はいくる

「オーブランの少女」 深緑野分

近所の図書館は視聴覚資料のラインナップがけっこう豊富です。大ヒットした大作映画はもちろん、ミニシアター系の小品からウケ狙いとしか思えないB級映画まで、バラエティ豊かに揃えられています。先日、その中にお気に入りの作品があるのに気付き、久しぶりに借りて鑑賞しました。ルシール・アザリロヴィック監督の『エコール』。閉ざされた学校で不思議な共同生活を送る少女たちの姿が、なんとも幻想的で美しかったです。

「子ども」がテーマの創作物はたくさんあります。特に「少女」がキーパーソンだった場合、「少年」の時と比べてより妖しく、より残酷な存在になることが多い気がしますね。そんな美しくも謎めいた少女達を扱った作品がこれ、深緑野分さん『オーブランの少女』です。

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隔離された庭園で暮らす少女達の運命、醜く美しい姉妹に魅せられた医師の罪、小さな料理店を訪れた少女の正体、寄宿舎で暮らす女学生の秘密、美貌の皇女の企みに巻き込まれた一家の悲劇・・・・・様々な世界を生きる、したたかで美しい少女達を描いたミステリー小説短編集。

 

いいですねぇ、この耽美的なムード。作者の深緑さんがものすごく楽しんで書いたであろうことが伝わってくる、繊細で美しい描写の数々に魅せられっぱなしでした。それなりにグロテスクな場面もあるんですが、表現が情感たっぷりで綺麗なせいか、不思議とすいすい読めてしまいます。すべての作品に漂う物悲しく皮肉っぽい雰囲気も、イヤミス好きな私のツボでした。

 

「オーブランの少女」・・・美しい庭園で起きた凄惨な事件。管理人の老姉妹の内、姉が謎の老婆に殺され、老婆は何も語らぬまま衰弱死。残った妹は縊死したのだ。やがて見つかった妹の手記。そこには、かつてこの庭園で暮らしていた少女達のことが書かれていて・・・

深緑さんの豊かな表現力がこれでもかと発揮された力作です。花が咲き誇る庭園と、その中の屋敷で隔離されて暮らす少女達、彼女らに課された謎の規律。それらの描写が美しい分、後半、少女達が不審死を遂げていく展開にはゾッとさせられました。そして明かされる、あまりに残酷な真実・・・幻想的な雰囲気を一気に現実に引き戻す構成がお見事です。

 

「仮面」・・・一九世紀のロンドン。質素な暮らしを送る医師は、偶然出会った美しい踊り子に心奪われる。彼女には醜い姉がいて、医師の患者である裕福な夫人の下で働いていた。姉妹の哀れな境遇を知った医師は、二人のために夫人を殺す決意をするのだが・・・・・

ヴィクトリア朝独特の、豊かでいてどこか淫靡な空気が巧く表現されていました。二目と見られぬほど醜い姉と、この世のものとは思えないくらい美しい妹。対照的な二人と知り合い、恐らく人生初の恋心のため行動する医師の運命が哀しくも恐ろしいです。読み終えてみると、タイトルがなんとも意味深ですね。

 

「大雨とトマト」・・・暴風雨の中、一人の少女が料理店を訪れる。彼女が父親探しをしていると聞いた店主の脳裏に浮かぶ、十六年前の記憶。まさかこの少女は、あの時の過ちの果てに生まれた子なのか?焦る店主を待ち受ける、あまりに皮肉な真実とは。

前二話とは打って変わって、ブラックユーモアの効いた小話です。かつての浮気相手に子どもが生まれていたのかと、あたふた考え込む店主の内心がなんともユーモラス。真相自体は割とよくあるパターンなんですが、小気味良く進むため飽きさせません。ラスト一行でスパッとオチをつけるところ、ショートショートっぽくて好きです。

 

「片想い」・・・昭和初期、寄宿学校に通う薫子は、大柄でがっしりした女学生。同室の可憐な女生徒・環は、その容姿や立ち居振る舞いのため学内の憧れの的だ。ある日、薫子は環の実家から遣わされた女中とたまたま出くわすのだが、その時にふと違和感を感じ・・・

仲の良い女生徒同士で「エス」(シスターの頭文字)と呼び合い、ラブレターを送る・・・うーん、いかにも戦前の女学校っぽい!女学生達のきゃぴきゃぴした感じとか、集団になると底意地が悪くなるところとかもリアリティあります。それなりに切なさのある話なんですが、主人公・薫子のサバサバしたキャラのせいか、後味は悪くありませんでした。

 

「氷の皇国」・・・漁村に流れ着いた首なし死体から甦る、あまりに哀しい物語。その昔、暴君に支配された国には、美しく強かな皇女がいた。欲しいものすべてを手に入れずにはいられない、傲慢な皇女が最も望んだものとは・・・・・

収録作品中最長のボリュームがあり、唯一、架空の世界(イメージは北欧?)を舞台にした作品です。ファンタジーめいた世界観ながら、謎解きはものすごくロジカルな安楽椅子探偵もの。こういう圧政の弊害って、現実世界でも起きているんだろうなと思わせるところが哀しいです。終盤の謎解きシーンの迫力は一読の価値ありますよ。

 

深緑さんは『戦場のコックたち』で世間の注目を集めましたが、あちらが戦場という生々しい世界を舞台にしていたのに対し、本作はどこか幻想的で耽美的。それでいて現実の残酷さ、やりきれなさも表されているんですから、つくづく引き出しの多い作家さんだと思います。今後の活躍が楽しみですね。

 

美しくて、可憐で、残酷で・・・度★★★★★

最後の余韻が素晴らしい度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

少女たちの残酷さや強かさを扱った小説が読みたい人

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コメント

  1. しんくん より:

    「戦場のコックたち」以外は読みたいと思う作品はなかったですがこれは興味深いです。海外のエピソードを日本人目線で語られる展開に惹かれそうです。
     バラエティーにとんだ短編集でかなり楽しめそうです。

    1. ライオンまる より:

      個人的には「戦場のコックたち」よりこちらの方が好きです。
      いい意味で日本人作家らしくない文章や描写に好き嫌いが分かれるようですが、私にはツボでした。

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