はいくる

「そこに無い家に呼ばれる」 三津田信三

鏡にだけ映る人影、無人の部屋から聞こえるすすり泣き、捨てたはずなのに戻ってくる人形・・・ホラー作品の定番といえる設定ですが、これらには共通点があります。それは<ないはずのものが在る>ということ。自分以外誰もいないはずなのに鏡に人影が映ったり、空室から人の声が聞こえたりしたとすれば、その恐ろしさは想像を絶するものがあります。

では、<あるはずのものがない>ならばどうでしょうか。それだって十分不気味なはずですが、どういう状況かぱっと思い浮かびにくい気がします。というわけで、今回ご紹介するのはこちら。三津田信三さん『そこに無い家に呼ばれる』。本来そこにあって然るべきものがない・・・そんな怖さをたっぷり味わえました。

 

こんな人におすすめ

・幽霊屋敷を扱ったホラー短編集が読みたい人

・実話風ホラーが好きな人

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新人会社員の目に時折映る謎の家、なぜか居住者にだけ見えない家屋の秘密、箱庭療法の作業中に突如消える患者の行方・・・・・三人の人間が関わった<家そのものが幽霊>とは一体何なのか。怪談話を集める三津田信三は、やがてそれらの話の意外な繋がりに気づく。そして、怪異の魔の手は、三津田の側にも迫っていた---――実話風怪談の名手が贈る、最恐・幽霊屋敷ホラーシリーズ第三弾

 

『どこの家にも怖いものはいる』『わざと忌み家を建てて棲む』に続く『幽霊屋敷シリーズ』三作目です。これだけ怪談を集め、実際に不気味な目に遭っているのに、今なお怪談収集をやめようとしない三津田信三さんと編集者の三間坂さん、ヤバい世界に片足突っ込んでない!?と心配になっちゃいます。読者としては怖い話を堪能できて有難い限りなんですけどね。

 

「あの家に呼ばれる 新社会人の報告」・・・急遽転勤となった姉一家に頼まれ、新築の家に留守番役として住むことになった主人公。家の住み心地は文句なしなのだが、隣りの空き地がなんとなく気にかかる。ある夜、帰宅を急ぐ主人公は、空き地のはずの土地に家が建っているのを見て仰天。翌日、改めて見てみると、隣りは依然として空き地のまま。どうやら特定の条件を満たした場合のみ、主人公にだけ家が見えるようなのだが・・・

主人公が若く(就職したての会社員)、不測の事態に対する経験値が低いということもあり、収録作品中一番不気味に感じられました。なぜか突然出現し、朝には消える謎の家。それだけでも十分怖いのですが、主人公は訳も分からぬまま、この家に入ってしまいます。そこから始まる探索場面はものすごくスリリングかつ薄気味悪く、ホラーゲームをプレイしているようなハラハラドキドキ感を味わえました。この場合、「そもそもそんな家に入るなよ!」などという突っ込みは野暮ですよね。

 

「その家に入れない 自分宛の私信」・・・主人公が不動産業者に紹介された一軒の家。業者も近隣住民も口々にお勧めだと言うが、なぜか主人公の目には家が見えず、ただ空き地が広がるのみ。これは一体どういうことなのか。真偽を確かめるため、主人公は契約を結び、空き地にキャンプ道具を持ち込んで生活し始める。不思議なことに、周りの人間達には、主人公が普通に家で暮らしているように見えるらしく・・・

キャンプセットを広げて空き地で暮らす主人公と、主人公が一軒家で暮らしているように見える周辺住民達。想像すると、奇妙であると同時に、なんだかシュールな光景です。第一話の主人公と比べ、肝が据わりまくりの主人公が凄いようなちょっと怖いような・・・というか、いくら不思議だからって、キャンプセット設置してまで空き地で暮らす主人公の精神構造が一番不思議に思えます。

 

「この家に囚われる 精神科医の記録」・・・精神科医である主人公のもとを、一人の男性患者が訪れる。主人公は患者に箱庭療法を施すことに決めるが、患者は一人で作業したいという。希望通り、患者の作業中は席を外すことにした主人公。だがある時、主人公は、作業中のはずの患者が室内から消えていることに気付き・・・・・

前の二話は<怪異に出くわした人間>目線で描かれましたが、この話は<怪異に出くわした人間を観察する医者>目線で進みます。語り手本人は別に怖い目に遭っているわけではないので、感情抜きに淡々と描写される怪奇現象が恐ろしかったです。ポイントとなるのは、患者が箱庭療法で作る家。あれ、この家の描写、なんだか覚えがあるような・・・・・

 

各エピソードの間に<幕間>、最後に<終章>が入り、ばらばらと思われた怪談の繋がりが語られるというシリーズお馴染みの構成です。表紙の絵やタイトルまで巻き込んだ緻密な謎解きは、相変わらず「ほほう」と唸らされる出来栄えでした。どうやらこのシリーズ、あと二作が出て全五部作となる予定とのこと。まだ四作目の連載は始まっていないようですが、今から読むのが待ち遠しいです。

 

あるはずのものが消えてませんか・・・?度★★★★☆

過去二作を見直したくなる度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

     心霊写真のような単なる心霊現象はただ怖いだけで物理的に生きている人間に影響を及ぼさない~先ほど読んだ藤崎翔さんの{比例区は「悪魔」と書くのだ、人間ども}にもありましたが、今の時代はそういうものだと感じます。
     呪いのように人間に防ぎ様のないものこそがホラーで恐怖の対象となりそうです。
     家のように物に執着する呪いこそその最たるモノでしょうか。
     幽霊屋敷と呼ばれる家や廃校、廃病院に肝試しで侵入して痛い目を見るストーリーもありますが、そこに住むしか選択肢がない怪異が余計に怖いです。
     「呪怨」がまさにそうでした。

    1. ライオンまる より:

      家という、生活に直結した場所を舞台にしたジメジメホラー(褒めてます)という点で、「呪怨」と似ていると思います。
      本来安全なはずの我が家が怪異に侵される恐怖って、心霊スポットでの恐怖体験より衝撃度が数段大きい気がしますね。

      藤崎翔さんの「比例区~」は、恥ずかしながら刊行されたことを知りませんでした。
      大好きな作家さんなので、早く図書館に入ってほしいです。

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