ホラー

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「婚約者」 新津きよみ

調査によると、初恋の平均年齢は男性が十一歳で女性が九歳、初めて恋人ができたのは男女共に十六歳が平均だそうです。初めて人に恋愛感情を抱き、その人のことを思って一喜一憂したり、デートの約束に浮かれたりする・・・そんな初々しい恋心は、本人達だけでなく、見ている周囲の人間をも温かな気持ちにさせてくれるものです。

ですが、イヤミスやホラーの世界となると話は別。若く未熟であるがゆえの幼稚さ、周囲の事情が見えない軽率さが強調され、とんでもない悲劇が引き起こされることも少なくありません。そんな狂気とも言える恋心を描かせたら、この作家さんは本当に上手いですね。今回は、新津きよみさん『婚約者』をご紹介したいと思います。

 

こんな人におすすめ

女性の狂気を描いたホラーサスペンスが読みたい人

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「さえづちの眼」 澤村伊智

<血は水よりも濃し>ということわざがあるように、古来より、血縁関係のある家族は固い絆で結ばれていると考えられてきました。実際にはそうでもないケースも多々あるのですが、「あいつとは血が繋がっているから」という理由で過ちが許されたり、恩恵を受けたりする事例が数多く存在することもまた事実。同様の考え方が欧米やアラブ地域にも存在することからも、人類がいかに血縁を重視する生き物かが分かります。

一言で<血縁>といっても親子や兄弟姉妹等、色々な関係がありますが、中でもひときわ特別扱いされるのは<母子>ではないでしょうか。何しろ、この世で唯一、物理的に肉体を共有したことがある間柄です。当然のように多くの創作物のテーマとなり、深く濃い愛憎が描かれてきました。今回取り上げる作品も、母と子の関係が下敷きになっています。澤村伊智さん『さえづちの眼』です。

 

こんな人におすすめ

『比嘉姉妹シリーズ』が好きな人

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「近畿地方のある場所について」 背筋

<モキュメンタリー>という手法があります。これは、フィクション作品を、実際に起こったドキュメンタリー作品のように描写するやり方のこと。ドキュメンタリーとして演出している関係上、作中で明確な謎解きや真相解明がなされないことが多く、与えられた情報から読者が考察する必要があることが特徴です。

古くから存在する手法ですが、知名度を上げたのは、アメリカ発のホラー映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』でしょう。小説なら、長江俊和さんの『放送禁止シリーズ』は、モキュメンタリーの性質をうまく活かしたサスペンスでした。それからこれも、モキュメンタリーの名作として、長く語り継がれる作品だと思います。背筋さん『近畿地方のある場所について』です。

 

こんな人におすすめ

モキュメンタリー形式のホラー小説に興味がある人

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「ホテル・カイザリン」 近藤史恵

当たり前の話ですが、図書館で本を予約した場合、その本がいつ手元に届くか事前には分かりません。特に予約者が大勢いるような人気作となると、順番が回ってくるタイミングは予測不可能。時には、予約本が複数まとめて届いてしまい、返却日を気にしつつ大慌てで読む羽目に陥ったりします。人気作は図書館側の購入冊数も多いため、意外とさくさく順番が進むのかもしれませんね。

逆に、待てども暮らせども予約本が一冊も届かないこともままあります。なぜか「今なら大長編だろうと読む余裕あるのに!」という時に限って、どの本も全然順番が回ってこなかったりするんですよ。最近、そういう状況が続いてモチベーション下がり気味だったので、この本が届いた時は嬉しかったです。近藤史恵さん『ホテル・カイザリン』です。

 

こんな人におすすめ

イヤミス多めの短編集が読みたい人

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「息がとまるほど」 唯川恵

有難いことに、実家には今なお私の部屋が残っています。昔、私が使っていた日用品の類も、状態の良い物はそのまま保管してくれています。実家を離れてずいぶん経つのに、まだ部屋を残してもらえるなんて、少し照れくさくも嬉しいものです。

そんな私の帰省中のお楽しみ。それは、実家の部屋に並んでいる本を読み返すことです。何度も何度も繰り返し読んだ作品ばかりで、別に目新しいわけではありませんが、読むたびにちゃんと面白いのだから不思議ですね。前回の帰省時には、この作品を再読しました。唯川恵さん『息がとまるほど』です。

 

こんな人におすすめ

背筋がゾクッとするような恋愛短編小説集に興味がある人

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「一寸先の闇 澤村伊智怪談掌編集」 澤村伊智

短いながらも読者を本の世界にどっぷり浸らせてくれるショートショート、大好きです。特に社会人になってからは、学生時代ほど長く読書時間が確保できないため、長編小説だと途中で読むことを中断せざるを得ないこともしばしば・・・作品によっては、物語の途中から読書を再開すると「あれ、この人誰だっけ?」「なんでこの二人はいがみ合ってるの?」等々、内容を把握するのに時間がかかることもあります。その点、ショートショートなら一話をすぐ読み終われるので安心ですね。

