はいくる

「ママにグッバイ」 ハイラ・コールマン

小学校高学年から中学生にかけて、海外の児童小説にハマった時期があります。友達とのパジャマパーティー、珍しいアイスやケーキ、信じられないくらい長い夏休み、ボーイフレンドと出かけるダンスパーティー・・・外国ではこんなお洒落な生活が送れるのかと、うっとりしながら読みふけったものです。

もっとも、きらきらしているだけに見えたのは私の読み方が浅かったからで、しっかり内容を考えれば、そうそう甘いことばかり書いていたわけじゃなかったと分かります。イリーナ・コルシュノフの『ゼバスチアンからの電話』では世代を超えたジェンダー問題を、ウィロ・デイビス・ロバーツの『ねじれた夏』では田舎の入り組んだ人間関係を、キット・ピアソンの『丘の家、夢の家族』ではネグレクトに苦しむ子どもの戦いを、とても丁寧に描いていました。今回取り上げる小説も、改めて内容について考えてみた時、その深さと重さに驚いた記憶があります。ハイラ・コールマン『ママにグッバイ』です。

 

こんな人におすすめ

毒親問題に関心がある人

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愛しているのに、なぜうまくいかないのだろうか--――父の急死により、母と二人きりになった女子高生・ダラス。溌剌として、知的で、思いやりに溢れていた父。その死に打ちのめされた母は、唯一残された家族であるダラスに依存するようになる。一人で外出すらろくにできず、ありとあらゆることを共有するよう求められ、ついには進路さえ変えるよう訴えてくる始末。このままではママに人生を奪われてしまう。苛立ち、あがくダラスだが、実は母にも胸に秘めた思いがあって・・・・・母と娘、それぞれの自立を描いたヒューマンストーリー

 

児童小説の場合、のどかなように見えて、実はとんでもなくシリアスなテーマを扱ってることがしばしばあります。本作も同様で、テーマとなっているのは毒親問題。日本での出版が一九八七年、当然<毒親>などという言葉がまだ存在しなかった頃の本ですが、書かれた内容はそれを感じさせないくらいリアルです。つくづく、こういう問題は時代を超えるのだなと実感しました。

 

主人公は、大学進学を間近に控えた女子高生・ダラス。大好きだった父が病気で急死し、母親のエレンと二人暮らしを始めます。もともと内向的で父に頼りきりだった母は、未亡人となったショックを乗り越えることができず、ダラスに依存するようになりました。頭では母を支えなければならないと分かっていても、ろくに一人になる時間すらもらえない毎日に苛立つダラス。少しでも自由が欲しいと、女友達や彼氏との時間を大事にしようとしますが、母はそこにまで割り込んできて・・・・・

 

この母親の娘への依存の仕方が最高にイライラする!ダラスが自分から一分でも離れることを受け入れられず、外出には当然のように同行。子ども同士の約束にもついてきて、それを厭われれば「(ついていくことが)悪いの!?」と号泣。ダラスが夢だった卒業後の進路さえ変更させようとします。ここで忘れちゃいけないのは、ダラスだって最愛の父を亡くしたばかりだということ。なのに、母親は大人として娘を労わることなく、ただただ自分の悲しみと孤独を訴えるばかり。殴る蹴るするわけでも、罵るわけでもないけれど、これもまた一種の虐待では?と思えるレベルです。

 

本作が秀逸なのは、ダラスの章と平行する形で、母・エレンの章も綴られているという点。エレン視点では、ダラスへの愛情の一点の曇りもなく、二人で支え合っていきたいだけ。ダラスの友達付き合いに同行することも、「ティーンエイジャーの子達とも気さくに付き合える、理解ある私」ということになります。なんて幼稚な思考・・・と思うのは簡単ですが、ここで、ちらほらと語られるエレン自身の過去が活きてきます。エレンの母は頑固かつ高圧的な人で、母娘で一緒に何かを楽しんだりすることなどついぞありませんでした。私はあんな母親にはならない。娘に私のような思いはさせたくない。今やこの世で二人きりの親子なのだから、娘とすべての楽しみを共有できるようになろう。そう心底願っていることが分かります。エレンが幼い人なことは間違いないけれど、もう少し大らかな家庭で育っていたら違ったのかな・・・そう思わせる描写が見事でした。

 

こういうテーマは、しようと思えば救いようのない絶望エンドにもできますが、そこは安心の児童小説(安心じゃないのもたまにあるけど・・・)。幸い、ダラスもエレンも人間関係に恵まれたこともあり、ちゃんと希望のあるラストを迎えます。お伽噺のようなハッピーエンドではなく、これからも紆余曲折あると予感させるところもリアリティがありました。個人的にものすごい名作だと思うのですが、通販サイトやレビューサイトでもほとんど情報なし、市内の全図書館にも在庫なし・・・こうなると俄然、再読したい気が高まってきたので、市外から取り寄せ予約しようかな。

 

すべてを共有できるのがいい親子!度☆☆☆☆☆

人は必ずいつか一人になる度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    海外の毒親がどんなものか?と思いましたが、男性に寄り添わないと生きていけないタイプの女性が夫が亡くなると娘を拘束しようとする~散々読んだ毒親の母親の典型みたいですね。それ以上に極端過ぎる~GPSで子供を監視する親、もはやストーカーの範囲かと思うほどです。生々しい描写ですがラストは救いがあるようで少しホッとしました。

    1. ライオンまる より:

      一昔前の作品のため、GPS等で監視は出てきませんが、とにかく娘の行くところすべてについて行こうとする母親の姿が愚かしく、どこか哀れでもありました。
      こういうことに時代は関係ないのだなと、つくづく思わされます。
      ただ、高校卒業前の娘が男女入り混じっての旅行(彼氏も同行)を堂々と計画してしまうのは、アメリカならではでしょうか。

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