小学校時代、図書室に置いてあった本は、当然ながら子ども向けの児童書が主でした。それから中学、高校と進むにつれて図書室のラインナップは徐々に大人向けになっていきましたし、自分で本屋巡りをして一般書籍を買う機会も増加。大人向けの本の方が生々しく露骨な描写が多いこともあり、イヤミスやホラー好きの私は児童書から遠ざかりました。
しかし、ある程度の年になってから読み返してみると、児童書は<子ども向け>ではあっても決して<稚拙>ではないことに気付きました。特に、ティーンエイジャー向けのヤングアダルト小説は、文章は平易ながら、この世の心理を鋭く衝いていたり、深刻な社会問題を取り上げたりしているものがたくさんあります。いじめ問題をテーマにしたブロック・コールの『森に消える道』、母子の歪んだ愛情を描いた篠原まりさんの『マリオネット・デイズ』、少年少女が様々なトラブルに立ち向かう宗田理さんの『ぼくらシリーズ』等、どれも心に残る面白い作品です。今回ご紹介するのは、森絵都さんの『宇宙のみなしご』。私の大好きなヤングアダルト小説の一つです。
こんな人におすすめ
中学生が主役の青春小説が読みたい人
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先日、雨上がりに虹を見ました。大はしゃぎするような年齢はとっくに過ぎてしまいましたが、青空にかかる七色の帯を見ると、なんとなく気持ちが明るくなります。そう思う人は多いのか、虹を神との契約と捉えたり、虹の根本には宝があると考えたりする文化もあるようです。
そしてもう一つ、様々な色が並んでいる形状から、虹は<多様性><共存>の象徴でもあるとのこと。そのため、虹がキーワードとして出てくる作品は、異なる個性の登場人物達が支え合って物事を進める内容のものが多いですね。例を挙げるなら、逸木裕さんの『虹を待つ彼女』や瀧羽麻子さんの『虹にすわる』といったところでしょうか。そういえばこの作品でも、登場人物達を虹に例えています。加納朋子さんの『レインレイン・ボウ』です。
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悩める女性達の爽やかミステリーが読みたい人
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「一番印象に残っている時代は?」というアンケートがあるとしたら、どんな答えが集まるでしょうか。回答者の立場によって違うと思いますが、ある世代以上の人達なら、恐らくバブルの時代を挙げると思います。これは一九八六年から一九九一年にかけて起きた好景気のことで、地価高騰やリゾート地開発、就職活動における売り手市場など、様々な社会現象が発生しました。私自身は小さかったためほとんど意識しませんでしたが、「バブルの頃はね・・・」と思い出話をされた経験は数えきれないほどあります。きっと、それほど強烈な印象を残す時代だったのでしょう。
バブルの時代を扱った小説の例を挙げると、黒木亮さんの『トリプルA 小説格付会社』、楡周平さんの『修羅の宴』、当ブログで過去に紹介した貫井徳郎さんの『罪と祈り』などがあります。いずれも、バブルの波に揉まれ、踊らされる人間の業の深さをテーマにしていました。そういう話ももちろん面白いのですが、ずっしりした小説を読んだ後には、明るく口当たりのいい小説が読みたくなるもの。今回は、バブル期に前向きに逞しく生きていく女性達の小説を取り上げたいと思います。林真理子さんの『トーキョー国盗り物語』です。
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女性の幸せ探しをテーマにした小説が読みたい人
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小説のテーマになりがちな問題は色々あります。<親子の確執>はその筆頭格と言えるのではないでしょうか。近い血の繋がりがあり、本来なら愛情と信頼で結ばれるはずの親子。ですが、近いからこそ、場合によっては憎しみや葛藤の対象ともなり得ます。下田浩美さんの『愛を乞う人』や山崎豊子さんの『華麗なる一族』、唯川恵さんの『啼かない鳥は空に溺れる』などでは、そんな親子の愛憎劇が描かれました。
ただ、上記の例からも分かる通り、小説に出てくる親子の確執は<父と息子><母と娘>というケースが多い気がします。やはり同性同士の方が、反発や共感の情が湧きやすいからでしょうか。もちろん、それらもとても面白いのですが、今回はあえて<父と娘>の確執を取り上げた小説をご紹介します。森絵都さんの『いつかパラソルの下で』です。
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家族の確執をテーマにした小説が読みたい人
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「最近疲れて病んでるんだよね」「あの人、ヤバいよ。壊れてるって」そんな会話を交わしたことがある人も多いのではないでしょうか。<病む>とか<壊れる>とかいう言い方は、気軽に使われることがけっこうあります。私自身、簡単に「めっちゃ病み気味なんだ」とか言っちゃう方かもしれません。
ですが、本当に<病んで><壊れた>人間がいた場合、この言葉はとても重くなります。それは、スティーブヴン・キングの『ミザリー』や五十嵐貴久さんの『リカ』などを読めばよく分かりますね。この短編集にも、それぞれの理由で壊れてしまった女性たちが登場します。柴田よしきさんの『猫と魚、あたしと恋』です。
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女性中心の心理サスペンス小説が読みたい人
