私が通っていた高校には寮がありました。全寮制ではなかったので、各クラスに寮暮らしの生徒は一~二名程度。大変なこともたくさんあるのでしょうが、寮生だからこその楽しみも結構あったらしく、自宅通学の私はちょっぴり羨ましかったものです。
寮生活が登場する小説と言えば、近藤史恵さんの『あなたに贈るX(キス)』や野沢尚さんの『反乱のボヤージュ』、当ブログでも紹介した恩田陸さんの『ネバーランド』などがあります。<閉ざされた空間で暮らす若者たち>という状況から、色々ドラマが作りやすいんでしょうね。最近読んだ小説にも、全寮制の高校に通う少女たちが出てきました。宮西真冬さんの『友達未遂』です。
こんな人におすすめ
・女子高生の青春ミステリーが好きな人
・毒親等、家庭内の問題を扱った小説を読みたい人
星華の絆は永遠なり---――頼れる家族もなく心を閉ざした茜、学園のマドンナとして憧れを集める桜子、さばさばしたボーイッシュさで人気を集める千尋、圧倒的な絵の才能を持つ真琴。四人の少女たちは、全寮制の女子高・星華高等学校で出会う。そこには三年生と一年生がペアになり、<マザー><チャイルド>として支え合うルールがあった。家族でもなく、友達でもない。微妙な距離感で出会った少女たちは、そこから何を見出すのか。痛々しくも瑞々しい青春ミステリー
宮西真冬さんを読むのは本作が初めてですが、すごく好みでした。<カリスマ的存在の美少女>とか<唯一、彼女に反発する新入生>とかが出てきた時はオーソドックスな女子高イヤミスかと思いましたが、そこに毒親を始めとする家族内の問題を絡ませてくるところが上手いですね。主要登場人物の数が少ないこともあり、人間関係が混乱することもなく一気読みできました。
「第一章」・・・母親に捨てられ、祖父母から冷遇され、追い出されるように星華高等学校に進学した茜。寮で同室となった三年生の桜子は、その容姿や立ち居振る舞いから学校内のアイドルとして憧れられる存在だった。優しく接してくれる桜子に反発心を抱く茜だが、身辺で不穏な事件が起こり・・・・
幼い茜の身に起こる不幸があまりに過酷で、読んでいて胸が痛かったです。男をとっかえひっかえする母親、横暴な継父たち、娘と孫の存在を完全に無視する祖父、口を開けば非難と嫌味しか言わない祖母。そんな環境で育った茜が、女神のように優しく美しい桜子に素直になれないという気持ちも、無理ない気がするんだよなぁ。こういう子が意外と猫に懐かれやすいというエピソード、すごく分かります。
「第二章」・・・学校中の生徒から慕われつつも、実は支配的な母親との関係に悩んでいる桜子。鬱屈した気持ちを溜め込んだ桜子は、許されない行動に出てしまう。いけないことだと分かりつつも行動はエスカレートしていき・・・・・
第一章では優しい聖母のようだった桜子のもう一つの顔が描かれます。ここで出てくる母親が超怖い!第一章の茜が、ある意味で分かりやすい家庭内不和を抱えているのに対し、桜子の家庭は外からは幸福そのものに見える分、余計に怖いんですよね。<親子代々星華出身>という経歴に固執し、星華出身者以外との交流は実力行使で止めるなんて、一体何時代の話なんだか・・・茜が少しずつ桜子と打ち解けている様子は何となく嬉しいです。
「第三章」・・・千尋は絵の勉強をするため、出身地の村の期待を背負って星華に進学した。だが、自分をあっさり追い越す才能を目の当たりにし、思うように描けなくなってしまう。苛立ちを抱えたまま夏休みを迎えた千尋は、つい両親にも当たってしまい・・・
読後感の良さという点では、この千尋のエピソードが一番ではないでしょうか。アーティストとしての葛藤とか、慕っていた亡き祖父への哀惜とか、色々辛い箇所もあるのですが、全体的にすっきり爽やか。茜や桜子と違い、千尋の家族は基本的にまっとうな人たちだからかもしれません。終盤の村祭りの場面、そこで幼馴染の少年と出くわす場面はとても素敵で、そこだけでも映像で見たいと思いました。
「第四章」・・・星華の美工コースに入学した真琴には、ある目的がある。それは、かつて星華に通っていた姉を苦しめた教師に復讐すること。チャンスを狙い、淡々と日々を送る真琴は、一人の同級生と親しくなるのだが・・・・・
これは、私のように「そこそこでいいや」と考えてしまう人間にはきついエピソードだなぁ・・・正義感が強く行動力もある上、突出した絵の才能を持つ真琴。そんな自分のレベルを当然と思い、そこに至れない人間を「なぜもっと努力しない」と責めてしまう彼女は、正しいようでやっぱり未熟なんだと思います。冒頭の電車内での出来事も、父親の言うことに一理あると思うぞ、真琴ちゃん。
「第五章」・・・校内で頻発する嫌がらせ事件。生徒たちの中に落ち着かない雰囲気が漂う中、一つの計画が密かに進んでいた。果たして目的の人物への<復讐>は完遂されるのか。傷つき、迷う少女たちの行く手に待っていたものとは・・・・・
ばらばらだった茜、桜子、千尋、真琴の思惑と行動が一気に絡み始めます。その合間合間に挟まれる、各家庭、特に茜の桜子の家庭の様子がとにかく酷い!孫の若さに嫉妬して進学禁止とか、高校生の娘の結婚相手を決めようとするとか、もう尋常じゃないでしょう。その辺りの描写が酷過ぎる分、彼女たちが星華での生活を大事に思う気持ちが伝わってきます。そして、何より印象的なのは、全身全霊を懸けた<復讐>の内容と、それを知った各自の態度。こんな支え方、手の差し伸べ方もあるんだと、しみじみ感じ入ってしまいました。
最後に「終章」が入り、物語は完結します。ここで安易に「毒親や毒祖父母に一矢報いてハッピーエンド」などとしないところがいいですね。どれほど聡明でも彼女たちはまだ子ども。今後も問題は山積みだろうけど、築いた絆があれば戦える。素直にそう信じることができました。赤い文字で書かれた『友達未遂』というタイトルや、無表情で佇む少女たちの表紙から救いのないイヤミスを想像していましたが、思ったよりずっと読後感が良かったです。
<友達>ではないが絆はある度★★★★★
自分の幸せは自分の責任!度★★★★★
「暗黒女子」のようなイメージでドロドロのイヤミスさえ想像しました。
キツイ場面もありましたが、意外にソフトで読みやすい作品でした。
後半にとんでもない計画を企てた2人に対して、題名の意味が分かるラストが良かったです。
面白い作品を紹介してくれてありがとうございます!
茜や桜子の家庭環境は本当にキツかったですが、希望を感じることのできる展開が好印象でした。
「友達<未遂>」という言葉のチョイスが秀逸ですね。