誰かに恋をすること、その人を大切に想うことって素敵です。小説でも漫画でも映画でも、恋の甘さや美しさを描いた作品はたくさんあります。
でも、恋愛って本当に甘く美しいだけのものでしょうか?誰かを想う気持ちがやがて歪み、暴走していくこともまたありうるでしょう。というわけで、今回ご紹介するのは、医学分野にも造詣の深い作家・岸田るり子さんの「白椿はなぜ散った」です。
幼稚園で出会ったハーフの少女・万里枝に一目惚れした主人公。彼は自分たちの間には運命的な絆があると信じ、万里枝から片時も離れず、幼馴染として見守り続ける。だが、成長した万里枝に恋の気配を感じた主人公は、それを阻止するため、美貌の異父兄に万里枝を誘惑するよう依頼する。愛する女性のための企みが、思いがけない悲劇を招く様を描いた哀しい愛憎劇。
何が怖いって、主人公が万里枝に向ける偏執的な愛情が怖すぎる!彼女の容姿に惹かれるだけでなく、体臭を嗅いでは興奮し、髪の毛を集めてはうっとり陶酔する様子は、まさにストーカーそのもの。第一章は、主人公がひたすらねっとりと万里枝を想い続ける描写で占められますが、これをただ薄気味悪いだけで終わらせないところに作者の力量が現れていると思います。
第二章からは一転して、人気作家の盗作疑惑から始まる殺人事件が描かれます。じっくり執拗な描写が続く第一章に対し、第二章は勢いがあってとてもスピーディ。第一章へと繋がっていく構成もしっかりしているので、サスペンスドラマ好きなら間違いなくはまるのではないでしょうか。
この作品に限った話ではありませんが、岸田るり子さんは男性のエゴや欲望の描き方がとても巧みですね。同性の心理描写に長けた作家さんは数多くいますが、異性の内面をここまで違和感なく書ける方はなかなかいない気がします。
また、お父様が医学博士というだけあって、医学分野に関する記述もかなり詳細。本作も含め、遺伝子・脳・細胞といったテーマが作品に取り上げられることも多いのですが、素人にもしっかり読ませる筆力には唸らされます。
話そのものはイヤミスに入るのでしょうが、フランスや京都の情景はとても美しく、登場する料理も美味しそう。特にヒロイン・万里枝のルーツであるフランスの郷土料理がものすごく魅力的に描かれています。あまりなじみのないフランス料理ですが、久しぶりに食べたくなりました。
愛と狂気は紙一重度★★★★☆
空腹の時に読んだら危険度★★★☆☆
こんな人におすすめ
・どろどろした恋愛小説が好きな人
ミステリーだけでなくこういう愛憎劇も描かれるのですね。
男性のエゴを巧みに描いた作品は読んでみたいです。
作家に限りませんが、いかに相手の気持ちを理解出来るか~が大切ですが異性の気持ちを理解するにはただ話を聞くだけでなくよほどのセンスがないと描けないのでは?と思います。
コナンドイルも森鴎外も手塚治虫も医者でした。医学と関係するストーリーも興味深いですね。
女性目線のドロドロ恋愛小説はたくさん読みましたが、男性が主人公の作品はあまり手を出したことがなかったので、とても新鮮でした。
男性が読んだ場合、主人公の心理をどう受け取るか、興味深いです。