コメディ

はいくる

「10分間ミステリー」 『このミステリーがすごい!』大賞編集部 編

芥川龍之介賞、直木三十五賞、吉川英治文学賞、山本周五郎賞・・・・・文壇には様々な文学賞があります。インターネットなどを経て人気を集める作家さんや作品も増えてきましたが、それでもやはりこうした文学賞には価値があるもの。権威ある賞の受賞をきっかけにデビューした作家さんは大勢います。

そんな文学賞の中で、私が一番注目しているのは『このミステリーがすごい!』大賞です。二〇〇二年に創設された新しい賞ですが、海堂尊さんの『チーム・バチスタの栄光』や柚月裕子さんの『臨床心理』、中山七里さんの『さよならドビュッシー』など、受賞を機にスターダムの仲間入りをした人気作家さんも多いです。今回は、そんな『このミステリーがすごい!』大賞受賞作家さんがずらりと並んだアンソロジーをご紹介します。『10分間ミステリー』です。

 

こんな人におすすめ

ショートショートが詰まった短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「指名手配作家」 藤崎翔

芸能人が小説を書くケースは多いです。その際、「芸能人に小説が書けるのか」という批判が巻き起こるのはお約束。特に、その芸能人が華やかな経歴の持ち主だった場合、批判が激しくなる傾向にあるようです。

ですが、芸能人に小説が書けないと決めつけるのは偏見というものでしょう。文学史上の例を挙げると、『クリスマス・キャロル』などで有名な世界的文豪チャールズ・ディケンズは、役者としての顔も持っていました。現代日本にだって、優れた小説を書く芸能人、あるいは元芸能人は大勢います。その中で私のお気に入りは藤崎翔さん。最近読んだ『指名手配作家』も、スピード感に溢れていて面白かったです。

 

こんな人におすすめ

コメディタッチの逃亡劇が読みたい人

続きを読む

はいくる

「マジカルグランマ」 柚木麻子

創作作品を見ていると、「このキャラってステレオタイプだよね」と思うことがあります。たとえば<日本人>なら<努力家で慎み深く、自己主張が苦手>とか、<田舎者>なら<流行に疎く方言丸出しで喋り、お節介だが人情味がある>とか。現実には怠け者ではっきり物を言う日本人も、お洒落でクールな田舎者も大勢いるに決まっていますが、なんとなくこういうイメージが付いてしまっています。こういう固定観念やレッテルのことを<ステレオタイプ>と言います。

映画や小説などを創る上で、このレッテルは役立つこともあります。分かりやすいキャラクターがいた方が物語が盛り上がるという側面も確かにあるでしょう。ただし、一つのイメージがあまりに浸透することで、そのイメージ通りに動かない人達が嫌な思いをさせられるというマイナス面もあります。はっきり自己主張しただけで「日本人なのに我が強い」などと言われたら、誰だって不愉快な気持ちになりますよね。この作品を読んで、物事にレッテルを貼ることの意味を考えさせられました。柚木麻子さん『マジカルグランマ』です。

 

こんな人におすすめ

シニア世代の奮闘記が読みたい人

続きを読む

はいくる

「うちの子が結婚しないので」 垣谷美雨

今や<婚活>という用語はすっかり一般的なものになりました。漢字にするとたった二文字ですが、そのやり方は様々です。インターネットの婚活サイトに登録したり、結婚相談所を介したり、大規模なパーティーに参加したり・・・最近は寺での座禅や農作業など、ユニークなイベントを利用した婚活も多いようですね。そんな婚活の中に<親婚活>というものがあります。

読んで字の如く、まず親同士が子どもの代理で見合いをし、結婚相手を探す<親婚活>。「いい大人の結婚に親がしゃしゃり出てくるなんて・・・」と思う人も多いでしょうが、結婚と生育環境が密接に結びついていることは事実です。相手の人となりを見極め、気持ちいい身内付き合いをしていくため、親の目を借りるというのは効果的な手段なのかもしれません。今回取り上げるのは垣谷美雨さん『うちの子が結婚しないので』。親の目から見た婚活の悲喜こもごもが楽しめました。

 

こんな人におすすめ

<親婚活>というものに興味のある人

続きを読む

はいくる

「中島ハルコはまだ懲りてない!」 林真理子

悩みを抱えた時の一番スタンダードな解決方法は、「誰かに相談する」だと思います。ネットで調べる・占いに頼る・趣味に没頭して気を紛らわせる、などの方法もありますが、これだと正確性に欠けたり、根本的な問題解決にならなかったりしますよね。信頼できる誰かと向き合い、悩みを打ち明ければ、たとえ解決策が見つからなくても気持ちが軽くなるものです。

となると次なる問題は「相談相手として誰を選ぶか」ということです。両親や配偶者など、確実に頼れる身内がいる人はいいでしょう。ですが、そういった身内を持たない人もいますし、場合によってはその身内が悩みの種だったりするケースもあります。恋人や友達にしたって、性格や能力その他諸々によっては、「好きだけど、的確な助言をくれる相手ではない」ということだってあり得ます。でも、この人が知人ならば、悩み相談する相手を迷わずに済むんじゃないでしょうか。林真理子さん『中島ハルコはまだ懲りてない!』に登場する中島ハルコです。

 

