「下着が大好き」と言われた時、人はどんな反応を返すでしょうか。「分かる分かる」と頷く人もいるでしょうが、「いやらしい」「はしたない」と眉をひそめる人も多いのではないでしょうか。身に付ける場所が場所なだけに、下着は性的なものを連想させてしまうからかもしれません。
ですが、考えてみれば変な話です。公道を下着姿で闊歩するというならともかく、大多数の人は服の下に下着を身に付けているはず。それなら誰にも迷惑はかけないわけですし、「ワンピースが好き」「ジーパン最高」と同じ感覚で「下着が大好き」と言っても何一つ問題はありません。あらゆる衣類の中で最も肌に触れる製品なのですから、熱心に選び、機能性だけでなく美しさや可愛さを求めることはある意味で当然とも言えます。そんな下着に対する夢や愛着を描いた本を読みました。近藤史恵さんの『シフォン・リボン・シフォン』です。
こんな人におすすめ
下着を軸にしたヒューマンストーリーを読みたい人
寂れていく地方の町にオープンしたランジェリーショップ「シフォン・リボン・シフォン」。店に並ぶ色鮮やかな下着の数々に、住民たちは驚き、やがて魅せられていく。自尊心を踏みにじる親との暮らしに疲れたパートタイマー、息子の将来を案じる商店主、かつての華やかな暮らしを忘れられない老女・・・・・美しい下着を通し、彼らは何を見つけるのか。色鮮やかな下着が織りなす切なくも温かい短編小説集。
ロマンチックなタイトルや表紙とは裏腹に、扱うテーマは「親子の確執」「介護」「嫁姑関係」などの生臭いものばかり。ともすればドロドロ一辺倒になりがちなところ、近藤さんらしい柔和な文章と、きらきらした下着の描写が上手く中和してくれていたと思います。私はあまり下着にこだわる方ではないので、これほど色々な種類があることにも驚きました。
「第一話」・・・家事や寝たきりの母親の介護に忙殺され、スーパーのパートで細々と稼ぐ佐菜子。両親は感謝するどころか事あるごとに佐菜子を批判し、兄妹はとっくに家を出て行った。鬱々とする佐菜子は、ある日、ランジェリーショップができたことに気付き・・・
佐菜子を侮辱し、尊厳を奪い、支配しようとする両親が酷すぎる!「佐菜子!黙ってないで言い返せ!」と思いますが、幼少期からこんな生活を送っていれば、すっかり洗脳されて逆らえないんだろうな・・・後半、下着を通して「自分を大切にすること」を知った佐菜子が、両親の暴言を笑い飛ばせるようになったこと、支配下から脱した佐菜子に両親が怯えるようになったことには心底ホッとしました。正社員にもなれたことだし、これから佐菜子が幸せになれますように。
「第二話」・・・米穀店を営む均には気がかりが一つある。二十九歳になる息子に、いっこうに浮いた話がないのだ。孫の顔も見たいのに、妻は息子可愛さからか嫁探しにまったく熱心でない。そんな時、均は息子に関する噂を聞き・・・
前話とは違い、今回は「親」目線のエピソードです。均目線では「息子を偏愛する母親」だった妻が、実は細やかな観察力と気配りの持ち主だったという展開はとても好み。噂の真相自体は割と簡単に予想できますが、その後の均の行動はちょっと意外・・・でも、ドラマや映画ならともかく、現実の親はこういう選択をすることが多いのかもしれません。何はともあれ、息子を全否定する結果にならなくて良かったです。
「第三話」・・・子どもの頃から好きだった下着の専門店を開いた水橋かなえ。教員一家であることを誇りに思っていた母が怒り狂ってもどこ吹く風だ。忙しいながらも充実した日々を送るかなえだが、乳癌であることが発覚し・・・
客が主役だった一話、二話とは打って変わって「シフォン・リボン・シフォン」の店長・かなえの背景が描かれます。一話と同じく娘を支配しようとする毒親が登場。親の支配を逃れたと思いきや乳癌を患ってしまうかなえの心境が痛々しかったです。闘病の描写は辛いものがありますが、同じく乳癌になった女性客とかなえのやり取りが温かくて素敵でした。あと、出番は少ないのですが、弟嫁の由美香さんがさっぱりしていて好感度大です。
「第四話」・・・かなえの店に一人の老女が訪れる。店員に自慢話を繰り返し、商品を注文や取り置き依頼しておきながら、実際に買いはしないのだ。老女が他店でも同じ行為を繰り返していることを知ったかなえは、彼女が本当に欲している物を考え始める。
豊かだった時代を忘れられず、今や鼻つまみ者に成り下がってしまった老女がなんとも哀れ。彼女を愚かと言うのは容易いですが、その気持ちは分かってしまうんですよね。老女の本当の望みに気付き、それを叶えてあげるかなえは、本当に優しい人間なんでしょう。また、ぎくしゃくしっぱなしだった母親との関係が、多少なりとも変化しているようで嬉しかったです。
取り上げられる問題は重いものの、最後に希望があるので読後感は良いです。特に印象的だったのは、毒親への対処の仕方。毒親が出てくる小説の場合、「戦い、乗り越える」あるいは「逃げ出して新たな人生を始める」というパターンが多いですが、本作は一味違います。なるほど、こういうやり方もあるんだなと、すんなり納得できる展開でした。今後はもう少し、下着選びに気を遣ってみようかな。
自分自身を思いやってあげなきゃいけないよ度★★★★☆
人から大切にしてもらうための一番の方法は・・・度★★★★☆
借りてきたばかりです。
下着を通して新しい人生と解決策を見つけるとは興味深いです。
毒親のエピソードは読み辛そうですが、希望あるラストが楽しみです。
毒親の描写はなかなかキツいものの、きちんと救いがあるので良かったです。
そういえばmファッションをテーマにした小説はたくさんありますが、下着を中心にしたものは少ない気が・・・
収録されているのは四話だけなので、いつか続編が出てほしいです。