はいくる

「出版禁止 いやしの村滞在記」 長江俊和

新年明けましておめでとうございます。二〇一六年に開設した当ブログは、あと数カ月でめでたく六年目を迎えます。開始当初は、三日坊主になるのではないか、ちょっと不安だったものですが、閲覧してくれる皆様のおかげでここまで続けることができました。相変わらず趣味丸出しの偏ったレビューサイトになると思いますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

毎年、その年最初の記事を書くたび、「新年くらいすっきりハッピーエンドのおめでたい小説を取り上げよう」と思うものの、なかなか実現していないのが現状です。ハッピーエンドの話も大好きなのですが、振り返ってみると、なぜかイヤミスやホラー寄りの読書歴になっているんですよね。それがこのブログの特色ということで、二〇二二年一発目はこの小説にしようと思います。長江俊和さん『出版禁止 いやしの村滞在記』です。

 

こんな人におすすめ

ルポルタージュ風のどんでん返しミステリーが読みたい人

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妻は呪い殺されたのではないかと思うのです---――悲しむ夫の依頼を受け、山奥に存在する<いやしの村>への取材を試みたルポライター。予想に反し、村人達は誰もがにこやかで、ライターに対しても好意的だ。自分の勇み足だったか?半信半疑のまま取材を続けるライターの胸を、微かな違和感がよぎる。ネット上にはびこる黒い噂、<いやしの村>周辺地域に伝わる不気味な伝承、明るく微笑む村人達が背負った壮絶な過去。やがてライターが見た、あまりに残酷な真実とは・・・・・読者を騙しの世界へ誘う、『〇〇禁止シリーズ』待望の第七弾

 

前作『恋愛禁止』は、主人公の心理描写が丁寧な分、『〇〇禁止シリーズ』お約束の仕掛けがやや少なめな印象でした。それを物足りないと思った読者の方は、本作を読めばきっと大満足するのではないでしょうか。序盤からふんだんに用意された仕掛けの数々といい、終盤で「えーっ!!」と仰天させられる展開といい、まさに『〇〇禁止シリーズ』の真骨頂。最初に言っておきますが、間違っても二七○ページ以降を先に読んではいけませんよ。

 

心身に深いダメージを受けた人々が傷を癒すため共同生活を送る<いやしの村>。村人達は穏やかで優しく、多額の金銭を撒き上げられたり、暴力で支配されたりしている様子もなし。一見、明るい理想郷に思えるものの、村には<呪いで人殺しを請け負ってくれる><村人は狂っているから絶対に関わるな>という噂がありました。かつて淡い想いを寄せていた女性が、その村と関わった後に不審死を遂げたと知ったライターは、意を決して突撃取材を試みます。ところが、予想外に村人達の反応は好意的であり、村の生活も平和そのもの。呪いというのは、ただの中傷に過ぎないのか?訝しむライターですが、村付近で過去に凄惨な殺人事件が起こっていること、周辺地域には古来より呪術の伝説が伝わっていることもまた事実。調査を続ける内、ライターは決して引き返せない世界へ足を踏み入れていくのです。

 

<黒い疑惑のある村を直撃取材する>という部分は、テレビ版『放送禁止 しじんの村』と共通しています。ただ、あちらが次々自殺者を出している不気味な村だったのに対し、本作に登場する<いやしの村>は妙な噂があるだけで、内情は至って平和な村。村人達は全員穏やかに暮らし、トラウマから立ち直った村人が出ていく時は喜んで送り出します。洗脳されたり、財産を没収されたりしている様子も一切なし。その平和さ、明るさは、それなりに経験を積んできたはずのライターでさえ拍子抜けしてしまうほどです。

 

ただ、ものすごく平和な村を描写しているはずなのに、文章が妙に読みにくいというか、違和感があるんです。大変失礼ながら、「長江俊和さん、執筆中にコンディション悪かったのかな?」と一瞬とはいえ思ってしまいましたが・・・・・二七〇ページをめくった瞬間、「えええーっ!!」とびっくり仰天。これまでの違和感が全部トリックの内だったと知り、目の玉が飛び出そうなほど驚かされました。よく小説のコピーで<二度読み必須>という文言が出てきますが、本作ほどその言葉がぴったりな作品って、なかなかないのではないでしょうか。

 

そして、長江作品を読む上で欠かすことのできないお楽しみと言えば、ネット上の考察サイトを読むこと。本作でも、すでに読了された方達が、あそこは伏線だここも仕掛けだと、楽しく検討し合ってくれています。この考察を読んだ上で再読すると、本作の面白さが二倍にも三倍にもなるんですよ。ドラマや映画といった映像作品ならともかく、小説でこういう楽しみ方ができる作品は少ないですよね。私は<ろろる>は気づいたけど<幸せの丸い貝>はスルーしていたので、考察サイトの存在がつくづく有難かったです。

 

ただ、私は唯一不満な点があります。本作には、カバーを取ってみることで何らかの仕掛けがなされていることが分かるそうなのですが、図書館本はカバーが本体にぴったりくっついているので、その仕掛けを見ることができないんです。近所の本屋では取り扱っていなかったし、そもそも本屋の店先で買いもしない本のカバーを外してみるってマナー違反な気がするし・・・と悶々としています。そのうち、誰かがネタバレ感想をアップしてくれるのを待つというのは、他力本願が過ぎるかな(汗)

 

仕掛けの構成が緻密すぎる・・・★★★★★

終盤のグロテスクさには要注意!度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

     新年明けましておめでとうおめでとうございます。
     今年もよろしくお願いします。
     ブログも六年目になるのですね。これからも楽しみにしてます。
     禁止シリーズの最新刊で内容も面白そうです。中山七里さんと櫛木理宇さんの雰囲気も感じます。

    1. ライオンまる より:

      こちらこそ、どうぞよろしくお願いします!
      まだまだコロナは収束しそうにありませんが、いい年になるよう願ってやみません。

      ちょっとテイストが変わった「恋愛禁止」と違い、いかにも「〇〇禁止シリーズ」らしい作品でした。
      田舎での惨劇というと、櫛木理宇さんの著作にもありましたね。
      ただ、ルポ形式のせいか、あんまり陰気でドロドロ感じはありません。
      終盤、かなりスプラッターな場面があるので、そこは苦手な人も多そうですが・・・

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