戦争について考えたことのない人は、恐らくいないと思います。かくいう私自身、それこそ小学生の頃から平和学習を受けてきましたし、戦争を取り扱った映画やドラマ、小説も手に取りました。今この瞬間でさえ、戦火が上がり、人々が犠牲になっている戦場は山のようにあります。
大多数の現代日本人にとって、戦争とは非日常そのものの世界でしょう。ですが、たとえ戦地だろうとなんだろうと、人間が生きている以上、そこには毎日の生活があります。今日ご紹介するのは、そんな戦場での「日常」を描いた作品です。「このミステリーがすごい!」で二位にランクインした、深緑野分さんの「戦場のコックたち」です。
第二次世界大戦に特技兵(コック)として従軍した主人公・ティム。お守りとして祖母のレシピを携帯するほど料理を愛するティムは、仲間たちの栄養管理に努める傍ら、様々な事件に遭遇する。なぜかパラシュートを集めて回る兵士、大量の粉末卵消失事件、おもちゃ屋を営む夫婦の不可解な心中・・・・・同じくコックである物静かで聡明なエドが、鮮やかに謎を解き明かしてくれる。だが、戦況は日増しに厳しさを増していき・・・・・戦場を懸命に生きる人々の姿を描いた、青春ミステリーの傑作。
本作は「日常の謎」小説として位置づけられているようですが、それはあくまで「戦場における日常の謎」です。なぜ機関銃兵が未使用のパラシュートを集めて回るのか。世話になったオランダ人夫婦はなぜ心中したのか。雪の中をさまよう幽霊兵士の正体とは。真相はどれも重く、悲しいものばかりです。話が進むにつれて戦争の過酷さも増していくため、ページをめくるのが辛いと感じるほどでした。
そう感じさせてしまうほど、ヨーロッパ戦線を舞台にした世界観の描き方が壮絶。敵軍からの容赦ない攻撃や足りない物資、呆気なく倒れていく仲間たちなど描写のリアルさから、作者の筆力の高さが窺い知れます。個人的に、日本人作家が「外国を舞台・外国人が主人公」という設定で作品を書くとどうも違和感を覚えることが多いのですが、この作品は別。当時の戦場を経験したアメリカ人作家の著作と言われても信じそうなほど臨場感がありました。
主人公であるティムは、料理を愛する平凡な若者です。その仲間たちも、活き活きと魅力的な者ばかり。探偵役を務めるエド、明るいムードメーカーのディエゴ、物資調達のスペシャリストでハンサムなライナス、お喋り好きなオハラetc。何もなければ平和に一生を終えたかもしれない彼らが、徐々に傷つき、ある者は精神に異常を来たし、ある者は戦死を遂げます。あまりにあっさりと消えていく兵士たち。これこそが、まさに戦争の日常なのでしょう。
タイトルから「戦場でコックが美味しい料理を作って仲間を鼓舞する話」を想像していると肩透かしを食らうかもしれません。また、ページ数がかなり多いため、さらりと読めるタイプの作品ではないと思います。ですが、時間をかけてでも読む価値はあります。戦場で若者たちが何を思い、何を得ようとしたのか。読了後、ぜひそれを考えてみてほしいです。
戦場にはヒーローがいる度★☆☆☆☆
争いは空しい度★★★★★
こんな人におすすめ
・第二次世界大戦におけるヨーロッパ戦線を描いた作品が好きな人
・青春ミステリが読みたい人
この作品は昨年読みました。かなり印象深く残っています。
第二次世界大戦中の特殊技能兵ティム、戦場のコックのストーリー。
探偵話のようなエピソードもあれば、仲間が次々に戦死していく日常がリアルでした。
知らないうちに紛れ込んでいた敵兵の謎とエピローグ~
映画「プライベート・ライアン」「パール・ハーバー」のシーンを思い出しました。
同じく、「プライベート・ライアン」を思い出しました。
日本人作家さんでこの手の雰囲気を作れる人はなかなかいないと思います。
切ないエピローグも印象深いです。