はいくる

「5分で読める!ぞぞぞっ怖いはなし」 このミステリーがすごい!編集部

季節は夏真っ盛り。毎年思うことですが、なんだか年々夏の暑さが増している気がします。コロナの影響でマスク着用が一般的になったことも、息苦しさを増加させているのかもしれません。

直射日光の回避やまめな水分補給等、暑さ対策としてできることは色々ありますが、できれば肉体面だけでなく精神面でも涼を取りたいのが人情というもの。日本の暑気払いといえば、怪談話で肝を冷やすのがお約束です。というわけで、今回取り上げるのは、「このミステリーがすごい!」編集部による『5分で読める!ぞぞぞっ怖いはなし』。ぞっとして、夏の暑さを吹き飛ばしましょう。

 

こんな人におすすめ

後味の悪いホラー短編集が読みたい人

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婚約者の実家で見た生き地獄、一枚の自画像から浮かび上がる愛憎劇、幸福そうな若夫婦のもとに生まれた赤子の謎、他愛ない悪戯から始まる血の惨劇、引きこもりの息子を抱える老夫婦の決断、父親が生涯怪しみ続けた我が子の正体・・・・・豪華執筆陣が贈る、鳥肌必至のホラー短編集

 

私は宝島社が刊行するアンソロジーが大好きで、書店の新刊コーナーに並ぶたびにテンションが上がります。恋愛、ヒューマンストーリー、ミステリーと、色々なジャンルがあるのですが、本作は大好きなホラーということで、喜びもひとしおでした。全二十二話のうち、印象に残ったものをご紹介します。

 

「ママン 林由美子」・・・婚約者との結婚話が進み、彼の実家を訪問する主人公。婚約者本人には何の不満もないが、唯一、異常なくらい息子を偏愛する母親のことが引っかかる。案の定、家にやって来た主人公に対し、母親は陰湿な嫌がらせを行い・・・

私はこの言葉が大嫌いですが、あえて使わせてもらいます。キッッッッッモ!!!息子を恋人のように熱愛する母親も大概だけど、それをまったく疑わず受け入れる息子も相当なもの。でも、息子個人のスペックは高いため、「結婚すれば変わってくれるはず」と信じたい主人公の気持ちも分からないではないです。単なる異常な母子のサイコスリラーと思いきや、オチが工夫されているところも好みでした。

 

「微笑む自画像 乾緑郎」・・・主人公は、ふとしたきっかけで、かつて恋心を抱いていた先輩の自画像を発見する。先輩は優れた画才の持ち主だったが、絵を勉強するための学費がなかった上、ようやく掴んだチャンスもアクシデントで潰れ、失意のまま自殺したのだ。だが、主人公はこの自画像発見を機に、生前の先輩が秘めていた思いを知ってしまい・・・

主人公や、彼が憧れていた先輩の絵にまつわる描写が丁寧な分、先輩の身に起こる悲劇が辛かったです。実際、芸術方面の勉強って、とんでもなくお金がかかるって聞きますしね。最近では逆に珍しいくらいスタンダードなJホラーですが、これは本懐を遂げられたと見ていいのでしょうか。それにしても主人公、咄嗟の状況で機転効きすぎ!!

 

「四ツ谷赤子 角由紀子」・・・朗らかで容姿にも優れ、近隣住民から好かれていた若夫婦。やがて妻は妊娠し、十月十日の後に膨らんでいたお腹は平らになるも、なぜか一度も赤ん坊を連れて外出していない。おまけに、家から妙な声が聞こえるという証言まである。意を決した一人の老女が、こっそり若夫婦宅の様子を見に行くのだが・・・・・

まるで日本昔話に出てきそうな因縁話でした。若夫婦の所業が、ここまで凄惨な報いを受けなきゃならないほどのことなのか分からないところも、いかにも日本の怪談っぽいです。でも、本筋とはあんまり関係ないけど、このご時世、子どもに何かあっては一大事と突撃してくれるおばあさんが素敵!あんなものを見てしまい、精神状態が心配ですが・・・

 