こんな人におすすめ

コミカルで痛快な人間模様が読みたい人

続きを読む

はいくる

「中島ハルコの恋愛相談室」 林真理子

読む本を選ぶ上で、あまり関係ないように見えて実はすごく重要な要素、それは「表紙」です。表紙によって物語の質が変わることはありませんが、魅力的な表紙の本は人の目を引き寄せるもの。「表紙につられて手に取ってみたら、予想以上に面白かった!」ということだってあるでしょう。

かくいう私自身、表紙に惹かれて本を選んだ経験は数えきれないほどあります。中でも、恩田陸さんの『麦の海に沈む果実』、近藤史恵さんの『タルト・タタンの夢』、村山由佳さんの『野生の風 WILD WIND』の表紙は、その作家さんにはまるきっかけとなったこともあり、今もはっきりと覚えています。そう言えば、この作品の表紙もけっこうインパクトありますね。林真理子さん『中島ハルコの恋愛相談室』です。

 

こんな人におすすめ

すっきり爽快なエンタメ小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「けむたい後輩」 柚木麻子

記憶にある限り、今まで生きてきて「先輩」と言われたことはほとんどありません。中学校の部活では新入部員が入って来ず、高校は私が帰宅部。社会人になってからは後輩ができたものの、会社では「名字+さん」呼びが一般的でした。別に不自由はありませんでしたが、可愛い後輩に「先輩、先輩」と慕われるというシチュエーションには憧れちゃいますね。

小説の世界にはたくさんの先輩後輩が登場します。有栖川有栖さんの『学生アリスシリーズ』は頼もしい先輩が登場する青春ミステリ、秋吉理香子さんの『暗黒女子』は美しい女子高生を巡る愛憎劇を描いたイヤミス、森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』は後輩に恋した大学生が主人公の恋愛小説です。どの先輩後輩の関係性も様々、愛や尊敬や信頼もあれば、憎しみや嫉妬や軽蔑もありました。では、この作品に出てくる先輩後輩はどうでしょうか。柚木麻子さん『けむたい後輩』です。

 

こんな人におすすめ

ほろ苦い成長物語が読みたい人

続きを読む

はいくる

「憧憬☆カトマンズ」 宮木あや子

明るくポップな雰囲気の小説と暗く重厚な雰囲気の小説、世間ではどちらの方が人気なのでしょうか。私はどちらも好きですが、その時の気分によって作風を選ぶことは当然あります。仕事で大失敗した時に道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』は読みたくないし、ダイエットしたい時は山口恵以子さんの『食堂のおばちゃん』は避けますね。

そして、作家さんの中には、明るい小説と暗い小説の差が凄まじく、同一人物が書いたのかと疑いたくなるようなレベルの作品を書くがいらっしゃいます。作家なのだから当たり前、と言えばそれまでですが、やはりプロというのは凄いものなのだと感嘆せざるをえません。貫井徳郎さんの『慟哭』と『悪党たちは千里を走る』、重松清さんの『疾走』と『とんび』等々、その陰と陽の差に驚いたものです。そう言えばこの方も、明るい作品と暗い作品のギャップが大きいですよね。今回はそんな作家さん、宮木あや子さん『憧憬☆カトマンズ』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

気分すっきりなお仕事小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「私にふさわしいホテル」 柚木麻子

こんなブログをやっているだけあって、私は文章を読むのも書くのも好きです。昔は「小説家になりたいな」と思い、自作の小説をちまちま書いてみたりもしました。その内、書くより読む専門でいる方がいいと思うようになりましたが、ふと思いついた物語をあれこれ捏ね繰り回すのは結構面白かったです。

ですが、プロの作家にしてみれば、創作という行為は単純に「面白い」で済むものではないでしょう。物語に破綻がないよう細心の注意を払い、時代のニーズを考え、時には自ら営業活動を行って作品が多くの人に読んでもらえるよう努める。そして、それだけの努力を積み重ねても、作品が見向きもされないこともある。それがクリエイターの背負う宿業です。そんな小説家の悪戦苦闘を描いた作品といえばこれ、柚木麻子さん『私にふさわしいホテル』です。

 

こんな人におすすめ

文壇の悲喜こもごもを描いたコメディ小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ

「世界平和のためには、家に帰って家族を大切にしてあげてください」と言ったのはマザー・テレサ、「人生最大の幸福は家族の和楽」と言ったのは細菌学者の野口英世、「楽しい笑いは家の中の太陽である」と言ったのはイギリスの作家サッカレーです。どれもまったくその通りで、どんな家族の中で育ったかは、その後の人生を大きく左右すると言っても過言ではありません。愛に満ちた家族ならばこれほど幸せなことはないですし、殺伐として冷え切った家族なら人生はさぞ辛く寂しいものでしょう。

家族をテーマにした小説はたくさんありすぎて挙げるのに迷うほどですが、ユーモア小説なら奥田英朗さんの『家日和』や伊坂幸太郎さんの『オー!ファーザー』、虐待が絡むものは下田治美さんの『愛を乞うひと』や青木和雄さんの『ハッピーバースデー~命かがやく瞬間~』、ミステリー要素を求めるなら辻村深月さんの『朝が来る』などが有名です。どの作品にも読み手の胸に残る家族が登場しますが、最近読んだ小説に出てくる家族はとても魅力的でした。瀬尾まいこさん『そして、バトンは渡された』です。

 

こんな人におすすめ

家族にまつわる温かな小説が読みたい人

続きを読む