ヒューマン

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「慈雨」 柚月裕子

「お遍路」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。弘法大師の足跡を辿って四国八十八カ所を巡ることで、功徳を積むために行われます。一昔前は徒歩で巡るしか移動手段がありませんでしたが、今は車やバスツアーでの移動もあるようですね。

お遍路に関する小説は色々ありますが、私が真っ先に思い浮かべるのは松本清張の『砂の器』。故郷を追われた親子が遍路する姿が印象的でした。この場面の印象があまりに強いからか、私はお遍路という言葉を聞くと、暗く悲しいものを連想してしまいます。ですが、最近読んだ小説の影響で、少し印象が変わってきました。柚月裕子さん『慈雨』です。

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「クローバーナイト」 辻村深月

家庭の在り方は千差万別。共働き世帯もあれば、片方が働いて片方が専業主婦(夫)という家もあり、母子家庭や父子家庭だってあります。そして、家庭の数だけ喜びがあると同時に、悩みや悲しみも生まれます。

当ブログでも、家族にまつわる小説をいくつか紹介してきました。たくさんの作家さんに取り上げられるということは、それだけ「家庭」というテーマが興味深いものだからなのでしょう。最近、こんな家族に関する小説を読みました。辻村深月さん『クローバーナイト』です。

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「雨利終活写真館」 芦沢央

数年前から「終活」という言葉をよく見聞きするようになりました。文字通り「人生の終わりのための活動」のことで、葬儀や財産分与に関する準備をしておいたり、身の回りのものを片付けておいたりするようですね。少子高齢化が進む現代社会においては、とても重要な意味を持つ活動だと思います。

終活をテーマにしたフィクション作品といえば、ジャック・ニコルソンとモーガンフリーマンが出演した『最高の人生の見つけ方』、アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した『おくりびと』、伊丹十三の監督デビュー作である『お葬式』など、映画が多い気がします。小説ではないのかな・・・と思っていたら、面白いものを見つけました。芦沢央さん『雨利終活写真館』です。

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「翼がなくても」 中山七里

私は生まれてこの方根っからのインドア派。昔から体育は大の苦手で、運動会やマラソン大会は早く終わってくれるよう祈っていました。だからこそ、アスリートを描いた小説は大好き。自分とは縁のない世界な分、無条件に憧れてしまいます。

スポーツ界を舞台にした小説と言えば、箱根駅伝がテーマの三浦しをんさん『風が強く吹いている』、ダイビングに打ち込む少年が主役の森絵都さん『DIVE!!』、高校ボクシング部の青春模様を描く百田尚樹さん『ボックス!』など、面白い作品がたくさんあります。今回は、障がい者スポーツを扱った小説を紹介します。中山七里さん『翼がなくても』です。

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「夏をなくした少年たち」 生馬直樹

小説でもドラマでも映画でも「こういうの大好き!」というシチュエーションってあると思います。たとえば「住む世界の違う二人が偶然出会って恋に落ちる」とか「突如襲来したモンスターに名もなき一般市民が立ち向かう」とか。設定が好みだと、物語の面白さがグンと増しますよね。

私の場合、「子ども時代の出来事を大人になって振り返る」というシチュエーションが大好きです。映画化もされた『スタンド・バイ・ミー』のように、ノスタルジックな雰囲気が好きなんですよ。さらにイヤミス好きとしては、そこに謎解き要素が加われば言うことありません。そんな私の欲求を満たす一冊を見つけました。二〇一六年に第三回新潮ミステリー大賞を受賞した生馬直樹さん『夏をなくした少年たち』です。

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「壁の男」 貫井徳郎

私は昔から涙もろく、ちょっとしたことですぐ泣いてしまっていました。こんな泣き虫な子どもじゃ親はさぞ大変だっただろう・・・と思いきや、泣くだけ泣いたらすぐ眠ってしまうので、意外と楽だったそうです(笑)

今でも泣き上戸な所はあまり変わっておらず、小説を読んだり映画を見たりした後、一人で目を真っ赤にしていることもしばしばです。最近読んだ小説の中では、これが一番泣けました。貫井徳郎さん『壁の男』です。

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「永遠の途中」 唯川恵

あの時、違う選択肢を選んでいたら・・・・・あの人のような生き方をしていれば・・・・・誰でも、そんな空想をした経験があると思います。私自身、けっこう気にしがちな性格ですので、自分の選択を振り返ってはくよくよしてしまうことも多いです。

「隣の芝生は青い」の言葉通り、自分がいない場所ほど美しく、自分が持たない物ほど素晴らしく思えてしまうものなのでしょう。今日は、そんな人の心の複雑さを描いた作品をご紹介します。恋愛小説の名手として名高い唯川恵さん「永遠の途中」です。

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「銀河に口笛」 朱川湊人

「宇宙人」と聞くと、どんな存在を思い浮かべるでしょうか。いわゆる「グレイタイプ」と呼ばれる大きな頭と黒い目を持つタイプから、映画『エイリアン』に登場するような化け物じみた姿、地球人そっくりの容姿を持つものなど、色々でしょうね。ちなみに私はというと、子どもの頃に見たアニメの影響で、足がたくさんあるタコ型宇宙人を想像してしまいます。

いるのかいないのか、その存在が今なお議論の的になっている宇宙人。フィクションの世界ではしばしば恐怖の対象となることもありますが、実際のところはどうなんでしょう。科学的なことはともかく、こんな宇宙人が本当にいたら、友達になりたくなるかもしれません。朱川湊人さん『銀河に口笛』です。

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「5年3組リョウタ組」 石田衣良

小学校時代からずいぶん長い間、私の将来の夢は「学校の先生」でした。幸いにして良い先生に当たることが多く、人間関係でもさほど悩んだことがなかったため、「学校で働くなんて楽しそうだな」と思っていたのです。結局、教職に就くことはなかったものの、教師に憧れることができるなんて、今思えば恵まれた学校生活を送っていたんですね、私。

もちろん、教師という職業がどれだけ大変なものか、今は分かっています。子どもの人生を預かり、教え導く。その責任の重さ、肉体的・精神的なプレッシャーの大きさは、言葉ではとても表現しきれません。今日は、小学校教師の主人公の成長を描いた奮闘記、石田衣良さん『5年3組リョウタ組』をご紹介します。

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「乱反射」 貫井徳郎

「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざをご存知でしょうか。ウィキペディアによると「ある事象の発生により、一見すると全く関係がないと思われる場所・物事に影響が及ぶことの喩え」とあります。大ヒットしたアメリカ映画のタイトルでもある「バタフライ・エフェクト(バタフライ効果)」も同じような意味ですね。

ほんの些細な出来事が様々な事象の原因となり、やがて予想もつかないような大事件を引き起こしてしまう。そんなことが現実に起こったら・・・もしその原因の一つが自分だったら・・・そんな想像をすると、なんだか背筋が寒くなります。そんな恐ろしい「もしも」を描いた作品がありますよ。貫井徳郎さん『乱反射』です。

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