クリスマス。それはイエス・キリストの降誕を祝う日であり、大事な人と共に過ごしプレゼントを贈る「愛」の日です。キリスト教徒ではない人でも、この日はなんとなく華やかで明るい気分になり、家族や恋人、仲間と楽しく過ごしたいと願うのではないでしょうか。
一年に一度のこの日には、人の絆を描いた作品を紹介したいと思います。二〇一四年に三浦貴大さん主演でドラマ化されたので、ご存知の方も多いかもしれませんね。数多くのドラマや映画の原作者としても名高い、有川浩さんの「キャロリング」です。
経営難のため十二月二十五日に倒産することが決まった子供服メーカー「エンジェル・、メーカー」。その社員である主人公・大和は、ひょんなことから、会社が運営する学童保育に通う航平が、不仲の両親を復縁させようと奮闘していることを知る。なりゆきで元交際相手の柊子とともに航平に協力することになった大和だが、そこに借金取立てを行うヤクザの誘拐騒動が絡んできてしまい・・・・・クリスマスに起こる奇跡の連鎖を描いたハートフルストーリー。
主人公が何者かに拳銃を突きつけられているという、なんともショッキングなプロローグで始まる本作。「クリスマスの奇跡をテーマにした作品では!?」と驚くかもしれませんが、ご安心あれ。その後の本章で時間が巻き戻り、ちょっぴり笑えてちょっぴり切ない、いつもの有川ワールドが始まります。
主人公の大和は、実父から家庭内暴力を受けた挙げ句、庇おうとした母親からも悪役扱いされた過去を持っています。また、小学六年生の航平は、頼りない父親とキャリアウーマンの母の離婚問題を目の当たりにし、心を痛めています。彼らが悩み傷つく描写が本当にリアルで、読んでいて胸が締め付けられるようでした。だからこそ、年齢差のある二人が憎まれ口を叩き合いつつ協力する姿に、心からエールを送れます。
彼らを取り巻くキャラクターたちも、これまた個性豊かで魅力的。大和と家庭観の違いから破局した柊子、大和を実の子同様に思う「エンジェル・メーカー」経営者の英代、航平の父親と恋のさや当てを繰り広げる老人・大嶽、一癖も二癖もある闇金業者たち・・・有川作品の場合、回想シーン等を除くと根っからの悪人が出てこないことが多いのですが、本作でもそれは同様です。登場人物たちそれぞれの過去と現在、話す言葉の一つ一つが心に染み入るようでした。これほど名言の多い小説って、そうそうないのではないでしょうか。
本作に登場するキャラクターに、ヒーローやヒロインはいません。全員が至らなかったり軽率だったりする部分を持ちつつも、大切な人のため悪戦苦闘しています。彼が見つけたクリスマスの奇跡とは何だったのか。ぜひご自分の目で確かめてください。
名台詞のオンパレード度★★★★☆
登場人物たちに幸多かれ度★★★★☆
こんな人におすすめ
・心温まるヒューマンストーリーが好きな人
大和と航平の複雑な家庭の事情~特、暴漢の父親と事なかれ主義の母親の下で育った大和にはかなり感情移入させられました。
キャリアウーマンの母親と頼りない父親に何とか仲直りしてもらおうと懸命になる航平だけでなく情を捨てきれないヤクザたちの生い立ちにまで共感させられました。
大和と柊子のラストとその後に希望が持てる良い作品でした。
クリスマスにちなんだ柊子の名前の意味~ラストの奇跡が印象的でした。
映画化された作品が観たくなりました。
私もヤクザ側にかなり感情移入してしまいました。
クリスマスシーズンに読むのがぴったりな、優しさに溢れる作品だと思います。
映像版もなかなかですよ。