばかり。
これでは読んでいるうちに、少々食傷気味になってしまいます。
しかし、この作品の真骨頂は、また別の部分にあるんですね。
やはり、西澤保彦作品は、一筋縄ではいきません。
とにかく、このラストは凄いですね。さすが西澤保彦作品。
そして、明かされる、人の心の奥底に潜んだ闇。
痛々しく凄まじく、なんとも 破壊的なラストですね。
こんにちは、オーウェンさん。
西澤保彦さんの多重解決ミステリー、大好きなんですよ。
ただ、「タック&タカチシリーズ」をはじめ、西澤ワールドの多重解決ミステリーがどの説もそれなりに筋が通っているのに対し、本作の仮説は素人目で見ても穴だらけ。
オーウェンさん同様、途中で飽きを感じたりもしましたが・・・・・すべては終盤でひっくり返りました。
読者を辟易させるような迷推理の数々は、あのラストを作るためだったんでしょうね。
途中のダレを我慢してでも、読み終える価値のある作品だと思います。