「根の石 柊サナカ」・・・飲み会の席で、一人の男が語る昔話。少年時代、男は悪戯心から石に適当な文様を描き、神社の境内に置いたことがあった。ところが噂が一人歩きし、石には大変な呪いがかかっていることにされてしまう。不安になった男は、祖父に自分の悪戯だと打ち明けるのだが・・・

子どもは怖い話が好きだし、悪ふざけも好き。幽霊の真似をするとか、不気味なお札を書くとか、遊び半分でやらかしたことのある人も結構いると思います。悪戯小僧が味わう壮絶体験もなかなかインパクトありますが、秀逸なのはラスト数行。捻りのある真相に「おおっ」と声を上げそうになりました。

 

「嫁と子ども シークエンスはやとも」・・・霊能力のある女性に、とある男からもたらされた頼み事。男の妻子の様子が変であり、もしかしたら霊の仕業かもしれないから見てほしいという。承諾し、男の家を訪れた霊能者が見た恐ろしい真実とは。

作者であるシークエンスはやともさんは、霊能力のある芸人として巷で有名な存在だそうです。なので、この話も小説というより実話怪談という雰囲気。短いながら、序文から結末まで、びしっと決まった構成がシビれます。果たして悪霊の仕業なのか、それとも狂気の沙汰なのか、はっきり分からない不穏さもいい感じでした。

 

「おやゆびひめ 降田天」・・・幼い日、語り手はひょんなことからすっぱり切断された親指らしきものを見つける。語り手はその指に愛着を抱き、<おやゆびひめ>と名付けて可愛がるようになる。やがて、<おやゆびひめ>の正体が分かる日がやって来て・・・・・

いきなり<おやゆびひめ>などという親指(らしき物)が現れ、「降田天さん、珍しくSFホラー?」と思いましたが、この指の謎自体は中盤でちゃんと解明されます。なーんだ・・・と安心したところで、狂気が垣間見えるオチへ繋げる手法は流石!これから語り手が望む理想郷が作られるのかと思うと、そのグロテスクさにゾッとさせられました。

 

「はしのした 澤村伊智」・・・一人息子を保育園に迎えに行った父。帰り道、不審な老婆に追いかけられるも、どうにか無事に家に帰って来る。一息つく父が受けた、保育園からの一本の電話。その内容はあまりに不可解なもので・・・・・

やっぱり澤村伊智さんの意味不明怪談(褒めてます)は最高!老婆の行動は何を意味していたのか、平和な一家を襲った現象が何なのか、確かなことは全然分からない展開が怖すぎます。この一家が、特に何か悪いことしたわけではなさそうなところがまた恐ろしいんですよ。もし私にこんな電話がかかってきたら・・・正気でいられないかもしれません。

 

<著者が聞き集めた怪談>という体裁の話から、怨霊が登場する正統派ホラー小説、狂気の描写が光るサイコホラーまで、バラエティ豊かな一冊でした。一話一話が短いため、空き時間に気軽に読めるところも嬉しいですね。この『怖いはなし』シリーズ、今後もどんどん新刊が出てほしいです。

 

この怖さ、まさに夏向き!度★★★★★

全部フィクションであってくれますように・・・度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    バラエティー豊かなホラーで暑い夏には良さそうです。
    娘を異常に溺愛する父親とは別の意味で息子を溺愛する母親のストーリーは気持ち悪い。
     櫛木理宇さんや他の作家さんでも読んで来ましたがひと味違ったホラーがありそうです。
     降田天さんのホラーも興味深い。
     締めは澤村伊智さんで意味不明というのが余計に怖いです。
     毒島刑事第3弾読み終えました。
     中山七里さんが毒島刑事を自分に置き換えていると感じました。

    1. ライオンまる より:

      テイストの違う様々なホラーが楽しめます。
      イマイチな話があっても、とにかく一話一話の分量が少ないので、簡単に読み飛ばせるところも魅力です。
      毒島刑事第三弾、めちゃくちゃ楽しみにしてます!
      表紙の毒島刑事のルックスが、私のイメージ通りで嬉しさ倍増です。

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