コメディ

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「うちの子が結婚しないので」 垣谷美雨

今や<婚活>という用語はすっかり一般的なものになりました。漢字にするとたった二文字ですが、そのやり方は様々です。インターネットの婚活サイトに登録したり、結婚相談所を介したり、大規模なパーティーに参加したり・・・最近は寺での座禅や農作業など、ユニークなイベントを利用した婚活も多いようですね。そんな婚活の中に<親婚活>というものがあります。

読んで字の如く、まず親同士が子どもの代理で見合いをし、結婚相手を探す<親婚活>。「いい大人の結婚に親がしゃしゃり出てくるなんて・・・」と思う人も多いでしょうが、結婚と生育環境が密接に結びついていることは事実です。相手の人となりを見極め、気持ちいい身内付き合いをしていくため、親の目を借りるというのは効果的な手段なのかもしれません。今回取り上げるのは垣谷美雨さん『うちの子が結婚しないので』。親の目から見た婚活の悲喜こもごもが楽しめました。

 

こんな人におすすめ

<親婚活>というものに興味のある人

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「中島ハルコはまだ懲りてない!」 林真理子

悩みを抱えた時の一番スタンダードな解決方法は、「誰かに相談する」だと思います。ネットで調べる・占いに頼る・趣味に没頭して気を紛らわせる、などの方法もありますが、これだと正確性に欠けたり、根本的な問題解決にならなかったりしますよね。信頼できる誰かと向き合い、悩みを打ち明ければ、たとえ解決策が見つからなくても気持ちが軽くなるものです。

となると次なる問題は「相談相手として誰を選ぶか」ということです。両親や配偶者など、確実に頼れる身内がいる人はいいでしょう。ですが、そういった身内を持たない人もいますし、場合によってはその身内が悩みの種だったりするケースもあります。恋人や友達にしたって、性格や能力その他諸々によっては、「好きだけど、的確な助言をくれる相手ではない」ということだってあり得ます。でも、この人が知人ならば、悩み相談する相手を迷わずに済むんじゃないでしょうか。林真理子さん『中島ハルコはまだ懲りてない!』に登場する中島ハルコです。

 

こんな人におすすめ

コミカルで痛快な人間模様が読みたい人

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「中島ハルコの恋愛相談室」 林真理子

読む本を選ぶ上で、あまり関係ないように見えて実はすごく重要な要素、それは「表紙」です。表紙によって物語の質が変わることはありませんが、魅力的な表紙の本は人の目を引き寄せるもの。「表紙につられて手に取ってみたら、予想以上に面白かった!」ということだってあるでしょう。

かくいう私自身、表紙に惹かれて本を選んだ経験は数えきれないほどあります。中でも、恩田陸さんの『麦の海に沈む果実』、近藤史恵さんの『タルト・タタンの夢』、村山由佳さんの『野生の風 WILD WIND』の表紙は、その作家さんにはまるきっかけとなったこともあり、今もはっきりと覚えています。そう言えば、この作品の表紙もけっこうインパクトありますね。林真理子さん『中島ハルコの恋愛相談室』です。

 

こんな人におすすめ

すっきり爽快なエンタメ小説が読みたい人

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「けむたい後輩」 柚木麻子

記憶にある限り、今まで生きてきて「先輩」と言われたことはほとんどありません。中学校の部活では新入部員が入って来ず、高校は私が帰宅部。社会人になってからは後輩ができたものの、会社では「名字+さん」呼びが一般的でした。別に不自由はありませんでしたが、可愛い後輩に「先輩、先輩」と慕われるというシチュエーションには憧れちゃいますね。

小説の世界にはたくさんの先輩後輩が登場します。有栖川有栖さんの『学生アリスシリーズ』は頼もしい先輩が登場する青春ミステリ、秋吉理香子さんの『暗黒女子』は美しい女子高生を巡る愛憎劇を描いたイヤミス、森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』は後輩に恋した大学生が主人公の恋愛小説です。どの先輩後輩の関係性も様々、愛や尊敬や信頼もあれば、憎しみや嫉妬や軽蔑もありました。では、この作品に出てくる先輩後輩はどうでしょうか。柚木麻子さん『けむたい後輩』です。

 

こんな人におすすめ

ほろ苦い成長物語が読みたい人

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「憧憬☆カトマンズ」 宮木あや子

明るくポップな雰囲気の小説と暗く重厚な雰囲気の小説、世間ではどちらの方が人気なのでしょうか。私はどちらも好きですが、その時の気分によって作風を選ぶことは当然あります。仕事で大失敗した時に道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』は読みたくないし、ダイエットしたい時は山口恵以子さんの『食堂のおばちゃん』は避けますね。

そして、作家さんの中には、明るい小説と暗い小説の差が凄まじく、同一人物が書いたのかと疑いたくなるようなレベルの作品を書くがいらっしゃいます。作家なのだから当たり前、と言えばそれまでですが、やはりプロというのは凄いものなのだと感嘆せざるをえません。貫井徳郎さんの『慟哭』と『悪党たちは千里を走る』、重松清さんの『疾走』と『とんび』等々、その陰と陽の差に驚いたものです。そう言えばこの方も、明るい作品と暗い作品のギャップが大きいですよね。今回はそんな作家さん、宮木あや子さん『憧憬☆カトマンズ』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

