今までこのブログでは、<怖い女>が登場する小説をたくさん取り上げてきました。別に狙ったわけではありませんが、それらの小説の大半は、作者が女性だった気がします。女性作家の手で綴られる女の狂気や愛憎の恐ろしさはやはり格別。読んでいて鳥肌が立ちそうになることすらあるほどです。
その一方、男性作家が描く<怖い女>の中にも、強烈な猛者がうようよいます。男性作家の場合、悪女に翻弄される男性被害者の描写にも力が入るんですよね。この辺りは、中山七里さんの『嗤う淑女』や、五十嵐貴久さんの『リカ』などを読めば実感できると思います。例に挙げた二作品は、どちらも一人の<怖い女>が活躍(?)する話なので、今回は多種多様な<怖い女>が登場する作品をご紹介します。作家だけでなく冒険家としての顔も持つ、柴田哲孝さんの『怖い女の話』です。
こんな人におすすめ
女性の狂気をテーマにしたサイコサスペンスが読みたい人
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今更言うまでもない話ですが、殺人という犯罪は多くのものを奪っていきます。被害者本人の命や尊厳はもちろん、その家族の人生をも大きく揺るがし、ひっくり返し、時に破壊してしまうことすらあり得ます。昔見たドラマで、息子を殺された父親が言っていた「家族全員殺されたようなものだ」という台詞は、決して大げさなものではないのでしょう。
そんな被害者遺族の苦しみをテーマにした作品はたくさんあります。有名なものだと、東野圭吾さんの『さまよう刃』や『虚ろな十字架』、薬丸岳さんの『悪党』といったところでしょうか。今回取り上げる小説にも、理不尽な犯罪に傷つき苦しむ遺族が登場します。櫛木理宇さんの『ぬるくゆるやかに流れる黒い川』です。
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歴史的要素の絡んだサスペンスが読みたい人
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季節は夏真っ盛り。この時期は全国各地で楽しいイベントが催され、どことなく明るいムードがそこここに漂います。夏という季節は私達に活気をもたらしますが、同時に、胸を打つ悲しい事実をもまた思い起こさせます。それが戦争です。
一九四五年八月、日本には二つの原子爆弾が落とされ、終戦を迎えました。唯一の被爆国である日本が平和の大切さや戦争の悲惨さを訴える機会は多いですが、この時期はそれがより顕著に表れます。今回は、戦争にまつわる悲劇を扱った作品を取り上げたいと思います。小説家だけでなくイラストレーターとしての顔も持つ、長野まゆみさんの『八月六日、上々天気』です。
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戦時中の人間模様をテーマにした作品が読みたい人
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以前、別作品のレビューで、「<家>という場所には、人をとらえるイメージもある」と書きました。一説によると、<家>は<宀(家)>と<豕(豚)>が組み合わさってできた漢字であり、<豚などの家畜を生贄に捧げた呪法的な護りのある場所>という意味があるんだとか。どの程度信憑性がある話かは分かりませんが、もしこれが本当なら、<家>がホラーやミステリーの舞台になりやすいのも納得です。
前回ご紹介した<家>にまつわる作品はホラーだったので、今回はミステリーを取り上げたいと思います。歌野晶午さんの『家守』。この方の短編集を読むのは久々ですが、安定の面白さで大満足でした。
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<家>をテーマにしたミステリー短編集が読みたい人
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ミステリーには、<主役にしやすい職業>というものがあります。高い調査能力や行動力を持ち、事件と関わる確率の高い職業の方が、物語を始めやすいですからね。たとえば刑事や弁護士、検事、ジャーナリストなどなど。探偵もその一つです。
日本の名探偵といえば金田一耕助や明智小五郎などが有名ですが、現代日本において探偵が堂々と大事件に関わる機会はそうそうありません。現代では<探偵事務所>や<興信所>の職員が、人探しや素行調査を行う過程で事件と関わるというパターンが多いです。加納朋子さんの『アリスシリーズ』、柴田よしきさんの『花咲慎一郎シリーズ』などがそうですね。今回ご紹介する小説もその一つ。真梨幸子さんの『初恋さがし』です。
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テンポの良いイヤミスが読みたい人
