はいくる

「お隣さんが殺し屋さん」 藤崎翔

現在地方在住の私ですが、一時期、首都圏に住んでいたことがあります。上京した時は、生まれて初めてのお江戸暮らしにわくわくどきどき。芸能人と会えるかな、ドラマの撮影現場に出くわすかなと、胸を高鳴らせていました。まあ、実際はそうドキドキすることがあるわけもなく、ごく普通に生活していただけですけどね。

新しい環境での生活を始めるとなると、誰でも多かれ少なかれ緊張したり期待したりすると思います。楽しい出来事があるといいけれど、もしかしたら危ない目や怖い目に遭うかもしれない。命の危険さえ感じる出来事があるかもしれない。たとえば、新居の隣人がとんでもない人物だったりとか・・・・・今回取り上げる藤崎翔さん『お隣さんが殺し屋さん』には、そんな驚愕の「お隣さん」が登場します。

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専門学校に入学し、都会暮らしを始めた美菜。生まれ育った故郷とはまるで違う環境に戸惑いつつも順応していく中、隣室に住むミステリアスな青年・雄也に恋心を抱く。雄也もそんな美菜に好感を持ちつつ、危機感を抱いてもいた。なぜなら、過去の仕事で使った銃弾をうっかり美菜に見られてしまっていたから・・・・・繰り返される殺人は、凄腕の殺し屋「ビッグ」の仕業なのか。大どんでん返しが読者を襲う、驚愕必死のユーモアミステリー。

 

本の帯にでかでかと「302ページから起こることは決して誰にも言わないでください!」と書かれた本作。「ふむふむ、衝撃的な展開が待っているのね」と心構えしつつ読みましたが、終盤の種明かしではビックリ仰天。藤崎さんは『神様の裏の顔』『私情対談』などのどんでん返しミステリーを書いていますが、一段とスキルを上げたなぁという印象です。

 

ヒロインの美菜は、牧場暮らしから一転、上京し一人暮らしを始めた専門学校生。幸い友達やアルバイト先にも恵まれ、順調な都会生活を送るようになります。そんな美菜が恋心を抱くのは、隣室に住む長身の青年・雄也。強面ながら親切で、どことなく陰のある雄也に、美菜はどんどん惹かれていきます。ですが、雄也には、知られざる別の顔があったのです。

 

最近読んだ小説の中で、伏線の張り方の巧妙さ、その回収方法の丁寧さではトップクラスに入る作品だったと思います。決してアンフェアな記述はせず、それでいて読者をしっかり騙す仕掛けの数々は実にお見事。おまけに終盤では、関係者Aが事態を理解できない関係者Bに対し、回想シーンを交えつつ状況説明を行うという親切な構成です。本当にちょっとした描写が伏線だったりするのですが、この説明場面のおかげで見逃さずに済みました。

 

もう一つ印象的だったのは、世界観が本当に精密に作り込まれていること。特に、主軸となる殺し屋組織の運営や殺害方法、その後の隠蔽の仕方などに説得力があり、「これって本当にビジネスになるんじゃ・・・」と思うほどでした。それ以外にも、美菜が通う専門学校の様子や、友達同士の他愛ないやり取りがリアリティたっぷり。「些細なことがツボにハマって大笑いする女性陣と、何がおかしいか分からず首を傾げる男性陣」なんて、いかにも現実でありそうですよね。

 

殺し屋が登場するだけあって、殺人や死体処理など、それなりに残酷な場面もあります。ですが、さらりと描写してあるので、読むのがきついということはないでしょう。また、本作で登場する殺し屋は、レイプ魔やDV男、悪質な詐欺集団などの悪者を成敗するという存在なので、殺人シーンは結構痛快だったりします。繰り返しますが、302ページから怒涛のどんでん返しが始まるので、間違ってもうっかりそこから読むことのないようご注意ください。

 

殺し屋さんの正体とは・・・度★★★★☆

タイトルも伏線だよ度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

どんでん返しのあるユーモアミステリーが読みたい人

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コメント

  1. しんくん より:

    「神様の裏の顔」以来です。
    殺し屋でも、昔の「必殺仕事人」「ハングマン」のように悪人を成敗するストーリーとは興味深いです。
    どんでん返しも気になります。

    1. ライオンまる より:

      「神様の裏の顔」より筆力がグンと上がった感じで面白かったです。
      ダーティーな雰囲気があまりないので、ハードボイルドな殺し屋小説が苦手な人でも大丈夫だと思います。
      怒涛のどんでん返しにはビックリですよ。

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