因習ミステリー、因習サスペンス、因習ホラー・・・悪しき習慣をテーマにした作品は、こうした呼ばれ方をすることが多いです。都会ではダメというわけではないのでしょうが、設定の都合上、閉鎖的な田舎が舞台となる傾向にあるようですね。行動の不自由さ、人間関係の濃密さ、外部からの情報伝達の遅さなどが、作品の陰湿な雰囲気を盛り上げてくれます。
この手の作品で大事なのは、いかに魅力的な因習を作り出すかということ。横溝正史御大の『金田一耕助シリーズ』は言うに及ばず、三津田信三さんの『のぞきめ』といい道尾秀介さんの『背の眼』といい、読者を惹きつけてやまない因縁話が登場しました。それから、この話に出てくる因習もなかなかのものでしたよ。中山七里さんの『鬼の哭く里』です。
こんな人におすすめ
限界集落を舞台にした因習ミステリーが読みたい人
その山で鬼が哭くと、人が死ぬ---――七十数年前、一人の男が村民六人を惨殺し、今なお行方知れずという過去を背負う姫野村。閉鎖的な村での暮らしに飽き飽きした中学生・裕也の前に、東京からの移住者が現れる。その洗練された雰囲気にたちまち惹きつけられる裕也だが、折悪く世間はコロナ禍真っ最中。都会から来た余所者に偏見と嫌悪の目が突き刺さる中、村民の一人が急死した。まさかこれは、言い伝えにある祟りのせいなのか。真相を知るべく村の歴史について調べる裕也だが、村内では第二、第三の死者が出て・・・・・闇を抱えるのは呪いか、人か。息詰まる伝奇ミステリー
中山七里さんは、過去にも『ワルツを踊ろう』で限界集落内での殺人劇を描いています。ただ、あちらの主人公が<都会から田舎にやって来た人間>だったのに対し、本作の主人公は<もともと田舎にいた人間>。内部から見た村の閉塞感の描写が臨場感たっぷりでした。
主人公は、人口三百人足らずの姫野村で暮らす中学生・裕也。村では、終戦後間もなく、利兵衛という男が村民六人を殺して鬼哭山に逃げ込み、そのまま行方をくらませるという凶悪事件が起こっており、<鬼哭山から利兵衛の哭き声が聞こえると死者が出る>と伝えられていました。今なおそんな因縁話に縛られる田舎暮らしに辟易する裕也の前に、都会から病気療養に来たという移住者・麻宮が現れます。麻宮に警戒心を隠そうともしない村人達に対し、彼の都会風の立ち居振る舞いにすっかり魅入られる裕也。そんな中、鬼哭山から異様な咆哮が響いた後、村民の一人が急死するという変事が起きてしまいます。「余所者が、村に災いを持ち込んだんだ」「あいつがいる限り、祟りは消えない」・・・大人達がいきり立つ中、裕也は親しくなった麻宮の名誉のため、呪いの正体を突き止めようとします。奮闘する裕也を後目に相次ぐ第二、第三の死。果たしてこれは、本当に失踪した利兵衛の祟りなのでしょうか。
とにもかくにも、村人達の偏見に満ちた言動の数々がイヤ~な感じで、序盤から鬱々とした気分にさせられます。<自分達に馴染みのないもの><よそから来たもの>を忌み嫌い、何の根拠もなく災い扱いする偏屈さ。外の世界を見てみたいという裕也の希望を一蹴し、暴力さえ使ってねじ伏せようとする狭量さ。「こんなこと、令和の時代にあるわけないじゃん」と言いたいところですが、現実の事件を見る限り、フィクションと言い切れないところが余計にキツいです。
ただ、前述の『ワルツを踊ろう』ほどの生き地獄感は感じません。それは恐らく、村で差別されている麻宮が終始タフで飄々としているから。スポーツカーを颯爽と乗り回し、後半には相棒格の吹邑が登場、詰め寄る村人達相手にケロッとした顔で推理劇を繰り広げる等、財力にも能力にも協力者にも恵まれているんです。ここで麻宮がやつれ果てたりしていたら、さぞ痛々しかったのでしょう。そのせいか、この手の因習ミステリーにしては、比較的読みやすかった気がします。
また、冒頭で描かれる利兵衛の惨劇と、そこから始まる因縁話、現代で起こる連続不審死の絡め方が上手いです。利兵衛の起こした大量殺人のモデルは、津山三十人殺しかな。落伍者の狂気の描写といい、<山から時折聞こえる不気味な咆哮>との結びつきといい、終盤の明快な謎解きといい、因習ミステリーのお手本にしたくほど見事な構成でした。殺人鬼と化した利兵衛が、差別された気の毒な被害者というより、過去の所業のしっぺ返しを食らった嫌われ者だという点も、なかなか面白いと思います。
祟りに関する真相解明後、最後の最後でどんでん返しも仕掛けられており、相変わらず「やられた!」という感じです。今回は裕也視点の物語でしたが、麻宮&吹邑コンビは他作品に登場予定がありそうですね。機動力があり、探偵役として使い勝手も良さそうなので、再登場が待ち遠しいです。
田舎の嫌な面がてんこ盛り度★★★★★
鬼は、人の心の中にいた度★★★★★
今時、このような閉鎖的な村というより時代遅れな村があるのか?と読む度に思いますが、実際にネットがあっても電波が届いていても頭の中は昭和以前だと思うような村や孤島が存在すると改めて思いました。
時代遅れの村にウンザリする少年があった近代的な紳士。
裕也と麻宮、吹邑との出会いから面白くなってきました。
麻宮、吹邑のような心の強さと豊富な知識が無ければこのような束縛感から逃れられない。
彼らの今後の活躍を期待したいですが、裕也がどういう判断を下して成長していくのかを描いて欲しいです。
最近、中山七里さんのペースが落ちていると感じます。
閉鎖的な環境に鬱々とするティーンエイジャーと、颯爽と振る舞う麻宮&吹邑の描写が印象的でした。
現実問題、本作の探偵コンビほど心身ともに強靭な人間は、そう多くないでしょう。
裕也のような一般人は、この環境に甘んじなければならないのかと思うと、なんだかやりきれなかったです。
中山七里さんは、一時期、びっくりするくらい刊行ペースが速かったですからね。
その頃と比べたら、少し落ちた気が・・・
でも、大事なのは作品の質なので、今後も大いに頑張ってほしいです。