ヒューマン

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「ねこ町駅前商店街日々便り」 柴田よしき

子どもの頃、商店街に行くのが好きでした。本屋に文房具屋、パン屋に映画館。小さい分、従業員さんたちと会話することができ、ワクワクドキドキしたものです。今はもっと大きなデパートやショッピングセンターがあちこちにあって楽しい反面、慣れ親しんだ商店街が廃れていくのは寂しいです。

今、全国にはシャッター通りと化した商店街がたくさんあります。そこをどう再生し、人々の生活を潤すかは、テレビや新聞でしばしば取り上げられるテーマですね。そんな商店街の奮闘を描いた作品、柴田よしきさん『ねこ町駅前商店街日々便り』。この町、行ってみたいです。

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「インターフォン」 永嶋恵美

「団地」という言葉ができたのは昭和十年代だそうです。住宅や工場を計画的に一カ所に集めて建設した地区、またはそこに立地している建造物のことで、住宅団地、工業団地、商業団地などがあります。「団地」と聞くと、住宅団地を真っ先に思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

多くの人や物が行き交う性質上、団地を舞台にした小説は数多く存在します。本間洋平さんの『家族ゲーム』、久保寺健彦さんの『みなさん、さようなら』など、映像化された作品も少なくありません。一つの建物内にたくさんの人が住み、様々な喜怒哀楽が渦巻く団地は、創作のテーマとして魅力的だからでしょうね。今日は、団地に巣食う闇を取り上げた短編集は紹介します。「映島巡」名義で漫画原作やゲームノベライズなども手がける、永嶋恵美さん『インターフォン』です。

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「女たちのジハード」 篠田節子

「OL」という言葉が生まれたのは、一九六四年のこと。週刊誌『女性自身』が公募を行って生まれた造語だそうです。五十年以上の歴史があり、今では台湾や香港でも使用されているようですね。それはすなわち、会社で働く女性がどんどん増え、社会に貢献してきたことの証でしょう。

私自身OL経験者であり、OLが登場する小説も大好きです。才色兼備のOLがイケメン相手に恋の駆け引きを繰り広げる話も、正義感溢れるOLが企業の不正と戦う話も面白い。でも、一番好きなのは、どこにでもいる平凡なOLが、幸せになるため一生懸命前進していく話です。今日は、そんなOLたちの奮闘記をご紹介しましょう。恋愛、ホラー、SFと、幅広いジャンルで活躍する篠田節子さん『女たちのジハード』です。

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「鍵のない夢を見る」 辻村深月

「犯罪」とは読んで字の如く「罪を犯すこと」です。テレビや新聞に目を向ければ、毎日のように新たな犯罪が起こっていることが分かります。それを見て大抵の人は不快感や恐れを感じ、同時にこう思うのではないでしょうか。「私には、犯罪なんて無関係だ」と。

ですが、犯罪とは決して遠い世界の出来事ではありません。ほんのちょっとしたきっかけで、自らが犯罪の加害者や被害者になることもありうるし、目撃者などの形で関わることもあるでしょう。今回紹介する本には、それぞれの形の犯罪と関わることになった五人の女性が登場します。辻村深月さんの直木三十五章受賞作『鍵のない夢を見る』です。

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「鶏小説集」 坂木司

子どもの頃は結構な偏食だった私が積極的に食べた数少ない食材、それが鶏肉です。誕生日のご馳走は鶏のから揚げ、コンビニで買うのはチキンサンド、鍋ならすき焼きよりしゃぶしゃぶより水炊きが好き。偏食が治った今も鶏肉好きは変わらず、神戸牛が売りの焼肉屋に行った時さえ、まず鶏肉を注文したほどです(笑)

ものすごく個人的な意見ですが、鶏肉は肉の中で一番、変化がつけやすいような気がします。部位や調理法によってあっさり味にもなればこってり味にもなる。これって、なんだか人間関係にも似ているような・・・そんな風に思うのは、この作品を読んだせいでしょうか。坂木司さん『鶏小説集』です。

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「二年半待て」 新津きよみ

ここ数年、「○活」という言葉を聞く機会が急激に増えました。就職活動を略した「就活」はずいぶん昔から使われていましたし、二〇一二年には、人生の最期を自分の望むように準備する「終活」がユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに選ばれています。人生のターニングポイントに関するものばかりではなく、朝に勉強や運動を行う「朝活」、体を温めて健康を増進する「温活」などもあります。

留まるところを知らず、あらゆる分野に広がっていく「〇活」。当然、小説のテーマになることも多いですね。そんな様々な「〇活」を取り上げた作品といえばこれ。新津きよみさん『二年半待て』です。

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「かがみの孤城」 辻村深月

何でも願い事を一つ叶えてあげる・・・物語によくあるシチュエーションです。もしそんな局面に直面した時、人は何を願うのでしょうか。私は想像力貧困ですので、いざそういう状況になったら、「家内安全、無病息災」くらいしか思いつかないかもしれません(笑)

しかし、世の中には、切実に叶えたい願いを持つ人もいます。どうにもならない現実に苦しみ、人ならざるものの力を借りてでもそれを打開したいと願う子どももいます。今日取り上げる小説には、そんな子どもたちが登場します。辻村深月さん『かがみの孤城』です。

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「素敵な日本人」 東野圭吾

新年あけましておめでとうございます!このブログも開設して一年半を過ぎました。ここまで続けてこられたのは、お付き合いくださる皆さんのおかげです。拙い文章と内容ばかりですが、2018年もどうぞよろしくお願いします。

新しい年を迎えてすぐは何かと慌ただしく、ゆっくり読書する時間を取ることが難しいかもしれません。そういう時は、重厚な大長編より、さっくり読める短編の方が手を出しやすいのではないでしょうか。それならこの短編集がお薦めですよ。東野圭吾さん『素敵な日本人』です。

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「我らがパラダイス」 林真理子

現在日本において、介護はもはや社会的な問題です。新聞でもテレビでも、介護に関する話題が出ない日はないと言っても過言ではありません。いつ何時、自分が介護する側、あるいはされる側になるか、不安に思う人も多いのではないでしょうか。

こういうご時世ですので、介護をテーマにした小説はそれこそ星の数ほどあります。ミステリーなら東野圭吾さんの『赤い指』、ヒューマンドラマでは篠田節子さんの『長女たち』、青春小説の側面もある木村航さんの『覆面介護師ゴージャス☆ニュードウ』など、どれも面白い作品ばかりでした。ですが、インパクトという点ではこれがトップクラスではないでしょうか。林真理子さん『我らがパラダイス』です。

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「幸せ戦争」 青木祐子

幸せになること。それは恐らく、人類共通の願いでしょう。理想とする形こそ違えど、人は誰しも幸せになるために泣き、笑い、失敗と成功を繰り返しながら生きています。

ですが、ある人にとっての幸せが、他の人間にとっても幸せであるとは限りません。良かれと思って取った行動が、他人にしてみれば無価値・・・どころか不幸の原因になることだってあり得ます。この作品を読んで、私は「幸せって何だろう」と考えさせられました。ジュブナイル作家としても有名な青木祐子さん『幸せ戦争』です。

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