気分すっきりなお仕事小説が読みたい人

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「私にふさわしいホテル」 柚木麻子

こんなブログをやっているだけあって、私は文章を読むのも書くのも好きです。昔は「小説家になりたいな」と思い、自作の小説をちまちま書いてみたりもしました。その内、書くより読む専門でいる方がいいと思うようになりましたが、ふと思いついた物語をあれこれ捏ね繰り回すのは結構面白かったです。

ですが、プロの作家にしてみれば、創作という行為は単純に「面白い」で済むものではないでしょう。物語に破綻がないよう細心の注意を払い、時代のニーズを考え、時には自ら営業活動を行って作品が多くの人に読んでもらえるよう努める。そして、それだけの努力を積み重ねても、作品が見向きもされないこともある。それがクリエイターの背負う宿業です。そんな小説家の悪戦苦闘を描いた作品といえばこれ、柚木麻子さん『私にふさわしいホテル』です。

 

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文壇の悲喜こもごもを描いたコメディ小説が読みたい人

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「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ

「世界平和のためには、家に帰って家族を大切にしてあげてください」と言ったのはマザー・テレサ、「人生最大の幸福は家族の和楽」と言ったのは細菌学者の野口英世、「楽しい笑いは家の中の太陽である」と言ったのはイギリスの作家サッカレーです。どれもまったくその通りで、どんな家族の中で育ったかは、その後の人生を大きく左右すると言っても過言ではありません。愛に満ちた家族ならばこれほど幸せなことはないですし、殺伐として冷え切った家族なら人生はさぞ辛く寂しいものでしょう。

家族をテーマにした小説はたくさんありすぎて挙げるのに迷うほどですが、ユーモア小説なら奥田英朗さんの『家日和』や伊坂幸太郎さんの『オー!ファーザー』、虐待が絡むものは下田治美さんの『愛を乞うひと』や青木和雄さんの『ハッピーバースデー~命かがやく瞬間~』、ミステリー要素を求めるなら辻村深月さんの『朝が来る』などが有名です。どの作品にも読み手の胸に残る家族が登場しますが、最近読んだ小説に出てくる家族はとても魅力的でした。瀬尾まいこさん『そして、バトンは渡された』です。

 

こんな人におすすめ

家族にまつわる温かな小説が読みたい人

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「お隣さんが殺し屋さん」 藤崎翔

現在地方在住の私ですが、一時期、首都圏に住んでいたことがあります。上京した時は、生まれて初めてのお江戸暮らしにわくわくどきどき。芸能人と会えるかな、ドラマの撮影現場に出くわすかなと、胸を高鳴らせていました。まあ、実際はそうドキドキすることがあるわけもなく、ごく普通に生活していただけですけどね。

新しい環境での生活を始めるとなると、誰でも多かれ少なかれ緊張したり期待したりすると思います。楽しい出来事があるといいけれど、もしかしたら危ない目や怖い目に遭うかもしれない。命の危険さえ感じる出来事があるかもしれない。たとえば、新居の隣人がとんでもない人物だったりとか・・・・・今回取り上げる藤崎翔さん『お隣さんが殺し屋さん』には、そんな驚愕の「お隣さん」が登場します。

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「定年オヤジ改造計画」 垣谷美雨

「濡れ落ち葉」という言葉が流行語大賞を受賞したのは一九八九年のことだそうです。意味は「濡れた落ち葉が払ってもなかなか落ちないように、主に定年退職後の夫が妻にべったりはりついて離れないこと」。男声差別だという意見もあったようですが、流行語大賞を取った以上、多くの国民の間に浸透していたことは事実でしょう。

特にある程度以上の世代の男性の場合、仕事以外に趣味や交友関係を持たず、定年後にやることがなくて妻にまとわりつくというケースが多いようですね。まとわりつくならつくで、何か手伝いをしてくれるならまだしも、手は出さずに口だけ出すから嫌がられる、という話をよく聞きます。人間百年というこのご時世、リタイア後の人生を豊かに過ごせるか否かは自分自身の努力次第です。どう努力すればいいか分からないという人は、これを読んでみてはいかがでしょうか。垣谷美雨さん『定年オヤジ改造計画』です。

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「娘と嫁と孫とわたし」 藤堂志津子

女性同士の人間関係は難しい。これ、色々なところでよく使われる言い回しです。女の立場から言わせてもらうと、男性同士の人間関係もけっこう難しいと思うんですが・・・とはいえ、同性ばかりが集まると、異性が混じっている時とは違う軋轢やしがらみが生じることは事実でしょう。

私はイヤミスが大好きなので、女性同士のドロドロを扱った作品はたくさん読みました。ですが、さすがに小説やドラマになるような争いなど、そうそう起こらないもの(と思いたい)。女性のリアルな駆け引きを描いた作品といえば、これなんてお勧めですよ。直木賞をはじめ数多くの文学賞を受賞し、エッセイストとしても有名な藤堂志津子さん『娘と嫁と孫とわたし』です。

 

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