桃太郎、かぐや姫、シンデレラ、眠れる森の美女・・・・・世界各国には様々な童話が存在します。一見、非現実的なフィクションと思われがちですが、童話には現実世界でも通用する教訓が込められているもの。だからこそ、何百年、何千年にも渡って各地で伝わり続けてきたのでしょう。
そんな童話の初版を調べてみると、子どものトラウマになりかねないほど残酷なものが多いです。『白雪姫』の初版で、悪いお妃が焼けた鉄靴を履かされ死ぬまで踊らされるという展開など、そのいい例と言えるでしょう。上記の特性から、童話を現代風にアレンジした小説はたくさんあります。『ヘンゼルとグレーテル』『赤ずきん』『ラプンツェル』などはモチーフになりやすいので、今回は目新しい作品を取り上げたいと思います。真梨幸子さんの『三匹の子豚』です。
こんな人におすすめ
母と娘にまつわる愛憎劇が読みたい人
幸福になったのは、三人の子の内の誰なのか---――著書『三匹の子豚』のドラマ版が大ヒットを飛ばし、人気脚本家の地位を得た亜樹。そんな亜樹のもとに、ある時、一面識もない叔母・赤松三代子の扶養が可能かという照会の手紙が届く。突然のことに混乱する亜樹の前に現れた一人の女性。彼女は赤松三代子のことで話がしたいという。困窮する身内を見捨てたとマスコミに書き立てられては堪らない。やむをえず女性の話に耳を傾ける亜樹だが・・・・・女たちの負の連鎖を描くノンストップ・イヤミス
上でも書いた通り、童話の残酷な面をクローズアップした作品はたくさんありますが、真梨ワールドでは初めてなんですよね。真梨作品の生々しいダークさと童話の残酷さはぴったりマッチしているので、今までなかったというのがちょっと意外・・・おまけにそこで、お姫様もいたいけな子どもも登場しない『三匹の子豚』を持ってくるというところが、なんだかすごく真梨さんらしいです。
亡母から聞いた話をもとに書いた『三匹の子豚』がドラマ化されて大ヒットし、脚本家としてスターダムに駆け上がった斉川亜樹。我が世の春を謳歌する亜樹ですが、役所から一通の手紙が届いたことで人生に影が差し始めます。それは、顔も知らない叔母・赤松三代子が生活保護を申請しているので、扶養が可能かと問い合わせるものでした。そんな訳の分からない人物を扶養などしたくない。でも、叔母を見捨てたことが世間にバレたら外聞が悪すぎる・・・悩む亜樹の前に、NPO法人の職員だという女性が現れます。赤松三代子について話がしたいと言われ、渋々ながら応じる亜樹。それは、決して引き返せない底なし沼に踏み込む一歩でした。
『三匹の子豚』と言われれば、<家を狼に吹き飛ばされた兄豚たちが末っ子豚の家に逃げ込み、力を合わせて狼を撃退してハッピーエンド>というバージョンがよく知られています。が、これは後になってマイルド化された改訂版。初版では、兄豚たちは狼に食い殺され、頑健な煉瓦の家に住んでいた末っ子豚が狼を釜茹でにして食べるというエンディングを迎えます。教訓は<時間はかかっても地道に物事を成し遂げた方が、結果的には成功する>というもの。この容赦のなさは、まさにイヤミスにぴったりですね。
この『三匹の子豚』がテーマになった小説ということで、本作を読む読者が考えることは大きく分けて二つでしょう。一つは<登場人物の中の誰が三匹の子豚なのか>。もう一つは<目的のため人を死に追いやる狼の正体は一体誰なのか>。狼はともかく、子豚が誰なのかはすぐ分かりそうなものですが、そうは問屋が卸しません。真梨作品に慣れた方なら予想済みでしょうが、登場人物数が多い上、時系列もばらばらなので、人間関係がなかなか整理できず・・・・・とはいえ本作の場合、終盤で関係者の一人が丁寧な人物相関図を書いてくれるので、最後にはすっきり考えをまとめることができると思います。この時、あまりの人間関係の乱れっぷりに関係者が言う「横溝正史の小説並に複雑ですね」という言葉、もっともすぎてツボでした(笑)
また、この手の童話モチーフ作品の場合、童話の内容と現代社会の問題が絡めてあるものですが、本作でテーマとなるのはずばり<毒親問題>。母親から自立するよう命じられた三匹の子豚は、藁、木、煉瓦で家を建て、幸せを得ようとします。そして作中にもまた、母親の影響力から逃れきれず、それぞれの形で幸福になろうとするも狼に食い殺される女性たちが登場します。この母親という存在がどいつもこいつも酷いこと酷いこと。節操のない異性関係の末に娘を殴ったり、男の気を引くため娘を病気に仕立て上げたり、歪んだ価値観を押し付けて娘の人生を縛ったり・・・・・真梨さんなので当然だと思いつつ、あまりに嫌な人物のオンパレードに毎度のことながらゲンナリさせられました(褒め言葉)。
というわけで、人が死にまくる・出てくるのはどうしようもない奴ばかり・後味どんよりと三拍子揃った安定の真梨作品です。ただ、ミステリー的などんでん返し要素は比較的薄いので、そういう面を期待していると肩透かしかもしれませんね。童話をモチーフにしたストーリーはすごく好みだったので、今後もシリーズ化してほしいです。
煉瓦の家が一番幸せ・・・?☆☆☆☆☆
恨みの連鎖はいつまでも続く度★★★★★
容赦ない残酷なイヤミスでした。
三匹の子豚の童話と帝銀事件をモチーフにして幾つもの話を同時進行させて、何がどうなっている?と思った時に相関図が出てきた時、見事な設定に感心しました。
大変、衝撃的で残酷でしたが、何故か目を離せない。
あれだけ嫌な人物が多くと救いのない終わり方でも読後感も悪くない。
真梨ワールドに惹き込まれました。
真梨作品の場合、登場人物がろくでなしばかりなせいか、絶望的なラストを迎えてもあまり後味は悪くないんですよね。
イヤミス作家さんは数多くいますが、ここまで泥沼を描ける方はなかなかいない気がします。
毒殺事件との絡め方も上手いし、相変わらずの満足感でした。