そんなショートショートには、他の長編や短編作品同様、様々なジャンルがあります。どんなジャンルが好きかは人それぞれでしょうが、個人的にはミステリーやホラーが好みです。短い分量でゾクッとさせられる感覚が堪らないんですよ。思えばショートショートの神様・星新一さんの作品も、皮肉たっぷりでブラックな雰囲気のものが多いです。今日取り上げるのも、残暑を吹き飛ばすほどの寒気を味わえるショートショート集です。澤村伊智さん『一寸先の闇 澤村伊智怪談掌編集』です。

 

こんな人におすすめ

ホラー小説のショートショート集が読みたい人

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「フォトミステリー」 道尾秀介

昔読んだ小説の中で、こんなエピソードが紹介されていました。『チャレンジャー号爆発事故の発生後、阿鼻叫喚に陥る観客達を写した写真が話題となった。ところが後日、その写真は事故発生後ではなく、打ち上げ直後に撮られたものだと判明した。当初、恐怖と混乱の真っ只中と思われていた観客達の表情は、実は期待と興奮に沸いていたのだ』。その後同様のエピソードを見聞きしたことはないため、もしかしたら単なる噂なのかもしれませんが、十分あり得る話だと思います。物の見え方というものは、受け取る側の価値観や状況によって簡単に変化するものです。

絵よりもずっと正確に、被写体を写すことができる写真。そんな写真でさえ、解釈の違いというものは存在します。たった一枚の写真からだって、百人の人間がいれば百通りの物語を作り出すことも不可能ではないでしょう。今回取り上げるのは、写真にまつわるバラエティ豊かなショートショート集、道尾秀介さん『フォトミステリー』です。

 

こんな人におすすめ

ブラックな作風のショートショートが好きな人

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「ぼんぼん彩句」 宮部みゆき

俳句というのは、とても奥の深い芸術です。たった十七文字という、詩の世界の中でも異例の短さで、風景や作者の心情を表現する。文字数が少ない分、一見簡単だと思えるかもしれませんが、十七文字という縛りの中で世界観を作り上げるのは至難の業です。日本での認知度の高さは言うに及ばず、近年では海外にまで俳句文化が進出し、英語で俳句を詠むこともあるのだとか。日本の伝統文化が世界に広まるのは、日本人として嬉しいことですね。

それほど有名な俳句ですが、俳句が大きく取り上げられた小説となると、私は今まであまり知りませんでした。松尾芭蕉や小林一茶といった有名な俳人が主人公の小説ならいくつかあるものの、それらは俳句そのものがテーマというわけではありません。なので、先日、この作品を読んだ時はとても新鮮で面白かったです。宮部みゆきさん『ぼんぼん彩句』です。

 

こんな人におすすめ

俳句をテーマにしたバラエティ豊かな短編集に興味がある人

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「蛇神」 今邑彩

実は私、昔はシリーズ作品が苦手でした。今になって考えてみると、<順番通りに読まなくてはならない><前作の内容を把握しないと、次作の意味が分からない>という縛りが嫌だったのだと思います。シリーズ作品で読むとしたら、どの刊から読んでも構わない、いわゆるサザエさん時空で展開するものばかり。我ながら食わず嫌いだったなと思います。

言うまでもなく、縛りがあろうとなんだろうと、面白いシリーズ作品は山ほどあります。有名どころなら、東野圭吾さんの『ガリレオシリーズ』や有栖川有栖さんの『火村英生シリーズ』、当ブログで何度も取り上げた西澤保彦さんの『匠千暁シリーズ』や澤村伊智さんの『比嘉姉妹シリーズ』etcetc。刊が進むごとに登場人物達の状況が変化し、成長を見ることができて楽しいです。今回ご紹介するのは、大好きなシリーズ作品の記念すべき第一作目、今邑彩さん『蛇神』です。

 

こんな人におすすめ

因習が絡む土着ホラーが好きな人

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「幽霊絵師火狂 筆のみが知る」 近藤史恵

残念ながら私は画才に恵まれませんでした。子どもの頃から、図画工作や美術は苦手な教科の筆頭格。教室の後ろに自分の絵を飾られることが本気で憂鬱だったものです。

そんな私ですが、絵を見る方は結構好きです。正確には、絵そのものを見るというより、絵に関する背景やエピソードを知ることが好きなんですよ。ゴヤの<カルロス四世の家族>にはひっそりとゴヤ本人も描き込まれているとか、ダ・ヴィンチの<最後の晩餐>の向かって右側三人は「誰が裏切り者なんだ?」ではなく「今、キリスト先生が何て仰ったか聞き取れなかった!」と騒いでいるとか、夢中になって調べました。こうしたエピソードは、単に面白いだけでなく、画家の宗教観や死生観、当時の社会情勢などを知る手掛かりにもなるんですよね。今回ご紹介する作品にも、絵に込められた様々な思いや秘密が登場します。近藤史恵さん『幽霊絵師火狂 筆のみが知る』です。

 

こんな人におすすめ

・絵にまつわる不思議なミステリーが読みたい人

・市井の人々が出てくる時代小説が好きな人

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