「ごあいさつ」欄にも書いてある通り、私は九州出身で、人生の大半を九州で過ごしてきました。海もあれば山もあり、ラーメンと明太子以外にも美味しい食べ物が色々あり、よその土地への移動もしやすい。身びいきかもしれませんが、いいところがたくさんある土地ですよ。
自分の故郷だからということもあるでしょうが、九州を舞台にした作品を見かけると、ついつい手が伸びてしまいます。重厚な歴史もの、どろどろしたイヤミス、胸がきゅんとするようなラブストーリーなど様々な作品がありますが、ハートウォーミングな成長物語が読みたい時はこれ。加納朋子さんの『ぐるぐる猿と歌う鳥』がおすすめです。
転勤する父親に連れられて北九州に引っ越してきた小学生・森(しん)。同じ社宅に住む子ども達や、謎多き少年・パックと親しくなった森は、様々な事件と遭遇する。社宅の屋根に描かれた猿の絵、図書室で交わされる暗号文、社宅で起こる幽霊騒動・・・・・不思議な謎の数々を、森は解くことができるのか。子ども達が守ろうとする、パックの抱える秘密とは。読めば間違いなく子ども時代が懐かしくなる、少年少女の胸躍る冒険譚。
講談社が「かつて子どもだったあなたと少年少女のための---」というコンセプトで企画した、「講談社ミステリーランド」シリーズの中の一作。綾辻行人、島田荘司、小野不由美など、そうそうたるメンバーが執筆していますが、個人的に本作がトップクラスの出来ではないかと勝手に思っています。子どもの心をこれだけリアルかつ爽やかに描いた作品って、なかなかお目にかかることができないのではないでしょうか。
主人公の森は、単純ないい子ではなく「心根は優しいものの腕白すぎて誤解されてしまう」というキャラクター。以前は好奇心に駆られるまま暴れてばかりいた森が、新天地での仲間たちとの出会いを通して少しずつ成長していく様子は、読んでいて胸が温かくなりました。森以外にも、大人の男性を怖がる心、性格も訛りも強い美少女のあや、じゃがいもを連想させる顔立ちの竹本五兄弟、そして何より抜群の聡明さと行動力を持ちながら正体不明かつ神出鬼没の少年・パックなど、子ども達は全員個性豊か。漫画でもドラマでもなく、文字中心の小説でこれだけ生き生きとしたキャラクター造形ができるなんて、加納朋子さんの筆力には感嘆せざるをえませんね。
少し驚いたのは、作風自体はほのぼのと心温まるものでありながら、子ども達を取り巻く環境が意外なくらいシビアな点です。どれだけ賢く勇敢でも、主人公たちは社会的には無力な子ども。大人の権力関係に振り回されることもあれば、DVのような犯罪に押し潰されそうになることもあります。特にパックが抱える秘密は重く、彼の今後が真剣に心配になるほど。決して「パワフルな子ども達が悪い大人を成敗して万事解決」などとはせず、現実のままならなさを織り込みながら未来に希望を持たせる・・・そんなラストがどういうものか、ここで語り尽くせないのが残念です。
会話は訛りの強い北九州弁で交わされることが多いのですが、主人公の森が「東京から引っ越してきたので北九州弁が分からず、通訳が必要」という設定なので、読みにくさを感じることはないと思います。レビューサイトなどを見ると、「子どもの方言が可愛い」という感想も多く、九州人としては嬉しいですね。パックの存在をはじめ、まだまだ解決すべき謎はたくさんありますし、続編出てくれないかなぁ。
こんな仲間が欲しかった!度★★★★★
でも、子どもだけじゃどうにもならないこともある度★★★★☆
こんな人におすすめ
爽やかでちょっと切ないジュブナイル小説が読みたい人
北九州市が舞台とは楽しみです。
大学の4年間北九州市で過ごしました。
本当に暮らしやすく楽しい街でした。
加納朋子さんの作品も好きですので読みたくなりました。
内容も興味深いです。
最初は北九州が舞台と知らなかったので、読み始めて「お♪」と思いました。
加納さんらしい、切ないながらも優しさのある物語でしたよ。
このシリーズはずっと続いてほしかったので、終了したのが残念です。