はいくる

「残酷依存症」 櫛木理宇

デスゲームもの、というジャンルがあります。これは、逃亡不可能な状況に置かれた登場人物達が、生死を賭けたゲームに参加する様子を描いたもの。生還者は一人だけと決められていたり、進行次第では全員生還も可能だったり、敗者は命ではなく社会的生命を奪われたりと、個性的な設定がなされていることが多いです。

けっこう古くからあるジャンルなのですが、日本で有名になったのは、高見広春さんの『バトル・ロワイアル』辺りからではないでしょうか。当初は<試合>としての側面が強かった気がしますが、段々とお遊び的なゲーム要素が強まり、ハリウッド映画の『SAW』シリーズ、金城宗幸さん・藤村緋二さんの漫画『神さまの言うとおり』、金沢伸明さんの『王様ゲーム』など、有名作品が次々生まれました。私自身も色々と読みましたが、これほど後を引く作品はちょっと他にないかも・・・・・櫛木理宇さん『残酷依存症』です。

 

こんな人におすすめ

デスゲームが絡んだサイコサスペンスが読みたい人

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何者かによって拉致監禁された三人の男子大学生。犯人は彼らの自由を奪った上、次々と残酷な命令を下す。時同じくして、女子大生が無惨な撲殺死体となって発見された。次第に浮かび上がる、両者の意外な繋がり。一体どこの誰が、なぜ、これほど酷い所業に走ったのか。懸命に捜査する警察関係者達をあざ笑うかのように、事件の陰には<あの女>の姿が見え隠れして・・・・・『殺人依存症』に続く、人の悪意と狂気の限界を描くノンストップ・イヤミスシリーズ第二弾

 

調べたところ、前作『殺人依存症』が刊行されたのは二〇二〇年。絶対に続編がありそうな終わり方だと思っていましたが、予想より早く二作目が出てくれて嬉しいです。それだけ櫛木理宇さんも入れ込んでいるシリーズなのかもしれませんね。

 

少年時代から仲が良かった男子大学生三人組。腕っぷしが強いリーダー格の航平、イケメンのボンボンである匠、ムードメーカーの渉太は、ある時、正体不明の何者かによって拉致監禁されます。足を傷つけられ、逃亡も叶わない彼らに犯人が課したのは、互いの体の一部を奪い合わせる残酷なゲームでした。恐怖と苦痛から従うしかない三人ですが・・・・・その頃、女子大生の無惨な遺体が発見されます。遺体に性的暴行や金品強奪の形跡はなく、心臓が止まる瞬間まで殴り続けるという残酷な殺し方に、慄然とする捜査陣。捜査が進むにつれ、被害者の隠された一面が暴かれていきます。やがて別々と思われていた拉致事件と撲殺事件がリンクした時、明らかになったのは、あまりに惨たらしい真実でした。

 

ここまで書いておいて伏せるのも何なので言ってしまうと、前作『殺人依存症』がそうであったように、本作でも相当な肉体的・精神的暴力描写があります。為す術もなく殴り殺された女子大生の方も酷いけど、やはりインパクトがあるのは監禁された男子大学生達の場面でしょう。逃亡防止のため足の一部を切断され、命令されるがまま互いの爪を剥ぎ、歯を折り、鼻を食いちぎり合う三人。体力気力が萎える頃には鎮痛剤を与えられるため、後半は命ではなく鎮痛剤を乞うてすすり泣く様子・・・雰囲気としては映画『SAW』に近いかもしれませんが、本作の方がより陰湿で偏執的です。

 

ただ、不思議なことに、『殺人依存症』と比べると読後感は悪くありません。それは、割と早い段階で分かることのため書きますが、やられる側が揃いも揃ってクズばかりだから。当初は無実の被害者と思われた三人組、あるいは女子大生の所業が明らかになると、その悪質さに唖然とさせられます。なので、三人組が延々と苦しむ描写が続いても、「自業自得だろうが!もっと苦しめ!」と思ってしまうんですよ。この辺り、被害者達がただひたすら可哀想だった『殺人依存症』とはずいぶん違います。

 

そして、『殺人依存症』の続編と聞いて忘れちゃいけないのは、逃亡中の凶悪犯・浜真千代の存在です。前作ラストでの決意通り、刑事を退職した浦杉の読みは当たり、この事件には浜真千代が大きく関係しています。ただ、被害者達の悪辣さが酷過ぎるせいで、浜真千代がダークヒーローのように見えるという皮肉な展開・・・『殺人依存症』を読まずに本作から読み始めた読者の中には、彼女のファンになってしまう人もいるのではないでしょうか。終盤、とある人物とのやり取りは必見です。

 

というわけで、グロ描写に関していえば、本作はそれほど注意しなくていいと思います。注意すべきは、やはり続編である関係上、『殺人依存症』としっかり繋がっている点でしょうか。特に女子大生撲殺事件の捜査場面は、高比良や浦杉といった前作からの登場人物が出てくることもあり、前作未読だと「これ誰?」となってしまうかもしれません。ここは一つ、覚悟を決めて『殺人依存症』を読破した上で、鬼畜達がデスゲームに翻弄される様を堪能してください。

 

正直、こういう因果応報ならあってもいい度★★★★★

タイトルの意味がなんとも深い・・・度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

    櫛木理宇さんの作品は最近読んでいませんがこれは非常に興味深い内容です。
    残酷な目に遭う大学生はどうやら自業自得のような感じがしますが、櫛木理宇さんらしい容赦ない展開がのしかかってきそうで、まさにデスゲームに最後まで読み切れるのか?デスゲームと言えば「王様ゲーム」を思い出します。
     本日、書店で中山七里さんの毒島刑事シリーズの第3弾らしき作品を見つけました。明日図書館で予約しようと思います。
    櫛木理宇さんの他の新作も探してみます。

    1. ライオンまる より:

      「王様ゲーム」は登場人物達が気の毒でしたが、こちらは弁解の余地のないクズ揃いなので、ある意味、安心して読めますよ。
      私は櫛木理宇さんの「氷の致死量」を予約待ち中。
      毒島刑事の新作、発売情報を見て以来ずっと楽しみにしていました!!
      中山ワールドの中でダントツ一番好きなキャラクターなので、早く読みたいです。

  2. しんくん より:

    殺人依存症を再読してからこれを読みました。
     救いのない終わり方でしたが、殆ど内容を覚えていなかったのでより深く理解しながら読めました。
     あのスーフリの事件から20年近く経っていることに時間の流れを感じました。
     猛毒には更に強力な猛毒を持って制する~自業自得にしてもここまでよるか?とは思いましたが、何故か読後感は悪くなかったです。
     殺人依存症で浦杉刑事が刑事を辞めて家庭を取り戻したことにも安心しました。
     浜真知代がこれで終わらない~新たな続編がありそうで、中山七里の蒲生美智留
    とはタイプが違う悪女がどうなるか?作者もこれで終わらせるとは思えないので期待したいです。

    1. ライオンまる より:

      そうそう、凄まじい事態になっているにも関わらず、後味は悪くないんですよ。
      前作でボロボロになった浦杉が、どん底でなかったことは救いですが・・・
      私も蒲生美智留のことを思い出しました!
      蒲生美智留が「転落する最初の一歩は被害者自身に踏み出させる」タイプの悪女であるのに対し、浜真知代は最初から暴力を駆使して被害者を蹂躙するタイプ。
      あと、本作を読んだ後だと、浜真知代はほんの一かけらながら人間味を残しているところが違うのかなと思いました。

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