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私は学生時代、家庭教師を付けていたことがあります。相手は大学生の女性で、勉強だけでなくプライベートの話も色々することができました。ああいうやり取りは、塾ではできないものだったでしょう。
家に招き入れるという性質上、家庭教師と生徒の距離は、学校や塾のそれより近くなりがちですし、時に家庭内のトラブルに関わることもあり得ます。いい師弟関係を築ければ最高ですが、家庭教師という存在が家の中に思わぬ波紋を呼ぶこともないとは言い切れません。本間洋平さんの『家族ゲーム』では、強烈な家庭教師が一つの家族を揺るがす様を描いていました。では、この家庭教師はどうでしょうか。坂木司さんの『先生と僕』です。
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利発な少年が登場するコージーミステリーが読みたい人
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昔、私は2ちゃんねる(現5ちゃんねる)が好きで、手持無沙汰な時間にちょこちょこ覗いていました。以前と比べると頻度が落ちましたが、唯一、<後味の悪い話>というスレッドのみ、今も定期的に進行をチェックしています。タイトルが示す通り、自分の知っている後味の悪い話を投稿するスレッドで、実体験・小説・映画・アニメなどジャンルは不問。イヤミス好きな私の心をくすぐる投稿も多く、ここでこれから読む本を見つけることもありました。
このスレッドを見ていてつくづく思うのは、「後味の悪い話を簡潔かつ面白くまとめるのって難しいな」ということです。もちろん、どんな話だって難しいんでしょうが、後味の悪い話の場合、内容が重苦しい分、だらだら文章を書き連ねると<読みにくい><中身が暗い>のダブルパンチでウンザリ度合も上がるというか・・・真梨幸子さんや櫛木理宇さんのようなどんより暗い長編イヤミス作品も大好きですが、コンパクトで切れ味鋭い短編イヤミスを見つけた時は嬉しさもひとしおです。今回は、そんな短くも後味悪い小説を集めた短編集を取り上げたいと思います。誉田哲也さんの『あなたの本』です。
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『世にも奇妙な物語』のような短編小説が読みたい人
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学生時代、進路指導の先生から「どんな職業でもいい。プライドと責任を持てる仕事をしてください」と言われたことがあります。この言葉の意味が少しずつ分かってきたのは、恥ずかしながら社会人になってから。会社員だろうと自営業だろうと専業主婦(夫)だろうと、自分のやることに誇りを持っている人は素敵です。
そんな人々を主人公にした<お仕事小説>というジャンルがあります。天祢涼さんの『謎解き広報課』では田舎の町役場職員の、荻原浩さんの『神様からひと言』では民間企業のお客様相談室の、坂木司さんの『シンデレラ・ティース』では歯科医受付の、様々な葛藤や挫折、やり甲斐や楽しさが描かれました。今日ご紹介するのは、普段は日が当たりにくい仕事の悲喜こもごもをテーマにした作品です。元新聞記者という経歴を持つ、横山秀夫さんの『看守眼』です。
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様々な職業の主人公が出てくるミステリーが読みたい人
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芥川龍之介賞、直木三十五賞、吉川英治文学賞、山本周五郎賞・・・・・文壇には様々な文学賞があります。インターネットなどを経て人気を集める作家さんや作品も増えてきましたが、それでもやはりこうした文学賞には価値があるもの。権威ある賞の受賞をきっかけにデビューした作家さんは大勢います。
そんな文学賞の中で、私が一番注目しているのは『このミステリーがすごい!』大賞です。二〇〇二年に創設された新しい賞ですが、海堂尊さんの『チーム・バチスタの栄光』や柚月裕子さんの『臨床心理』、中山七里さんの『さよならドビュッシー』など、受賞を機にスターダムの仲間入りをした人気作家さんも多いです。今回は、そんな『このミステリーがすごい!』大賞受賞作家さんがずらりと並んだアンソロジーをご紹介します。『10分間ミステリー』です。
こんな人におすすめ
ショートショートが詰まった短編集が読みたい人
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テレビや新聞のニュースを見ていると、数日と置かずして家庭内暴力に関する事件が目に付きます。言葉の使用法としては、配偶者への暴力を<ドメスティックバイオレンス>、子どもへの暴力を<児童虐待>と使い分けるんだとか。もちろん、暴力は誰に対してだろうと悪いことなのですが、腕力のない女性や子どもが犠牲になると、「許せない」という気持ちが一層強まります。
しかし、虐待がどんなに酷いものであったとしても、日本が法治国家である以上、「虐待犯は全員海に沈めました。めでたしめでたし」というわけにはいきません。加害者はなぜ虐待に走ってしまったのか。暴力がまかり通った背景は何なのか。そこをしっかり解明し、再発防止に努めないと、第二、第三の犠牲者が出る可能性すらあります。今回ご紹介するのは、瀬尾まいこさんの『僕の明日を照らして』。家族間で行われる暴力について、改めて考えさせられました。
こんな人におすすめ
児童虐待にまつわる小説に興味がある人
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