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芸能人が小説を書くケースは多いです。その際、「芸能人に小説が書けるのか」という批判が巻き起こるのはお約束。特に、その芸能人が華やかな経歴の持ち主だった場合、批判が激しくなる傾向にあるようです。
ですが、芸能人に小説が書けないと決めつけるのは偏見というものでしょう。文学史上の例を挙げると、『クリスマス・キャロル』などで有名な世界的文豪チャールズ・ディケンズは、役者としての顔も持っていました。現代日本にだって、優れた小説を書く芸能人、あるいは元芸能人は大勢います。その中で私のお気に入りは藤崎翔さん。最近読んだ『指名手配作家』も、スピード感に溢れていて面白かったです。
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コメディタッチの逃亡劇が読みたい人
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「用があって警察署に行ってきたよ」と言われたら、「え?警察署?何で?」と思う人が多いのではないでしょうか。では、「交番に行ってきたよ」ならどうでしょう。時と場合にもよりますが、私なら「落とし物か何かあったのかな」と軽く流す可能性が高いです。交番は警察署と比べ、生活に密着した印象がありますよね。
もちろん、交番の仕事が気楽だなどと言うつもりは毛頭ありません。交番に勤務する警察官が襲撃される事件は現実でも起こっています。また、小説でも、乃南アサさんの『新米警官・高木聖大シリーズ』や、米澤穂信さん『満願』収録の「夜景」などで、交番で働く警察官たちの苦悩や葛藤が描かれています。今回ご紹介するのは、一風変わった交番勤務の警察官が登場する小説です。降田天さんの『偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理』です。
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倒叙ミステリー短編集が読みたい人
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短編集の中には、<連作短編集>という形態があります。話同士が何らかの繋がりを持った短編集のことで、登場人物や場所が共通しているパターンが多いですね。いくつかの話をまとめると一つの大きな物語が出来上がることもあり、長編・短編とはまた違った面白さがあります。
これまで読んだことのある連作短編集では、有川浩さんの『阪急電車』、東野圭吾さんの『ナミヤ雑貨店の奇跡』、若竹七海さんの『ぼくのミステリな日常』などが面白かったです。今回ご紹介するのは、今邑彩さんの『つきまとわれて』。まさに連作短編集ならではの面白さを堪能できました。
こんな人におすすめ
・連作短編集が好きな人
・毒のあるミステリーが読みたい人
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社会には様々な仕事、様々な勤務形態が存在しますが、その中に<非常勤>というものがあります。簡単に言えば、労働時間がフルタイム勤務者より短い労働者のことで、単純な補助作業を行う者もいれば、法律や税制のような専門知識を駆使して働くケースもあります。非常勤労働者を使う業界・会社は多いですが、中でも一番耳にするのは教育現場での<非常勤講師>ではないでしょうか。
教諭の席に空きがないため非常勤として働くしかなく、不満を抱える人も当然いるでしょう。しかし、非常勤という形態は、デメリットばかりではありません。他に目指す仕事があり、一時的に収入を得られればいいと思う人だっているはずですし、非常勤だからこそしがらみもなく公平な目で物事を見ることだってできると思います。そんな非常勤講師が登場する作品がこちら、東野圭吾さんの『おれは非情勤』。この先生、かなり好きです。
こんな人におすすめ
ジュブナイルミステリー小説が読みたい人
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生まれ変わり、輪廻転生、リインカーネーション。生き物が死後に再び肉体を得てこの世に戻ってくるという考え方は、世界中に存在します。この思想を信じるか否かでは意見が分かれるのでしょうが、私自身はかなり信じている方。実際、偶然や勘違いでは片づけられない事例もたくさんあるようです。
想像の余地が多いにあるテーマだからか、生まれ変わりをテーマにした創作物はたくさんあります。私のお気に入りは恩田陸さんの『ライオンハート』と北村薫さんの『リセット』。生まれ変わって大切な人と巡り合う奇跡に胸が熱くなりました。この二作品は、生まれ変わりの切なさや喜びを描いているので、今回は少し趣の異なる作品を取り上げたいと思います。歌野晶午さんの『ブードゥー・チャイルド』です。
こんな人におすすめ
・生まれ変わりに興味がある人
・どんでん返しのある本格ミステリが好きな人
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