子どもの頃から推理小説好きだった私には、憧れのシチュエーションがあります。それは<警察の信頼を得て捜査協力を求められる少年少女>というもの。現実にはおよそあり得ないんでしょうが、「もし自分がこんな風に事件に関わることができたなら・・・」とワクワクドキドキしたものです。
この手の設定で一番有名なのは赤川次郎さんの作品でしょう。『三姉妹探偵団シリーズ』『悪魔シリーズ』『杉原爽香シリーズ』などには、刑事顔負けの推理力・行動力を発揮するティーンエイジャーがたくさん登場します。人気を集めやすい状況だからか、長期シリーズ化することも多いようですね。だったら、この作品も今後シリーズ化されるのかな。中山七里さんの『TAS 特別師弟捜査員』です。
こんな人におすすめ
高校生探偵が登場する学園ミステリーが読みたい人
学校のアイドル的存在だったにも関わらず、校舎から謎の転落死を遂げた女子高生・楓。容姿にも才能にも恵まれ、周囲の人気を集めていた彼女がなぜ・・・?さらに、楓が麻薬を常習していたという噂が立ち、校内に動揺が走る。そんな中、楓のクラスメイト・慎也は、刑事である従兄弟から一つの依頼をされる。それは、警察の協力者となり、生前の楓の身辺状況を密かに探ってほしいというものだった---――果たして楓の死は事故なのか、自殺なのか、それとも殺人なのか。驚きとほろ苦さが胸を打つ青春ミステリー
これは私だけかもしれませんが、中山さんといえば何となく『アポロンの嘲笑』『セイレーンの懺悔』『ネメシスの使者』といった重厚な雰囲気のタイトルを連想してしまいます。そんな中、本作のタイトルはかなりポップ。そのため、最初はユーモラスな学園ミステリーをイメージしていましたが、蓋を開けてみると切なくやるせない青春ミステリーでした。
ある日、一人の女子高生が通っていた学校の三階から転落死を遂げます。現場の状況から事故の線は薄いものの、被害者の楓は才色兼備と言うにふさわしい人気者で、とても自殺するとは思えない。おまけに彼女は薬物を使っていたという話まで飛び出し、学校関係者は打ちのめされます。実は彼女は、死の直前、クラスメイトの慎也に「放課後、ヒマ?」と声をかけていました。今まで何の接点もなかった自分に何の用があったんだろうと思い悩む慎也。そんな慎也は、従兄弟の刑事・葛城から楓の生前の行動を探ってほしいと頼まれ、渋々ながら承諾します。そして、調査のため、楓が所属していた演劇部に入部するのです。
ここで気づいた人も多いでしょうが、従兄弟の刑事・葛城とは、『静おばあちゃんにお任せ』に登場する葛城公彦です。中山ワールドには渡瀬・犬養・毒島ら個性的な刑事が跋扈していますが、葛城刑事の持ち味はその穏やかさ。目立たず地道に行動する葛城の捜査手法は、高校生が活躍するバディものミステリーにぴったりですね。渡瀬や犬養なら自分でどんどん動くところ、葛城は従兄弟である慎也を信頼し、ある程度情報を明かしてまで校内で調査することを許してくれます(まあ、現実の刑事なら許されないんでしょうが・・・)。
ここでちょっと面白いのは、慎也の行動が捜査一辺倒でないところ。こういう学園ミステリーの場合、お前は本当に学生かと突っ込みたくなるくらい捜査に没頭する高校生が出てきたりしますが、慎也はしっかり学校生活をエンジョイしています。何をエンジョイしているかというと、捜査のために入部した演劇部での活動です。楓の身辺を探るため入った部活ですが、そこで慎也は舞台の脚本作りの面白さに目覚め、次第に部の中心メンバーとなって区のコンクールを目指すようになります。
慎也があまり興味のなかった演劇にのめり込む様子、「楓の死を面白がって入部した」と反発する部員たちと信頼関係を築いていく過程はとても自然で、単なる青春小説としても十分成り立つように感じました。彼らがアレンジした現代版『奇跡の人』の脚本(なんと、ヘレン・ケラーが障碍者ではなく現代の引きこもりという設定!)、本当に舞台化しても面白いんじゃないでしょうか。上演直前になって、校長が「引きこもりがテーマなんて不謹慎」と文句をつけてくるところなんていかにもありそうだし、それに対する慎也の切り抜け方もお見事!こういう<柔よく剛を制す>の対応、従兄弟の葛城刑事にそっくりですね。
と、こんな風にいい所もいっぱいある作品ですが、正直、賛否が分かれるだろうなと感じる部分もあります。何よりまず「刑事が高校生に捜査協力を依頼する」という設定が受け入れられない人には、無理矢理感が大きく感じるでしょう。また、学園ミステリーというジャンル上、事件の真相は学園内にあり、後味はかなり苦いです。小説に「リアリティ」や「スッキリ感」を求める読者にはイマイチかもしれませんが、青春ものとしては間違いなく佳作だと思います。慎也はこの先、脚本家への道を歩むようになるのかな。作中にほんの一瞬ですが宮藤刑事が登場しますし、宮藤の兄は『スタート!』に出てきた宮藤映一。いつか、何らかの制作現場で慎也と宮藤が出くわす展開が見たいものです。
誰にでも表と裏の顔がある度★★★★☆
最後の疾走シーンが悲しすぎる・・・度★★★★☆
中山七里さんの作品~これは知りませんでした。
高校生探偵とは名探偵コナンを思い出します。渡瀬警部や御子柴弁護士、犬養刑事ほど有名ではないですが中山作品のキャラクターが次々に登場するとは楽しみです。
スタートで登場した宮藤刑事の兄に葛城刑事とはそれだけで期待感が増してます。
早速予約します。
これまでの中山作品とは少し違うユーモアミステリ風の設定のせいか、賛否が分かれているようです。
本格ミステリーとしてはやや軽めかもしれませんが、青春小説としては面白かったですよ。
金田一少年や名探偵コナンが好きな人なら、きっと気に入ると思います。
面白かったです。特に演劇部の舞台裏での過程が分かりやすく運動部しか経験のない自分として、湊かなえさんのブロードキャストのように文化部の活動がリアルでした。
高校生が不自然なほど論理的で鋭い指摘をする場面はまさに金田一少年や名探偵コナンの世界でした。
同じく、演劇部の活動シーンに感情移入しまくりました。
こういう作品を読むと、高校時代、帰宅部だったことが惜しくなります。
「ブロードキャスト」は先日借りてきたので、読むのが楽しみです。