<クロスオーバー>という手法があります。これは異なる作品同士が一時的にストーリーを共有する手法のことで、主にアメリカンコミックの世界で発達したのだとか。映画化もされた『アベンジャーズシリーズ』で、アイアンマンやハルク等、違う作品のキャラクター達が共演して大活躍したことは、ご存知の方も多いと思います。
もちろん、小説分野でもクロスオーバー作品はたくさん存在します。その中で一つ挙げてみろと言われたら、中山七里さんの作品を出す方が多いのではないでしょうか。『静おばあちゃんと要介護探偵』では高円寺静と香月玄太郎が共闘し、『作家刑事毒島』には『刑事犬養隼人シリーズ』の登場人物が多数出てきます。それからこの作品でも、意外すぎるキャラ同士が共演しているんですよ。今回は、中山七里さんの『嗤う淑女二人』を取り上げたいと思います。この作品の性質上、『連続殺人鬼カエル男シリーズ』のネタバレに触れざるを得ないので、未読の方はご注意ください。
こんな人におすすめ
最恐悪女の無双ぶりを読みたい人
同窓会会場で起きた大量毒殺事件、観光ツアー中のバスを襲った爆発事件、中学校で発見された焼死体・・・頻発する凶悪事件に、逃亡中の殺人犯・有働さゆりが関わっていることが分かり、驚愕する捜査陣。だが、警察にすら気取られず暗躍するもう一つの悪意があった。ただ退屈を紛らわせたいから。それだけの理由で命を蹂躙し、踏みにじっていく悪魔を捕らえることは、果たしてできるのか。『嗤う淑女』の蒲生美智留と、『連続殺人鬼カエル男』の有働さゆりが共演する、ダークヒロイン・ミステリーシリーズ第三弾
出版社の枠さえ超えて登場人物を共演させるのが、中山ワールドの特徴です。とはいえ、悪役同士が手を組むという展開は本作が初ではないでしょうか。しかも共闘するのはそんじょそこらの悪役ではなく、現代ミステリー史上に名を残すレベルの凶悪さを誇る蒲生美智留と有働さゆり。刊行情報を知った時から楽しみにしていましたが、やっぱり期待通りの面白さでした。
某中学校の同窓会会場で、乾杯後に参加者達が飲み物を飲んだ途端、辺りは地獄絵図と化します。飲み物に毒物が混入されており、十七人が死ぬ大惨事となったのです。犠牲者の一人が握り締めていた<1>と書かれた紙。それから間もなく、ツアー中のバスを襲った炎上爆破事件、突如出火した中学校から発見された死体、スポーツジムの爆発事件と、立て続けに事件が起こり、いずれも多数の犠牲者が出ます。それぞれの事件で、被害者の一人が<2>から<4>までの番号を所持していたことに気付いた捜査陣は、これが同一犯による連続殺人だと推測。どの事件も、発生前後に有働さゆりらしき女性が出入りしていたことが発覚するも、捜査一課の麻生は違和感を抱きます。これまで有働さゆりが起こした事件と、今回の四つの事件とでは、明らかにやり口が異なっていたからです。捜査を進め、とある敏腕弁護士の指摘を受けた関係者は、一つの結論にたどり着きました。有働さゆりの背後に、彼女を動かす黒幕がいる。ですがその時、二人の悪魔は、第五の事件を起こそうと動き出していたのです。
シリーズ三作目ということもあり、いきなり本作から手を出す方は恐らく少数派だと思います。また、<蒲生美智留と有働さゆりは、いずれも過去に凶悪事件を起こした犯罪者である>と認識して読み始める読者が多いのではないでしょうか。中山七里さんもその点をよく承知しているのか、序盤から大量虐殺に次ぐ大量虐殺!『切り裂きジャックの告白』『人面瘡探偵』等々、連続殺人を扱った中山作品はたくさんありますが、これだけ多数の犠牲者を出す作品はなかった気がするので、一体事件がどう落着するのか、最初から最後まで手に汗握りっぱなしでした。
何より面白かったのは、美智留とさゆりが手を組むことで各々の気質の違いが浮かび上がるという点です。『連続殺人鬼カエル男シリーズ』でも明らかなように、有働さゆりには(常人に理解できるか否かは別として)明確な犯行動機があります。その手口にしても、自ら標的の前に現れて犯行に及ぶというパターンが多いです。一方、蒲生美智留には分かりやすい動機の類はなく、せいぜい<他人が苦悶し懊悩する様を見下して嗤いたいから>程度のもの。標的を煽動して思い通りに操ることはしても、自身の手を物理的に汚して殺人を犯すことは少ないです。狡猾な美智留と、凶暴なさゆり。二人の悪女が共闘した時の相乗効果は、それはもう凄まじいものでした。途中までは美智留の黒幕ぶりが目立ち、さゆりが操り人形と化しているように思えるかもしれませんが・・・・・終盤のさゆりの行動で、あの美智留さえ意表を衝かれるという展開はとてもスリリング。さゆりはやはり古手川の手で引導を渡されてほしいので、美智留にしてやられなくて良かったです。
また、被害が甚大なだけあって関わる捜査関係者の数も多く、必然的に中山ワールドのキャラクターが多数登場する点も、ファンにとっては嬉しいですね。麻生と古手川はもちろんのこと、宮藤や葛城、果ては御子柴弁護士まで!海千山千の御子柴が、まっすぐで人の好い葛城相手にはいつもの悪辣ぶりを発揮できないというところに、なんだかニンマリしてしまいました。こうして見ると、葛城も成長したなぁ。
過去の『嗤う淑女シリーズ』を読んでいないと意味が分からない箇所がある点、前書きの通り『連続殺人鬼カエル男シリーズ』のネタバレがある点の二つさえ気を付けておけば、とても満足度の高い作品だと思います。それにしても、この悪女達の鼻っ柱をへし折れる人間ってこの世にいるの・・・?御子柴弁護士ならできるかと思っていましたが、もう有働さゆり側の関係者として登場しちゃったんですよね。最後の砦は毒島刑事かなと思いますが、いかかでしょうか。
あまりにも酷い大量殺人のオンパレード・・・度★★★★★
二人の悪女の行く末が怖すぎる度★★★★★
最凶女子の二人がタッグを組むことで1+1が10になるほど被害が加速していると感じました。爆破テロかヤクザの全面戦争?と思うような過激な事件を冷徹に行う様子はゾクッとしました。中山作品に通じていないと面白くないかも知れません。毒島元刑事や岬洋介、能面検事との対決が楽しみです。
凄まじい相乗効果でしたね。
もはやテロ組織並の凶悪事件の数々に、ハラハラドキドキしっぱなしでした。
能面検事との対決も見たい!!
本当は要介護探偵ともぶつかってほしいのですが・・・故人なのが惜しまれます。