昔、とあるドイツ人俳優にハマっていたことがあります。ドイツの歴史映画にたくさん出演しているため、彼拝みたさに出演作を鑑賞しまくったり原作小説を読んだりした結果、すっかりドイツという国に魅せられてしまいました。一時期など、特に意味もなくドイツのガイドブックを借りてうっとり眺めていたことさえあるほどです(笑)
そんな私が思うのは、<日本人作家がドイツを舞台に書いた小説って意外と少ない>ということです。アメリカやフランス、中国などを舞台にした小説は色々ありますが、ドイツとなると、帚木蓬生さんの『ヒトラーの防具』、皆川博子さんの『死の泉』くらいしか知りませんでした。ですので、この作品の存在を知った時は嬉しかったです。深緑野分さんの『ベルリンは晴れているか』です。
こんな人におすすめ
第二次世界大戦後のドイツを舞台にした小説が読みたい人
敗戦後のベルリンで一人懸命に生きる少女・アウグステ。ある日、彼女は戦時中に世話になった男が、毒入り歯磨き粉を使って死亡したことを知らされる。果たしてこれは事故か、殺人か。戸惑いつつも、なりゆきで男の甥に訃報を伝えに行く役目を引き受けたアウグステだが、その道中は困難の連続だった。おまけになぜか陽気なコソ泥と旅を共にすることになり---――混乱の時代を舞台に描かれる歴史ミステリー
<日本人作家が書いた小説とは思わなかった><てっきり翻訳小説かと思った>本作についてインターネットで調べると、こんな感想をよく見かけます。まったくもってその通りで、私自身、作者名を伏せられた状態で読めば、きっと戦中戦後を経験したドイツ人作家の作品だと思ったでしょう。深緑さんが欧米の描写に優れていることは『オーブランの少女』『戦場のコックたち』などで証明済みですが、また一段と腕を上げたなという印象です。
主人公のアウグステは、戦時中に両親を失い、今は食堂で必死に働く十七才の少女です。そんな彼女にもたらされた一人の男の訃報。その男・クリストフは、終戦前にアウグステに力を貸してくれた恩人でした。彼が毒入り歯磨き粉を使って死亡したと知り、混乱するアウグステ。事故、殺人、テロ・・・様々な疑惑が飛び交う中、アウグステは離れた町に住むクリストフの甥に、彼の死を伝えに行く任務を任されます。道中を共にするのは、ひょんなきっかけで知り合ったお調子者の泥棒・カフカ。二人の旅路には、予想外のトラブルが次々と待ち構えていました。
現代の感覚ならば「違う町を訪ねるくらい簡単じゃん」となるのでしょうが、本作の舞台となるのは一九四五年のドイツ。敗戦の影響で物資は不足、電気もガスも水も満足に行き届かず、各都市を統治する連合国側の兵士たちは、ことあるごとにドイツ人を見下します。貧困の中、同じドイツ人の間でも足の引っ張り合いが生じます。そんな中、アウグステとカフカの二人が時に怯え時に機転を利かせて旅をする姿にぐいぐい引き込まれました。この二人がいわゆる美男美女ではないところも、逆に共感しやすくて良かったと思います。
もちろん、この時代をテーマにしている以上、重苦しい場面は数えきれないほどあります。敗戦後のドイツの様子は言うまでもありませんが、それ以上にきつかったのは、二人の旅路の合間に挿入される戦時中の出来事の数々です。ユダヤ人やジプシー、障がい者、性的マイノリティに対する迫害が徐々に激しくなっていく描写は本当に苦しくて・・・とはいえ、ドイツ人の中には、自分の命を守るためにユダヤ人を貶める道を選択した者もいます。内心で彼らに同情しつつ、ナチスが横行する中、どうしても味方するわけにはいかなかった者もいます。仮に私があの時代を生きていたとして、飢えに苦しんでいる時、迫害に加担すれば暮らしを保証されるとなったら---――あまりに臨場感ある描写に、ついそんなことを考えてしまいました。
こういうところからも分かる通り、本作は万人受けするタイプの作品ではないかもしれません。戦中戦後のドイツという設定、続々と出てくるドイツやソ連の人名、ホロコーストや赤軍によるレイプといった非道な行いの数々。これらを受け入れがたいと感じる人もいるでしょうし、ボリュームも四八〇ページとかなりものです。ですが、恐らく凄まじい質量の取材の上に構成された物語は、間違いなく一読の価値があると思います。惜しむらくは、歴史上の出来事の重みがありすぎるせいで、肝心の毒殺事件の謎が霞んだ印象がある点ですが・・・読了後、タイトルの意味がじんわりと胸に響いて仕方ありませんでした。
戦争は誰も幸せにしない度★★★★★
彼らが晴れた空の下を歩けますように度★★★★★
ドイツはヨーロッパで一番行きたい国です。
「戦場のコックたち」のような複雑でリアルな歴史を描いたストーリーです。
予約中ですがなかなか届きません。
早く読みたいですね。
ドイツという国や歴史が好きなら、きっと気に入ると思います。
深緑さんのヨーロッパ描写は本当に秀逸!
早く届くといいですね。
今年で最も読み応えを感じた作品でした。
日本の太平洋戦争の戦中戦後のストーリーは散々読んできましたが外国での戦後の様子で重たい雰囲気と臨場感があり、状況が目に浮かぶようでした。
アウグステをつけ回すドブリギン大尉が語った「ナチスのような組織を生み出したのは、ドイツ人全体の自業自得、兵隊ではないから、ナチスではないから。そんなことは関係ない」という趣旨の発言がある意味印象的でした。
深緑さんの「ノムストラダムスの~」は読まれましたか?
レビューを少し読むと評価がイマイチなようで考え中ですが好き嫌いが判れるようで興味深いです。
久しぶりに「大作を読んだ!」と実感できた作品です。
ドブリギンをはじめ<主人公サイドでない人達>の主義主張にも、必ずしも否定しきれない部分がありますよね。
ラストのジギの手紙から、アウグステと彼らとの再会が予感できるところに救いを感じました。
「分かれ道ノストラダムス」は読みましたよ。
王道をいく青春ミステリだと思いますが、<オーブランの少女>や<戦場のコックたち>でズシンと衝撃を受けた立場からすると、ちょっと
インパクトが足りない気が・・・
さらりと読むには向いていると思います。