はいくる

「死にゆく者の祈り」 中山七里

新年明けましておめでとうございます。令和初のお正月、いかがお過ごしでしょうか。二〇一六年に始まったこのブログは、今年で四年目を迎えます。今後も変わらず独断と偏見に満ちた内容になることが予想されますが、呆れずお付き合いいただければ幸いです。

毎年、新年一作目となる本を何にしようかと悩むのですが、今年は楽しみにしていた図書館の予約本がタイミング良く回ってきたので、悩む必要ありませんでした。二〇二〇年初投稿は、中山七里さん『死にゆく者の祈り』。ミステリーとしてだけでなく、仏教の在り方についても考えることができ、仏教校出身の私には興味深かったです。

 

こんな人におすすめ

冤罪が絡んだミステリーが読みたい人

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再会した命の恩人は、死刑囚だった---――浄土真宗の僧侶であり、囚人相手に宗教教誨を行う教誨師の顕真。ある時、彼は偶然にも、かつての友人であり命の恩人でもある関根が死刑囚となっていることを知る。あの関根がそれほどの罪を犯したというのか。衝動に突き動かされた顕真は教誨師として関根と接するようになり、その結果、彼が起こした事件に疑問点があることに気付く。刑事の協力を得て事件を密かに再調査し始める顕真だが、関根の死刑執行日は刻一刻と迫っていた・・・・・罪と罰の意味を問う、著者渾身のミステリー

 

新刊が出るたびに「この職業を主役に持ってきたか!」と驚かされる中山さんが、本作の主役に据えたのは教誨師。受刑者の育成や精神的救済のため教誨を行う方のことです。故・大杉漣さんの最後の主演映画『教誨師』の存在もあり、ここ数年で世間一般の認知度が急激に増した気がしますね。それでも、教誨師が事件解決のため奔走するミステリーというのは珍しいので、中山さんが題材にしてくれて嬉しいです。

 

僧侶である教誨師・高輪顕真は、ある時、友人の関根が死刑囚となっていることを知ります。関根は大学時代、顕真と同じ山岳部であり、かつて山で危うく死ぬところだった顕真を救ってくれた人物でもありました。そんな彼が犯したのは、若いカップルの殺害事件。あの関根がそれほど凶悪な事件を起こしただなんて信じられない。ですが、事件後に関根は自首しており、死刑判決後も控訴せず、有罪は疑いようがない状況でした。不審に思った顕真は、教誨師として関根のもとに通い出すと同時に、事件について水面下で調べ始めます。すると、そこから不可解な点がいくつか浮かび上がってきました。

 

このあらすじを読んでも分かる通り、主人公の顕真はすごく能動的かつ積極的です。「関根が衝動的に殺人を犯すなんておかしい」という思いを原動力に、頼まれたわけでもないのに死刑囚の関根にコンタクトを取り(教誨師なので会うことはできる)、刑事・文屋を拝み倒して密かに事件を再調査してくれるよう依頼。自ら袈裟を翻し、文屋とともに関係者を回って事件について調べます。教誨師が出てくるフィクション作品は他にもありますが、これほどぐいぐい事件に突っ込んでくる話はなかなかなく、すごくインパクトありました。

 

と、こんな感じで調査パートはパワフルかつ勢いがあるのですが、本作にはまた別の側面があります。それは、顕真が囚人たちに仏道を説く教誨師パート。罪を犯した者の精神的救済が目的なわけですが、中には死を待つ死刑囚もいます。彼らは凶悪犯罪を起こしており、遺族からは「あんな奴らに救いなど与えるな」「人を殺しておきながら、自分はのうのうとお坊さんとお喋りか」という怨嗟の声が上がります。また、どれほど教誨を行おうと、囚人に平安を与えられないこともあります。自分の務めは何のために在るのか、自問を繰り返す顕真の心の叫びが重く、苦しかったです。特に序盤、顕真が担当していた死刑囚が「怖い。死にたくない」と叫びながら死刑執行される場面は強烈で・・・この辺りだけは、読むのに覚悟が要るかもしれません。

 

とはいえ、そこはやっぱり中山さん、相変わらずリーダビリティの高い文章のせいですいすい読ませてくれます。不満点を挙げるとすれば、テーマの重さに反してボリュームがさほど多くない分、謎解きがかなり駆け足で行われることくらいでしょうか。顕真だけでなく、刑事の文屋や一癖ありそうな弁護士・江神など、個性的な登場人物が多かったので、もう少し長編でじっくり描いてくれても良かったかなと思います。まあ、中山ワールドですから、彼らがこれから他作品に出てくる可能性も高いですよね。楽しみに待ってます!

 

クライマックスの行動が凄すぎる!度★★★★★

贖罪とは一体何なのか・・・度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

    教誨師という存在を知ったのはテレビでアニメとドラマで観たことがありましたが、苦教誨師という名前さえ知らないという程度でした。
    教誨師としての仕事内容や僧侶の現状までリアルに描いてあり、主人公の深い人生背景まで波乱万丈でさらにどんでん返しとさすが中山七里さんだと感じました。
    おそらく中山作品に今後も登場しそうで、楽しみです。

    1. ライオンまる より:

      本筋だけでなく、主人公の過去の描き方も丁寧でしたね。
      最後の立てこもりシーンは、まるで映画のような大迫力!
      ただ、中山ワールドのお約束である他作品とのリンクはなかったようなので(ありました?)、今後、顕真がどこかで出てくることを期待します。

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